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三菱電機、「Serendie Street Yokohama」に社外との共創エリアを新設 パートナーと新たな価値の創出を図る
2025年1月20日 06:30
三菱電機株式会社は17日、神奈川県横浜市に共創空間として開設している「Serendie Street Yokohama(セレンディストリート横浜)」において、社外との共創エリアを新設。その様子を公開した。
また、三菱電機 常務執行役 CDOの武田聡氏が、同社が2024年5月に発表したデジタル基盤「Serendie」の進捗状況などについて説明。生成AIを積極的に活用することで、50%以上の業務効率化向上、開発リードタイムの50%削減を目指す方針も明らかにした。
武田CDOは、「Serendie Streetは、三菱電機が取り組んでいる『循環型デジタル・エンジニアリング』を、パートナーやお客さまとともに実現する場となる。技術基盤の整備に加えて、多様な見方をもとに、新たなモノを作り上げる共創基盤が必要であり、Serendie Streetを通じて、さまざまな人が出会い、会話がしやすい環境が整うことになる。Serendieは、偶然の巡り合いがもたらすひらめきであるSerendipityと、Digital Engineeringを掛け合わせた造語である。偶然の出会いが生まれる拠点にしたい。また、三菱電機のデジタル人材を育てる基盤としても活用し、クロスファンクショナルにプロジェクトを進めていくことになる」と位置づけた。
Serendie Street Yokohamaは、横浜・みなとみらいの横浜アイマークプレイスの10階に開設しており、三菱電機の各事業部門の社員が集結しているほか、パートナーや顧客がさまざまなアイデアを持ち寄り、新たな価値を創出することを狙う。
一方、三菱電機の「循環型デジタル・エンジニアリング」は、企業などが利用している三菱電機の製品、ソリューションから収集したデータを分析し、顧客課題を発見したり、解決したりすることで、付加価値として提供。さらに製品やソリューションの進化にも反映させ、これらのサイクルを繰り返し循環させることで、さらに新たな価値を創出することを目指している。
「三菱電機は、依然として製品中心の事業である。だが、製品を提供するだけでなく、課題に踏み込んで事業を行う顧客中心にシフトしたい。そのためには、アジャイル開発により、開発スピードを高め、機器販売モデルから、データやソリューションを提供するサービスモデルへと変えていく必要がある。実現に向けて三菱電機全体に横串を通すのが、2023年4月に設置したDXイノベーションセンターとなる。Serendie Streetを通じて、サイロ化していた事業を、横串で協働することで新たな価値を生み出す。これまではトライの期間だったが、これからは結果が問われるフェーズに入る。最終的には事業化することが重要になる。2025年は、それが最大の課題である」などとした。
また、これまでの三菱電機では、各事業部門がそれぞれに最適化を目指し、個別にソフトウェア開発や製品化を進めたことで、データにも統一性がなかったが、2024年11月には、標準化したSerendie Design Systemを公開し、これを解決する基盤を構築。すでに、社外でも約800ユーザーが利用しているという。
Serendie関連事業では、2023年度実績で6400億円の売上高を、2030年度には1兆1000億円、営業利益率を23%拡大する計画を打ち出している。
生成AIの社内活用については、三菱電機グループの約12万人の社員に生成AIアプリを提供するほか、マルチクラウド、マルチLLM、マルチエージェントによる生成AI利活用環境を整備。50%以上の業務効率化向上、開発リードタイムの50%削減を目指し、これらの社内での成果をSerendie関連事業に適用していくという。また、約1万人の実践型AI人材を育成する計画も示した。
「2025年は、生成AIを本格的に活用し、業務効率をあげていくことになる。現在、60業務において、改革プロジェクトを実行しており、ここに生成AIを活用している。1000以上のアイデアに基づいて、業務を抜本的に改革。特に開発部門での成果に期待している。開発のスタイルが根本的に変わり、開発リードタイムの削減効果は大きいだろう。ソフトウェア製品やサービスに対しても、生成AIを積極的に活用していく」と述べた。
2025年1月には、AWSと、デジタル領域における戦略的協業について発表。Serendieによるデータ利活用ソリューションの強化を進め、SerendieにAIを組み込むための基盤を共同で開発するほか、組織全体の業務プロセスの効率化と、意思決定の迅速化に向けたAIの応用にAWSを活用する。さらに、AWSの教育プログラムを活用したデジタル人材の育成やマインドセット改革への取り組みに加えて、三菱電機の技術を活用して、省エネ、安定稼働、熱負荷予測に基づく空調制御など、AWSのデータセンターの脱炭素化に貢献するという。
写真で見るSerendie Street Yokohama
Serendie Street Yokohama(Serendie Street YIMP)は、2024年11月に、先行する形でオフィスエリアを稼働させており、約500人の三菱電機グループの社員が勤務している。また、2024年3月には、徒歩10分程度の場所に、Serendie Street YDB(セレンディストリート横浜ダイヤビルディング)を開設しており、横浜エリア全体で約3000人のデジタル人材を集積し、これをさらに拡大する姿勢を示している。事業部門を超えた人材が集積する拠点は、Serendie Street Yokohamaが、三菱電機としては初めての拠点になるという。
武田CDOは、「三菱電機らしくないオフィスであり、働き方も大きく変化している。短期間ではあるが、想定以上に部門間の壁が取れている。統率が取れた長期間に渡るプロジェクトではなく、早く結果を出して、お客さまに見ていただき、早く修正していくことを優先している。三菱電機の80%は従来の仕組みのままだが、Serendie Streetからマインドセットやカルチャーの改革を進め、新しい三菱電機を作っていきたい」と述べた。
Serendie Street YDBの活動実績についても公開。これまでに24社のパートナーと共創。社外への露出が94回、パートナーとの共催イベントでは約1万1000人が参加。社内Webサイトへの訪問者は約1万6000人となっている。
Serendie Street Yokohamaに新たに開設した共創エリアでは、事業の種を育てる場となる「field(フィールド)」、偶然に出会う路地をイメージした「yokocho(横丁)」、自由自在に創作ができる「garage(ガレージ)」、異文化が混ざり合う広場となる「circle(サークル)」で構成する。さまざまな業界や地域と交流を深めるワークショップや共創プロジェクトを実施していくことになるという。
武田CDOは、2025年には米国にもSerendie Streetを展開し、さらに世界中に広げていく考えも示した。
Serendie Street Yokohamaの様子を写真で見てみる。
三菱電機の研究開発の取組事例
共創活動を通じた三菱電機の研究開発の取り組み事例についても説明した。
三菱電機 上席執行役員 開発本部長の岡 徹氏は、「Serendieで得られたデータを活用し、新たな価値を創出するために、強いコンポーネントを支える技術と先進的なデジタル技術を強化し、グリーンな社会と安心、安全、快適な社会を実現することが、研究開発方針となる」と前置きし、「Serendie Streetを活用した共創により、より高い価値の実現を目指す」と述べた。
今回の説明では、4件の研究開発の取り組みを紹介した。
ひとつめの「教師データの作成が不要な行動分析AI」では、生産現場の作業者の動画から、動作の波形データを抽出し、繰り返し作業やばらつきがある作業を分類。分析時間を最大99%短縮できたという。同社のAIブランドであるMaisart(マイサート)として展開しているもので、シスメックスと住友ゴム工業が共創パートナーとして参加している。
2つめの「AIを用いた下水処理場の運転操作支援」では、豪雨による雨水の流入などによって、下水処理場が浸水しないように揚水量を操作したり、放流水質を維持するために汚泥界面を下げたりする操作を行っている熟練操作員のノウハウをAIが学習。これをもとに、揚水ポンプの運転操作パターンを操作員に提示する。熟練操作員不足の解決につなげることができるという。東京大学、愛知水と緑の公社、愛知県との共同研究となっている。
3つめの「物流向けの自動運転ソリューション Hub Pilot」は、北米の大手小売り事業者と共創しているもので、広大な物流拠点において、自動運転トラクターが稼働。行き先別や荷物別に、トレーラーを自動搬送することで、物流業界の労働力不足の解消につなげているという。デジタルツイン環境で開発、検証を行っているのも特徴だ。開発期間の短縮という効果も出ている。
4つめは、「生産現場向けソリューション」として、翻訳サイネージを実現している事例を紹介。生産現場で進展している従業員の多国籍化に対応し、円滑なコミュニケーションを可能にすることができるという。デザイン思考を取り入れ、現場の観察をもとに本質的な課題を抽出し、アジャイル開発によって、迅速に現場課題の解決につなげている事例にも位置づけている。翻訳サイネージでは、17言語の翻訳機機能や、折り返し翻訳機能を搭載。その日の作業内容や、安全や品質に関する伝達が的確に行えるようになるという。
Serendieによる2つの事例
一方、Serendieによる2つの事例を紹介した。
三菱電機FAシステム事業本部では、データ利活用ソリューションを開発したという。三菱電機の生産現場において、個別に最適化したシステムがそれぞれに稼働し、データを収集しても、データがサイロ化しており、DXが推進できないことに着目。それを解決するために、ワンストップで、集める、貯める、利活用することができるソリューションを開発したという。
三菱電機が持つFA技術、生産技術、IT技術を組み合わせることで、現場からどんなデータを収集すべきかを理解し、それを活用できるアプリケーションを開発。社内でも多くの実証実験を進めながら開発を進めていったという。また、データ利活用ソリューションはわずか1時間で導入が可能であり、可視化ツールや分析ツールを提供することで、改善点を短期間に抽出できるのが特徴だ。今後は、標準化したデータを活用することで、生産現場だけでなく、バリューチェーン全体で活用できるように進化させていくという。
交通分野のデータ利活用ソリューションとして、東京メトロにおける省エネへの取り組みについて説明。三菱電機の車両情報監視・分析システム(TIMA)により、電車線電圧データを取得し、変電所の電圧変更による回生電力の有効活用につなげ、電力の削減を実現している。
東京地下鉄 鉄道本部プロジェクト設計担当部長の横田政明氏は、「電車がブレーキをかけた際に発生する回生電力を、電車線を通じて、ほかの電車の加速時に使用しているが、これまでは、力行(りっこう)や回生の影響で変動する電車電圧の分布幅を測定することができなかった。TIMAにより、電車線電圧分析が可能になり、エネルギーロスが発生している部分や、電圧を下げる余地がある部分を可視化できた。これをもとに、有楽町線における変電所の運用方法を見直し、変圧器の電圧を下げたり、整流器運転台数を減らしたりできた。この結果、年間87万kWhの電力が削減でき、2700万円程度のコスト削減効果が生まれた。この成果を丸ノ内線、東西線、半蔵門線、副都心線にも展開し、年間487万kWhの削減が可能になり、年間電力量の約1%の削減効果、1億4000万円のコスト削減が実現できる。同時に、脱炭素および循環型社会の実現にも寄与できた。今後は、外部データを活用しながら、Serendieを鉄道分野以外にも活用したい」と述べた。