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日本IBMがOpen Cloud戦略を解説、オープン化によってさらなる市場の拡大に期待

スマーター・クラウド事業部 理事 クラウドマイスター 紫関昭光氏

 日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)は13日、Open Cloud戦略に関する説明会を開催。その意図と目標などを、スマーター・クラウド事業部 理事 クラウドマイスター 紫関昭光氏が解説した。

 3月4日(米国時間)に米IBMが発表したOpen Cloudは、業界にかなりの驚きを持って迎えられた。紫関氏によれば、その要旨は、OSSベースでのクラウド実装を進めていくこと、そしてIBMのすべてのクラウドサービスとソフトをOpen Cloudアーキテクチャベースにのっとって提供していくこと、の2つだ。

 では、この狙いは何なのか。それは、「グローバルのクラウドサービスにおいて、IaaS、PaaSでは移行性や互換性が担保されていない」(紫関氏)ことを解決するためなのだという。IBMをはじめ、Amazon Web Services(AWS)、Google、Microsoft、salesforce.comといったベンダーの間で、IaaSあるいはPaaSのサービスが提供されているが、残念ながらこれらの間では完全な移行性が保証されてはいない。

 特に、PaaSの部分ではハードルが高く、移行は不可能ではないにしても実行時のコストが高額になってしまう点を紫関氏は問題とするほか、「ほとんどのベンダーがPaaSはパブリッククラウドのみで、プライベートクラウドへ切り替えたいと思ってもできない。クラウドの利点で小さく始めても、大きく育てると“レンタル料”も大きく育ってしまうのが問題だ」と指摘する。

 一方IBM自身は、パブリッククラウドの「IBM SmarterCloud Application Services」と、プライベートクラウドシステムの「IBM PureApplication System」を持っており、その間での移行性は確保されている。そこで、「同じような技術を使えばベンダーをまたがった移行性を確保できる。それに必要なオープンスタンダードを列挙し、それをベースにクラウドを実装して、サービスを提供していくのがOpen Cloudの考え方だ」という。これが実現すると、ベンダー内、ベンダー間でのパブリック、プライベートを超えたクラウドの移行性が確保されるため、ユーザーにとっては大きなメリットになるのは、言うまでもない。

異なる事業者間では、クラウドサービスの移行性が確保されていないのが現状という
Open Cloud導入によるメリット

 その際にIBMが中心として考えているオープンスタンダードが、Open Cloud Manifesto、DMTF OVF、OpenStack Foundation、OASIS TOSCA、OSLC/W3C LDP、OMG CSCCの各標準である。

 このうち、3月4日の発表時にもっとも注目されたのが、OpenStackベースのアプローチだった。OpenStackでは、共通APIを介してハイパーバイザー、ネットワーク、ストレージなどの幅広いクラウドリソースをコントロールできる仕組みを備えているので、例えばデバイスベンダーからすると、OpenStackを1つサポートすれば、OpenStackを利用する非常に多くのユーザーから利用してもらえる可能性が存在する。そのため、ここに大きなエコシステムが生まれる可能性がある。

IBMが推進しているオープンスタンダード
OpenStackの実装例

 ただし、紫関氏が「IBMではTOSCAがクラウドの鍵を握るものだと思っている」と述べたように、より大きな期待をかけられているのが、PaaSレイヤの標準化を進めているTOSCAなどだという。

 PaaSでは、1つのサーバーだけでシステムが完結することはほとんどなく、複数のサーバーが絡み合ってサービス全体が構成されているのがふつうだ。そこでTOSCAでは、OS、データベース、ミドルウェアなどのコンポーネントの組み合わせをサービステンプレートとして定義できるようにしている。こうしたコンポーネントについては、現時点のクラウド市場でもさまざまなものが存在しており、サービスを提供する側としては、そうした選択肢の中から最適なものを選んで、自分にあったサービスを作れる“コンポーザビリティ”がTOSCAの大きなメリットだ。

 さらに、こうして作られたサービステンプレートが、どういったハイパーバイザーにデプロイされるか、裏でどういったスクリプトが使われているか、ということを、インフラとかかわらないサービスの設計者が意識する必要は本来ないはずである。そこでTOSCAでは、実装にかかる部分とサービスにかかる部分を分割できるようにしており、これによってクラウド間の移行性、互換性を高めている。

 IBMではこれらを踏まえて、複数のクラウドサービス管理を容易にするための「IBM SmartCloud Orchestrator」を発表し、TOSCAのサポートを開始するほか、その上で動作する製品を順次発表していくとのこと。

 「Open Cloudでは、コンポーザブルな部品が例えばマーケットプレイスにアップされ、ユーザーは部品を調達して作りたいサービスを作り、そして作ったサービスをさまざまな事業者で使える、といったことが可能になる。現在はクラウドベンダー間の溝が深く、一度始めると移行しにくいため、クラウドを使いたいが使えない、というユーザーも利用できるようになり、クラウドが第2ステージに入っていくと期待している。当社の中では移行性と互換性は実証済みなので、これを標準化団体にコントリビュートしていくことで、クラウドのますますの発展につなげられればいい」(紫関氏)。

コンポーザビリティを確保
分割して定義できるようにすることで、移行性を確保する

(石井 一志)