2012年度のクラウド投資がさらに加速へ~ITRが東日本大震災後の国内企業IT投資動向を調査


ITR シニア・アナリストの舘野真人氏
IT予算の増減傾向
IT予算増減傾向の経年変化

 調査会社の株式会社アイ・ティ・アール(ITR)は29日、国内ユーザー企業のIT投資動向に関する調査結果を発表した。

 今年で11回目となる今回の調査では、国内企業553社から有効回答を得ており、東日本大震災後の国内企業におけるIT投資戦略の現状を浮き彫りにするものなったと位置づけている。

 これによると、2011年度のIT投資予算が前年に比べて増加したとする企業は24.8%と、前年調査の24.9%に対してほぼ横ばいの結果となった。また、前年よりも減額したとする企業は20.5%となり、前年調査の26.6%から下降した。特に、前年よりも20%以上増加するというIT投資に積極的な企業の比率が4.9%と、前年の7.2%から減少しているという。

 IT予算の増減傾向を指数化したIT投資指数では、2011年度の実績値は0.60となり、前年から上向いたという。

 「2011年3月に発生した東日本大震災によって、多くの企業が事業戦略の見直しを迫られたことを考慮すれば、プラスになったことは評価すべきだが、IT投資に対して元気な企業が少なくなっていることを感じる」(ITR シニア・アナリストの舘野真人氏)と分析している。

 業種別では金融業における投資意欲が落ち込んでいるが、これは前年から折り込み済みだったもの。これに対して、サービス業においては、前年に予想した投資計画に対して落ち込んでいるという。

 企業の売上高に占めるIT予算比率では、2011年度は3.0%となり、前年調査から0.2ポイント上回った。3%台となったのは2006年の調査以来、5年ぶりのことだというが、この背景には、IT予算そのものが増えたというよりも、分母となる売上高が上昇しなかったことが影響していると厳しくみている。

 だが、新規システム構築や大規模リプレースなどの「戦略投資額」の比率が上昇しており、定常費用を100とした場合、62にまで拡大してきたことは特筆される。

 「これまでは戦略投資を削減することで、IT予算を調整する傾向があったが、定常費用を減らして、戦略投資を行う傾向が出てきた。リーマンショック以降続けられてきた定常費用削減努力がようやく実を結びつつある」としている。


IT投資増減指数の経年変化IT予算比率と戦略投資比率の経年変化

 IT支出における内訳では、ハードウェアが20.6%、ソフトウェア購入費が10.4%、ソフトウェア利用費が7.6%、保守費が15.2%、ネットワーク回線使用料が9.8%、内部人件費が17.7%、外部委託費が13.9%、施設運営費が4.8%となった。

 同様の調査は2005年度にも実施しているが、「ハードウェア費が若干減少し、保守費が上昇している以外は大きな変化はない。だが、今後、IT予算の削減という点では、外部委託費の削減が鍵になるだろう」と分析した。


IT支出における内訳(2011年度)IT支出における内訳(2005年度)
IT予算額に対するリスク対策費用の割合

 今回の調査で大きな変動がみられたのが、リスク対策費用の比率増加だという。

 IT予算に占める情報セキュリティ対策費用と、災害対策費用の比率は、いずれも2010年から大きく上昇しており、情報セキュリティ予算は、前年の10.6%から12.5%に、災害対策費用は4.4%から7.0%へと拡大した。

 「企業規模にかかわらず、これら分野への投資が増加している。災害対策費用は、この項目の調査をはじめた2006年度以降、最高の値を記録し、東日本大震災の発生を受けて、多くの企業が災害対策を強化したことがあげられる。また、情報セキュリティシステムについては、国内企業において個人情報や機密情報の大規模な流出事故が相次いだことにより、あらためて高い関心が集まったため」と分析している。

 東日本大震災以降の企業における施策では、2011年上期段階には、経営計画の見直し、事業計画の見直し、事業継続計画・災害復旧計画の強化および見直しに着手した企業が多く、ディザスタリカバリの対象とするシステムの拡大やクラウド・コンピューティングへの移行の促進といったITにかかわる課題解決については、2011年度下期から2012年度に取り組む企業が多いという。

 最重要視するIT戦略上のテーマとしては、1位から3位までは前年と同じく「売り上げ増大への直接的な貢献」、「業務コストの削減」、「ITコストの削減」となっている。特筆されるのは、昨年14位だった「事業継続計画や災害対策」で、今年の調査では9位にまで上昇している。


東日本大震災後の企業における施策の実施状況最重要視するIT戦略上のテーマ

 また、主要なIT動向に対する重要度では、「IT基盤の統合、再構築」、「仮想化技術の導入」が多く、「IFRSへの対応」、「日本版SOX法などの法令対応、内部統制の強化」の重要度が減少しているという。

 一方、2012年度に向けての投資予想では、IT予算の増額を見込む企業は23.4%と若干下降しているものの、減額するとした企業も17.5%と減少している。

 製品、サービス別では、サーバー仮想化、モバイル端末/スマートフォンに対する導入意欲が高いほか、Windows7への移行促進やモバイルデバイス管理ツールの導入なども拡大することになるという。

 またクラウド関連では、データセンターに関して投資を拡大するとした企業が多いほか、プライベートクラウドへの投資を増加させる企業も多いという。

 プライベートクラウドでは、企業は17.5%と、2011年の11.5%に比べて増加。製造業や流通・小売り・商社において、プライベートクラウドへの投資拡大意欲が高いという。

 また、SaaSでは2011年度には投資を加速させるとした企業が11.7%であったのに対して、2012年度に投資を加速させるとした企業が17.3%に、PaaSは6.8%から11.0%に、IaaSでは6.7%から9.9%に、DaaSは4.5%から7.2%にそれぞれ拡大。データセンターへの投資は14.8%から19.2%へと増加している。


製品・サービスに対する投資意欲(ハードウェア/ネットワーク)製品・サービスに対する投資意欲(OS/ミドルウェア)
製品・サービスに対する投資意欲(開発/パッケージ/セキュリティ)製品・サービスに対する投資意欲(サービス/クラウド)

 「2012年度のIT予算をみると、投資を減少させる企業が減っているという点ではプラスとみることができ、また投資を控えた震災後の次の年には成長するという見方もできる。だが、全体としては大幅な増減はみられない。これから低成長な時期に入っていくだろう。アプリケーション別では、営業支援や顧客管理、財務会見などに対する投資が注目されている。全体的に、既存の資産をいかにスリム化して、戦略投資の余力を確保できるか、災害やセキュリティ上の脅威に対する信頼性をいかに担保するかという取り組みは、IT責任者の頭を、悩まし続けるテーマになるだろう。経済の先行きが依然として読みにくいなかで、高い効果が見込める分野に迅速に投資を振り分けるためには、選択と集中の姿勢が強く求められる」などとした。

関連情報
(大河原 克行)
2011/11/29 13:27