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キヤノンITSが長期ビジョン「VISION2025」の進捗を説明、KGIは達成の見通し

エンベデッドシステム、超大型SI案件、AI活用サービスで実績を強化

 キヤノンITソリューションズ株式会社(以下、キヤノンITS)は27日、2025年度(2025年1月~12月)を最終年度とする長期ビジョン「VISION2025」の進捗状況について説明。同長期ビジョンの起点となる2020年度から2024年度までの5年間で、売上高は約520億円増加し、従業員数が約480人増加したことや、2025年度の売上高が2021年度比で約1.5倍に、また利益は2020年度比で約2倍にそれぞれ増加し、利益率が2ポイント上昇する見通しであることを示した。

 キヤノンITSの金澤明社長は、「VISION2025で設定した売上目標の達成に向けて、着実に進捗しており、利益も伸ばしている。KGI(重要目標達成指標)は達成する見込みである」とコメント。計画達成に向けた手応えを示した。

キヤノンITS 代表取締役社長の金澤明氏

 また、キヤノンマーケティングジャパン(以下、キヤノンMJ)グループ全体では、2025年度にITソリューション事業の売上高で3000億円を目指していたが、これを2024年度に1年前倒しで達成。そのなかで、キヤノンITSが売上高の約45%を占めて貢献しているだけでなく、利益の約3割を占め、グループ内で存在感を発揮していることも強調した。

キヤノンITSがITS事業の成長をけん引

 キヤノンITSでは、2025年度において、エンベデッドシステム事業やITインフラ構築が好調を維持するとともに、金融業向けでは同社過去最大となる超大型案件を完遂したことにも言及した。

 キヤノンITSでは、「VISION2025」のキーメッセージとして、「先進ICTと元気な社員で未来を拓く共想共創カンパニー」を掲げ、「サービス提供モデル」、「システムインテグレーションモデル」、「ビジネス共創モデル」の3つの事業モデルを推進しているが、その進捗についても触れた。

先進ICTと元気な社員で未来を拓く共想共創カンパニー

 「サービス提供モデル」では、ストックビジネス比率の増加を目指し、業種や業界に特化したサービスの創出を推進。西東京データセンターやクラウドを活用したSaaSビジネスの加速に投資することで、市場に対する訴求力を強化したという。

 金澤社長は、「コロケーションサービスの拡大、セキュリティサービスの大幅なラインアップ拡充のほか、AIや画像認識を用いたサービス提供を行ってきた。また、多様な業種や業務に対してサービスを提供するためのソリューションを取りそろえるために、新規サービス事業化支援機能であるサービスインキュベーションセンターを、社長直轄組織として立ち上げるとともに、資金を手当てする制度も立ち上げた。より多くの顧客に対して、スピーディにサービスを届け、当社を頼ってもらうユーザーに対して、先回りして解決策を提供する」と述べた。

 また、西東京データセンターでは、液冷方式サーバーにも対応可能なエリアを増床。AIを活用したサービス強化を進めたという。

 「高まるAI需要にあわせて、すでに多くの引き合いをもらっている。また、AIを活用した機能強化も図っており、ローコード開発プラットフォームであるWebPerformer-NXでは、生成AIを活用したコード提案機能を提供し、異常監視システムのANOMALY WATCHERは視覚言語モデルとの連携を図った。今後も、AIを活用したサービス強化を進める」という。

西東京DCを中核にしたITインフラサービスの拡充や、AIを活用したサービス強化を実施

 「システムインテグレーションモデル」では、受注案件の規模が拡大していることを示した。先にも触れたように、超大型金融案件を完遂したことを示し、「VISION2025で追求してきた『ITパートナー』としての存在感を高めることにつながった」と自信を見せた。

 大手総合リース向けには、リース業務基幹システムの全面刷新に取り組み、第一フェーズのシステム移行と本番稼働を完遂。営業会計を中心とした第二フェーズを遂行中だという。メガバンクでは、機関投資家向けの資産管理サービスで利用される次期システムを構築。現行システムからの移行と本番稼働を完遂した。また、資材総合メーカーでは、3年間で、8工場に生産管理システムを導入するという大型短納期プロジェクトを完遂したという。大手メディア向けには、「SuperStream」を基盤とした新会計システムを構築。同アプリケーションとしては過去最大規模の案件になったことに触れた。

超大型SI案件の獲得と完遂により組織体制および技術力をさらに強化

 一方で、エンベデッドシステム事業が好調に推移。2020年度からの年平均成長率は12.2%となり、特に車載領域では2025年度見込みで2020年度比2.5倍に事業が拡大するという。

 「エンベデッドシステム事業は、キヤノン製品の開発で培った高い技術力を生かすことで、他社との取引が拡大している。自動車メーカーやメガサプライヤーとの直接取引が増加し、急速に事業を拡大している。組み込み領域を一気通貫で開発できる体制を持つこと、画像やセキュリティ関連技術を持つ強みを生かして、今後もエンベデッドシステム事業を拡大していく」と語った。

エンベデッドシステム事業

 「ビジネス共創モデル」に関しては、共創案件数が、2021年に比較すると18倍と大きく増加しているという。独自の「DX進度マトリクス」を提唱しており、これをもとに、DXコンサルティングによる案件創出の拡大と、そのノウハウを生かして発信力を強化。ビジネス共創モデルの推進につなげているという。「ある電子部品メーカーに対しては、データドリブン経営に向けたSCMの標準化と高度化に関するコンサルティングを行い、プロジェクト全体を任された。SIビジネスの創出にもつながった」という。

「VISION2025」におけるビジネス共創モデル

 また、キヤノンITSでは、7つの重点領域として、スマートSCM、エンジニアリングDX、車載(CASE)、金融CX、アジャイル開発プラットフォーム、クラウドセキュリティ、データセンターにフォーカス。特に、スマートSCMでは、数理技術を生かした需要予測や需給計画ソリューション、サプライチェーン計画ソリューションが高い評価を獲得。車載領域では、市場成長を上回る伸びを見せており、「2025年の売上計画では、重点事業領域が25%以上を占めることになる。2026年以降も、各重点領域の売上比率をさらに拡大させる」と述べた。

7つの重点事業領域

 さらに、R&D本部においては、AIを研究対象とし、動画像解析や需要予測、自然言語解析などに応用している。行動認識の研究テーマにも取り組んでおり、2025年からは、生成AIビジネスを推進する専門組織が本格的に稼働しているという。まずは自社内での生成AIの活用を進め、2000人の社員に導入するほか、AIエージェントの活用も推進。開発プロセスへの適用や、新たなサービスの創出にもつなげる。

 なお、キヤノンITSは、2026年度からスタートする新たなビジョンと中期経営計画を策定中であり、2026年春に公表する予定を明らかにした。

ITプラットフォーム事業部門の取り組み

 今回の説明会では、同社ITプラットフォーム事業部門の取り組みについても触れた。

 キヤノンITS 上席執行役員 ITプラットフォーム事業部門担当の山岸弘幸氏は、「ITプラットフォーム事業部門では、2025年までの5年間の年平均成長率は16.8%を見込み、高い成長を計画している。お客さまの課題解決のパートナーとして、事業を推進していく」と語った。

キヤノンITS 上席執行役員 ITプラットフォーム事業部門担当の山岸弘幸氏

 同事業部門は、西東京データセンターを中核としたデータセンター事業、クラウドなどのITサービスを提供するITサービス事業、ITインフラの企画、設計、構築から、運用、保守までのライフサイクルに沿ったサービスを提供するITインフラ事業、開発力や製品力、サポート力を生かし、エンドポイントからゲートウェイまで包括的なソリューションを提供するセキュリティ事業で構成している。

ITプラットフォーム事業部門の事業概要

 ITインフラサービスのトータルブランドとして「SOLTAGE」を展開し、クラウドインテグレーションサービス、ネットワークサービス、システム運用・保守サービス、セキュリティサービス、データセンターサービスを提供している。

 データセンターサービスでは、中核となる西東京データセンターについてあらためて説明した。

 西東京データセンターは、2012年に1号棟を竣工し、2020年には2号棟を竣工。5180ラックを持ち、IT電力は24MVA、BCPオフィスフロアは2166平方メートルとなり、日本データセンター協会(JDCC)が定めるティア4レベルのファシリティ基準をクリア。自家発電用燃料や空調用補給水は72時間分を備蓄しており、世界基準の安心・安全なシステムインフラであることを強調した。

SOLTAGEデータセンターサービス

 2024年12月からは、直接液冷方式(DLC)に対応した高密度型サーバーの実運用を開始。400V提供が可能な電源設備を用意し、1ラックあたり最大200kWを提供することで、超高負荷サーバーにも対応。冗長構成の配管設計により、障害点となったサーバーラックを切り離し、ほかのサーバーラックへの影響を防ぐことができるという。

 「最短1~2カ月での利用開始が可能である。データセンター設備やITシステムの構築、運用実績およびノウハウを生かし、安定したシステム運用をサポートすることができる」という。

超高負荷サーバーに対応した液冷ハウジング

 さらに、クラウドセキュリティ事業戦略についても触れた。

 同社では、1999年に自社開発のメールセキュリティ対策ソフト「GUARDIANWALL」の提供を開始したのを皮切りに、2003年にはマルウェア対策ソフト「ESET」を、国内総販売代理店として取り扱いを開始。2023年には自社開発のIDaaSである「ID Entrance」、2024年には「Cato運用支援サービス」の提供を開始。2025年には、ランサムウェア対策の「AppCheck」の取り扱いを開始し、すでに導入社数が1500社に到達するなど、過去25年以上にわたり、セキュリティ事業を展開してきた経緯がある。

キヤノンITSのセキュリティ事業の歴史

 キヤノンITSの山岸上席執行役員は、「クラウドセキュリティ事業の強みは、技術力、サービス開発力、ライフサイクルサポート力にある。ゼロトラストを中心とし、アセスメントから運用まで全領域にラインアップを拡充しており、クラウドセキュリティの強化を図っている」と語る。

 技術力では、2016年に開設したサイバーセキュリティラボを通じた共同研究や脆弱性情報の発見を進めており、3年間で20サービスを新たにリリースしたほか、サービス開発力においては、顧客ニーズに応える実践的なサービスを開発。ライフサイクルサポート力に関しては、自社データセンターの運用ノウハウを生かして、企画、設計、構築、運用、保守に至るまでの一貫した対応が可能だとした。

 「中小企業からエンタープライズまでの幅広いユーザーに対して、安心安全なクラウドセキュリティを提供している」と述べた。

クラウドセキュリティ事業の強み

Cato SASEクラウドを対象としたSOCサービスを提供へ

 また、キヤノンITSは、ITインフラサービス「SOLTAGE」の新たなセキュリティ運用サービスとして、Cato SASEクラウドを対象としたSOCサービスを、2026年3月から提供開始すると発表した。

 Cato SASEクラウドによる脅威検出およびその対策を提供し、インシデント発生時の初動対応から恒久対応の立案および提案を行う。また、Cato SASEクラウドの利用状況を定期的に分析し、セキュリティ観点でのレポートも提供する。将来的には人とAIエージェントが協働する自律型SOCの実現を視野に入れているという。月額30万円からとなっている。

Cato SASEクラウド向けSOCサービスの提供を開始

 キヤノンITS 執行役員 ITサービス営業統括本部長の西野勝規氏は、今後のクラウドセキュリティ事業戦略として、「アセスメントやソリューション領域に加えて、SOCやAIを活用した運用領域のサービス拡充にも注力する。これにより、顧客が抱えるセキュリティ人材不足の課題に対応できる。また、セキュリティラボの知見を活用したアセスメントサービスを通じて、セキュリティ対策状況を可視化。最適な施策の選定を支援することで、アセスメントから運用までのトータルセキュリティパートナーとしての役割を果たす」と語った。

 また、「AI時代の脅威から守るSECURITY FOR AIと、未知のリスクや将来起こるリスクを予測し、そこにAIを活用するAI FOR SECURITYに取り組む。セキュリティ強化と利便性の向上を両立し、ビジネスの安全性とブランド価値向上に貢献する」とも述べている。

キヤノンITS 執行役員 ITサービス営業統括本部長の西野勝規氏

 一方、2025年7月に統合したTCSについては、「営業および技術者の相互活用による案件対応力の強化に加えて、TCSの強固な顧客基盤に対して、キヤノンMJグループのソリューションおよび商材を拡販する。また、TCSのMPS(マネージドプラットフォームサービス)と、キヤノンITSのSOLTAGEとのサービス連携を進めていくことになる。現時点で、想定以上のシナジー効果を発揮している」(キヤノンITSの山岸上席執行役員)と自己評価した。

 TCSは、1989年に設立した企業で、2023年10月にキヤノンMJグループ入りしていた。サーバーやネットワーク、データセンターの設計から保守まで対応。ITインフラ構築および運用に強みを持ち、顧客個社を対象にしたマネージドサービスを提供し、ITライフサイクル全体をサポートする点に強みを持つ。

TCS統合によるシナジー創出と成長戦略の加速

 キヤノンITSの金澤社長は、「お互いの強みが、相手にない部分を補完する形となり、共同で受注する案件が増加している。TCSは、顧客に寄り添う姿勢が強い会社であり、キヤノンITSも顧客に寄り添う姿勢をより強めることができている」と述べた。