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リコーが「企業価値向上プロジェクト」の進捗を説明、約200億円の効果額を獲得

2024年度連結業績は増収増益、新たな収益基盤となるストックの積み上げが着実に成長

 株式会社リコーは14日、「企業価値向上プロジェクト」の進捗状況について説明。初年度となる2024年度において、297億円の費用を計上したのに対して、520億円の効果を創出。約200億円の効果額を生んだと報告した。

 当初費用は年間330億円を想定していたが、国内でのセカンドキャリア支援制度の実施に伴う費用支出が想定を約32億円下回ったという。だが、1000人程度とした。対象人数は想定以上になっている。

プロジェクトは順調に進捗しており、FY24は約200億円の効果額を獲得

 この1年間で、事業の選択と集中をさらに進め、対象事業に関する方針を決定。米eDiscovery、オプティカル事業、新素材のPLAiRなど4件の売却および撤退を進めたことに加えて、エトリアを設立し、東芝テックに続き沖電気工業が今後参画することが決定。国内外における販売およびサービス体制の見直しを行い、セカンドキャリア支援制度による人的資本適正化を実施したことなどを成果に挙げた。

 リコーの大山晃社長 CEOは、「一過性要因を除くと、2023年度の営業利益は640億円、2024年度は844億円となった。稼ぐ力は確実に伸びてきている」と自己評価した。2025年度は、一過性要因や為替影響を除き、営業利益で1100億円を目指すという。

 また、「2025年度にはROE9%超を目指したが、それには及ばない」と述べながらも、「このペースで改善を続けていけば、ROE9%超や、10%は近いうちに達成できる」と意欲をみせた。

持続的な企業価値向上に向けて
リコー 代表取締役 社長執行役員 CEOの大山晃氏

 企業価値向上プロジェクトは、2024年度からスタートした取り組みで、2025年度までに、2023年度比で600億円超の収益構造変革効果を創出することを目指している。本社改革やR&Dの適正化、間接機能の適正化のほか、事業の選択と集中、オフィスプリンティング事業の構造改革、オフィスサービスの利益成長の加速などに取り組みながら、成長領域への人的資本のシフトなども推進していくことになる。

 「日本や欧州では、オフィスサービスによる新たな顧客獲得が進んでいる。収益の要となるオフィスサービスによるストック売り上げの成長率は、2年続けて10%増を継続しており、2025年度も10%以上は伸ばしたい。また、商用印刷のストックビジネスも今後成長を加速させたい」とした。

 また、「オフィスサービス、商用印刷のストックの積み上げを加速することで、オフィスプリンティングの収益減少を極小化することが重要である。また、サービス事業に軸足を移すことで、アセットライト経営が実現でき、資本収益性の改善が進めている」とした。

 アセットライト経営に向けて、ソフトウェアの開発投資を推進し、使いやすさを追求するとともに、ソフトウェアを販売するための体制づくりに向けた人的投資を強化していくことも強調した。「お客さまに対して、正しいソフトウェアを、正しいタイミングで提供していく」と述べた。

 また、大山社長兼CEOは、「国際政治情勢や経済情勢が急展開しているほか、テクノロジーも急激に進化している。迅速に資本や資源の再配置を行い、体制を整え、それを実践することで、同じ課題を抱えているお客さまに対して、お客さまの競争優位につながるソリューションや商材、サービスをタイムリーに提供することができる。リコー自らも、さらに高収益ビジネスを獲得できるようになる」と語った。

2024年度連結業績は増収増益、

 一方、リコーが発表した2024年度(2024年4月~2025年3月)の連結業績は、売上高が前年比7.6%増の2兆5278億円、営業利益が同2.9%増の638億円、税引前利益は同2.7%増の700億円、当期純利益は同3.5%増の457億円の増収増益となった。

2024年連結業績の概況

 リコー 取締役 コーポレート専務執行役員 CFOの川口俊氏は、「企業価値向上プロジェク費用として297億円を計上しており、これらの一過性要因を除く実質ベースでは、営業利益は3割増になったと自己評価している。また、海外での構造改革を中心にした効果が前倒しで得られている」とした。

リコー 取締役 コーポレート専務執行役員 CFOの川口俊氏

 また、「デジタルサービスの会社への変革に向けて、新たな収益基盤となるストックの積み上げが着実に成長した。オフィスサービスではストック売り上げが前年比14%増(為替影響込み)の3975億円となり、2025年度までの3800億円の目標を1年前倒しで達成した。さらに伸ばしていけるだろう。商用印刷ではノンハードの売り上げが前年比7%増となった。及第点といえる」と総括した。

 現在、約140万社の顧客の36%にオフィスサービスの導入実績があり、今後はオフィスサービスによる新規顧客への導入拡大も図っていくという。

 その一方で、「オフィスプリンティングの売り上げは、当初想定に対してマイナスが大きく、計画未達になっている。さらに、オフィスサービスもストック売り上げは伸長したものの、想定には届いておらず、拡大不足であった。欧米で買収した会社とのシナジーが未達であったこと、欧州における大型案件のクロージングの遅れがあった」と反省点を挙げた。

 リコーと東芝テックによる合弁会社としてスタートした複合機の生産会社であるエトリアは、2025年10月から、沖電気工業が参画する予定であり、「東芝テックとのシナジーによる第一弾モデルはすでに発売しているが、今後は、沖電気が持つLED技術を用いることで、省電力化や小型化への貢献が期待できる。当初計画よりも早める形で生産改革を進めており、2026年度以降の固定費の削減につなげる」とした。

セグメント別の概況

 セグメント別では、リコーデジタルサービスは、売上高が前年比4.2%増の1兆9301億円、営業利益は前年から85億円減の322億円。

 そのうち、日本におけるオフィスサービスの売上高は前年比13.6%増の4667億円となった。スクラムシリーズ合計で前年比30%増の1853億円。さらにその中で、スクラムパッケージは前年比26%増の751億円、スクラムアセットは同32%増の1102億円。スクラムパッケージの販売本数は同4%増の9万548本となった。

 「スクラムシリーズの開発費はそれほど大きくはないが、開発投資として、DocuWareやnatif.ai、kintone plusでは必要な改良を進めていく。また、お客さまに届けることができるリコーのAI技術が整ってきており、長年培ってきたドキュメント処理技術を生かした画像認識を含め、マルチモーダルAIの開発も進めている。複雑な日本語の資料を読み込めるといった日本の企業が必要とするソリューションを、独自のLLMで解決していくことになる。だが、独自開発にこだわるわけではなく、最適なものを使い、AIの前後のソリューションも加えて提供する。お客さまの社内のデータをデジタル化し、AIに読み込ませるといったことも支援する。これがリコーのAIに対するアプローチになる」と述べた。

リコーデジタルサービスの概況
オフィスサービス概況:日本

 欧州のオフィスサービスは、売上高が同4.4%増の2571億円。アプリケーションサービスでは、DocuWareのクラウドサービスが牽引。2024年4月に買収したnatif.aiと連携させた業務別AIワークフローを展開しているという。また、ワークプレイスエクスペリエンス(WE)では数億円単位での案件を獲得しはじめているという。

 米国のオフィスサービスの売上高は同7.2%増の1734億円となった。BPS(Business Process Services)が収益性を改善するとともに、注力領域であるアプリケーションサービスやワークプレイスエクスペリエンスが前年から伸長した。

オフィスサービス概況:欧州
オフィスサービス概況:米州

 リコーデジタルプロダクツは、売上高が前年比20.7%増の5846億円、営業利益は113億円増の287億円。「生販が安定化し、稼働率も順調に推移している。コストダウンを実現した新製品と、PFUのスキャナー技術を組み合わせた複合機が国内で人気である」という。

 リコーグラフィックコミュニケーションズは、売上高が前年比11.6%増の2926億円、営業利益は76億円増の231億円。リコーインダストリアルソリューションズは、売上高が前年比0.4%増の1121億円、営業損失は11億円減少し、マイナス18億円の赤字となった。その他では、売上高が前年比36.2%増の358億円、営業損失は49億円改善したものの、マイナス55億円の赤字となった。カメラ関連事業において新製品が貢献したという。

2025年度の通期業績は増収増益を見込む

 2025年度(2025年4月~2026年3月)通期業績見通しは、売上高が前年比1.3%増の2兆5600億円、営業利益は同25.3%増の800億円、税引前利益は同17.0%増の820億円、当期純利益は同22.5%増の560億円とした。企業価値向上プロジェクトによる一過性費用、米国関税政策、為替変動などを除いた実質ベースでの営業利益は1100億円を想定している。

 リコーの川口CFOは、「2025年度も、ストック売り上げの成長加速を進め、10%以上の成長を見込む。一方で、オフィスプリンティングの減益影響を抑制するとともに、デジタルサービスの会社への変革に必要な施策を前倒しで実施する。さらに、エトリアの効果刈り取りの加速に向けて、次の一手を展開していく」と述べた。

2025年度の見通し

 2025年度の研究開発投資は120億円減の830億円を計画しているが、大山社長兼CEOは、「成長領域にフォーカスしたR&D投資をしていくことになる。デジタル、サービスへの投資が中心になる。また、これまでのようにすべてをリコーが抱えるのではなく、オープンイノベーションを活用する。これにより経費が減少している。投資額の縮小は、R&D投資を削り、将来を犠牲にしているものではない」と述べた。

 なお、トランプ関税の影響額として約130億円を織り込んだ。

 「最大で210億円の影響があると見ており、それに対して、価格調整、生産見直し、経費の見直しで160億円を立て直しする。だが米国市場での冷え込み影響などで80億円の影響を加えている」と説明。「生産、商品、価格、チャネルの観点から細かく見ており、対米市場だけでなく、ほかの市場への影響も注意深く見ている。引き続き、必要な対策を打っていく。各国の販売現場では、自前のリースの活用も有効な手段になると考えている」とした。

 セグメント別では、リコーデジタルサービスは、売上高が前年比微減の1兆9270億円、営業利益は前年から268億円増の590億円。リコーデジタルプロダクツは、売上高が前年比4.2%減の5600億円、営業利益は前年から132億円減の155億円。リコーグラフィックコミュニケーションズは、売上高が前年比1.0%増の2940億円、営業利益は前年から31億円減の200億円。リコーインダストリアルソリューションズは、売上高が前年比2.5%増の1160億円、営業利益は前年から48億円増の30億円とした。その他は、売上高が前年比10.3%増の620億円、営業損失は前年から29億円改善するもののマイナス25億円の赤字とした。

2025年度の見通し(セグメント別売上・営業利益)

 川口CFOは、「ITサービス、アプリケーションサービス、ワークプレイスエクスペリエンスのクロス提案を進めるほか、自社ソフトウェアの展開強化も進める。また、エトリアの生産拡大を通じて、消耗品の販売につながるエンジンのシェアを高め、利益率の高いオプションの販売にもつなげることができる」などと述べた。

 リコーでは、デジタルサービスの売上比率が2024年度実績で49%となっており、2025年度には53%に高めることを目標に掲げなおした。「当初の目標では、2025年度に60%に高める予定であったが、現時点では53%が適当であると見ている。大切なのは利益であり、利益率の高いサポート、サービスを乗せていきたい」と語った。

 なお、2025年度は、中期経営計画の最終年度にあたる。「次期経営計画は、3年、5年、10年になるかは、まだ決定していないが、すでに検討を開始している。体制や仕組みを見直し、デジタルサービス会社への変革に向けて必要な施策を前倒しで行っていく」(川口CFO)とした。