SAPジャパン、インメモリソフト新製品「SAP HANA」

「真のリアルタイムコンピューティングを実現する」


代表取締役社長のギャレット・イルグ氏

 SAPジャパン株式会社は7日、インメモリソフト新製品「SAP High-Performance Analytic Appliance(以下、SAP HANA)」を発売した。今後、ERP・ミドルウェア・BIに続く、同社の柱となる製品で、代表取締役社長のギャレット・イルグ氏は「2015年には売り上げを現在の2倍にできる」と成長戦略を描いている。

 SAP HANAは、インメモリコンピューティングを実現するソフト製品。強力な演算エンジンとデータベースをメインメモリ上に統合し、ビジネスに特化したデータモデリングツールと組み合わせて提供される。これにより、従来のIT環境を大幅に簡素化しながら、ビジネス情報の取得スピードを飛躍的に高めるとともに、従来では実現できなかったリアルタイムアプリケーションの提供が可能になる。


「情報系アーキテクチャのパラダイムシフト」と強調

情報系アーキテクチャのパラダイムシフト
SAP HANAで実現すること。「Appleが音楽ビジネスで成功した理由と同等のことを、データ分析の分野で実現する」

 バイスプレジデント、ビジネスユーザー&プラットフォーム事業本部長兼プロセス・製造産業営業本部長の福田譲氏は「情報系アーキテクチャをパラダイムシフトする画期的な製品」とアピール。従来の情報系アーキテクチャと比較して、「従来はディスクに格納したデータをキャッシュに展開し、ごく限られたサイズのメモリが利用される。このアーキテクチャで他社も“リアルタイムコンピューティング”という言葉を使うが、実際はコンポーネント間のI/Oボトルネックを最小化する取り組みでしかない。一方、SAP HANAでは、そもそもディスクの考え方を排除し、はじめから膨大なデータをすべてメモリ上に格納してしまう。これにより、常識破りの超大量データ検索型の“Real Real-time Computing(真のリアルタイムコンピューティング)”を実現する」と説明。

 また、Appleの音楽ビジネスになぞらえ、「Appleがなぜ勝利したか。それは大容量化、超高速化、小型化技術の採用により、ユーザーの保有するすべての音楽コンテンツを一瞬で読み込み可能な状態に一元化したためだ。それが新規音楽購入はすべてiTunes経由、というユーザーの行動シフトを可能にした。具体的に、音楽データの吸い上げ、圧縮、索引タグ付け、転送という数十分かかる作業を20秒に短縮し、60倍の速度とシンプルさを実現したのが勝因だった」とし、「SAP HANAでもデータ分析の分野で同様のことが可能だと考える。業務システムからのデータロード、加工・集計、クエリ、利用といった作業に従来は数日かかることもしばしば。ところがSAP HANAでは、これらをすべて数秒でリアルタイムに行うことが可能になる」と、再三にわたって先進性を強調した。


SAP HANAのアーキテクチャ概要

SAP HANAのアーキテクチャ概要

 SAP HANAのアーキテクチャは、中核となる「In-Memory Computing Engine」に「Calcuration&Planning Engine」を実装し、Sybaseの「Real-time Replication Service」を組み合わせている。Sybaseの技術でほぼリアルタイムにデータをコピーし、中核エンジンで演算を行う。

 デモでは、PowerPointと中核エンジンを連携させ、スライド上に入力した文章――例えば「売り上げが上がったが、顧客数が減った」といった文章を基に、分析ボタンを押すだけで、即座に関連するデータがメモリ上から展開されてグラフ化される様子が実演された。「これは本来ならあり得ないこと。このようなあいまいなキーワードでクエリをかけたら回るわけがない」(福田氏)。

 今回のSAP HANA 1.0では、インテルとの10年来の協業成果として、Xeon 7500番台に最適化された。実際の出荷形態は、ハードウェアと組み合わせたアプライアンスでの提供となり、まずは日本HPおよび日本IBMのラック型サーバーに搭載し、早期に手にしたい顧客向けに提供される。今後は国内ハードベンダーとの協業も検討していく。


今後はSAP標準技術に、モバイル対応のロードマップも

 同時に、共同イノベーション発信拠点「SAP Co-Innovation Lab Tokyo」にて、SAP HANAのベンチマークやプロジェクト検証作業ができる環境を2010年内に整備し、さまざまなパートナーと協業を深めていく。すでにコカ・コーラなどのユーザー企業と検証作業を進めており、順次、SAP HANAのバージョンアップも行っていく予定だ。

 発表会では、HANA 1.5および2.0への展望と、それに伴い、インメモリ基盤をSAPの標準技術としていくロードマップが明らかにされた。1.5、2.0とバージョンアップするに従い、企業内の更新系・情報系の両RDBMSをインメモリ化し、「RDBMSなしでOLTPとOLAPが完全に統合された環境が実現する」(同氏)という。

 また、飛躍的に普及させるための「ラスト1マイル」として、モバイル対応の方針も明らかにした。2009年までにインターネット上でやり取りされた総データ量は150エクサバイトとされる。これは5MBの画像の実に2000億枚分に相当する。しかし、2010年には単年で175エクサバイトのデータがやり取りされるなど、データ量は急増著しい。「今後はこうしたデータの大半がモバイルでやり取りされるようになる。SAP HANAとモバイルが連携すると、例えば小売業の従業員は、商品単品ごとの店舗在庫情報に対し、その日の販売量、全集の販売推移、物流センターの倉庫在庫、市場価格の変動、前年の傾向値などを基に、最適な発注量を手元のモバイル端末から瞬時に割り出すことが可能になる。また、例えば電力会社の従業員は、使用電力量のデータを基に特定の地域や時間帯の傾向を割り出し、そのデータを比較分析することで、利用状況データへの即時アクセスに基づくリアルタイムプランニングが実現する」(同氏)とした。

 アプライアンス価格は、4500億件の実データを動かした場合で、4000万円台ほどになる見込み。このほか、規模に応じて、数百万円から1千数百万円の価格帯でも出荷されるようだ。

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