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日本IBM、地域金融機関向けの新共同基盤を発表 三菱UFJ銀行、IIJとの協業で
「メインフレーム共同プラットフォーム」と「分散基盤共同プラットフォーム」の2つ
2024年10月2日 06:00
日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)は1日、三菱UFJ銀行(以下、MUFG)、インターネットイニシアティブ(以下、IIJ)との協業により、地域金融機関向け新共同プラットフォーム「金融ハイブリッドクラウド・プラットフォーム」の提供を、同日から開始した。
メインフレームや分散系を含むあらゆるITプラットフォームを提供。既存のシステム共同化の枠組みを超えて、地域金融機関が経営戦略に応じて適材適所に活用できる選択肢を提供しながら、長期間に渡って利用できるのが特徴だ。日本IBMでは、「既存の地銀システム共同化の枠組みを超えた『共同化の共同化』の第一歩」と位置づけ、データセンターやメインフレーム基盤、ネットワークバックボーン、関連機器の共同利用を可能にするという。
すでに、地方銀行7行による地銀システム共同化グループのじゅうだん会と、ふくおかフィナンシャルグループおよび広島銀行によるFlight21が採用を決定。三菱UFJ銀行の基幹システムをベースにした地銀システム共同化グループのChanceでも、採用を検討している。
3社協業による金融ハイブリッドクラウド・プラットフォーム
金融ハイブリッドクラウド・プラットフォームは、日本IBMのクラウド共同利用デジタルサービスである「金融サービス向けデジタルサービスプラットフォーム(DSP)」に加えて、新たにMUFGの基幹系ビジネスサービスの「地域金融機関向けメインフレーム共同プラットフォーム」、IIJが提供する基幹分散系ビジネスサービスの「地域金融機関向け分散基盤共同プラットフォーム」および各種プラットフォームをネットワークで接続する「地銀共同化プライベートネットワークバックボーン」で構成する。
日本IBMの山口明夫社長は、「激しい環境変化と技術変化のなかで、地方銀行は、基幹系および基幹分散系システムにおいて共同化を推進し、経済合理性や安全を追求する一方、戦略的に攻めるために必要なデータサービスに対する投資を加速している。今回の金融ハイブリッドクラウド・プラットフォームは、基幹系および基幹分散系のビジネスサービス領域において、共同化グループごとに進めていた共同化を、さらに共同化するものになる」と説明。
「金融ハイブリッドクラウド・プラットフォームは、金融機関やエンドユーザーから見ると、ひとつのバーチャルな金融システムになる。クラウドの共同プラットフォームに加えて、新たにオンプレミスの共同プラットフォームができあがるともいえる。これが、これからのシステムの仕組みとなる。新しい考え方を世の中に公表する重要な一歩になる」と宣言した。
日本IBMは、金融機関に向けて、フロントサービス(チャネル)、データサービス(データ基盤)、デジタルサービス(連携基盤)、ビジネスサービス(基幹系、基幹分散系)という4つの提供サービス領域と、業務およびインフラ(システム資源、データセンター、ネットワーク、運用)領域のマトリクスによって、金融戦略フレームワークを構成し、それぞれの領域からITシステムおよびアプリケーションを提供している。
「金融ハイブリッドクラウド・プラットフォームでは、ビジネスサービス領域におけるメインフレームの共同プラットフォーム、分散基盤の共同プラットフォームと、デジタルサービス領域におけるデジタルサービスプラットフォームを重要な要素に位置づけている。今回はメインフレームと分散基盤に新たな共同サービスを提供していく。また、データサービスやフロントサービスは、将来的にはデジタルサービスや基幹基盤プラットフォームに集約されていくことになる」と予測。
その上で、「IBM CloudやAWSなどが提供してきた業界クラウドプラットフォーム、銀行単位や共同で使用していた分散基盤プラットフォームおよびメインフレームプラットフォームを、金融ハイブリッドクラウド・プラットフォームとして、インフラを共同利用することで、経済合理性を追求し、スキルの検証にも利用できる。いよいよそのタイミングに入ってきた。MUFGは、金融分野に特化した優れたデータセンターを持ち、金融とITの知識を持っている。IIJは、拡張性が高いデータセンターを持ち、信頼性の高いネットワークを持つ。共同化グループごとに持っていた専用ネットワークを、ひとつのプライベートネットワークバックボーンでつなげ、セキュアな環境で接続できるようになる」と述べた。
金融ハイブリッドクラウド・プラットフォームを構成する「メインフレーム共同プラットフォーム」では、三菱UFJ銀行が設立した新会社の合同会社礎が、日本IBMからメインフレームを一括して調達・保有し、購買力を生かしながら、地方銀行向けに提供する。メインフレームの設置場所として、三菱UFJ銀行のデータセンターを利用する。メインフレーム基盤は、ほかの業種との共同利用ではなく、地域金融機関専用の共同プラットフォームとして提供することになる。
また、システム開発や保守・運用は、日本IBMとキンドリルジャパンが行い、三菱UFJインフォメーションテクノロジーがChance地銀共同化事業の運営支援を行うことで、勘定系システムを支える日本IBMのメインフレームの信頼性と継続性を維持しながら、安定稼働と経済的な価値を提供することができるという。
三菱UFJ銀行 取締役常務執行役員 CIOの越智俊城氏は、「三菱UFJ銀行も日本IBMのメインフレームを採用し、金融システムアーキテクチャの将来像を長年に渡って検討してきた。また、日本IBMとChance地銀共同化事業を進め、地銀に向けて、高い信頼性と可用性を誇る勘定系システムを提供してきた実績がある。三菱UFJ銀行が持つノウハウを地方銀行と共有することで、システムを安定稼働させ、地銀の地域貢献および地域発展にもつなげることができる。三菱UFJ銀行として、システム関連ビジネスを拡大する展望はないが、金融業界において発生する課題に対しては、共創によって対応していきたい」などと述べた。
IIJとの協業で実現する「分散基盤共同プラットフォーム」は、金融機関に求められる品質や要件を確保しながら、市場の変化への対応や、柔軟性や拡張性が求められる業務用途に対して提供するもので、IIJのデータセンターを活用することで、分散基盤においても共同化の枠組みを超えた基盤資源の効率化や、運用の効率化が可能になる。
また、「プライベートネットワークバックボーン」は、運用センターや外部システムと、遅延なく、安全に接続する地域金融機関専用のネットワークで、ネットワーク資源や運用の効率化を図るとともに、セキュリティや認証機能の提供、今後のさまざまなクラウドサービスへの柔軟性を持った接続を実現するという。
インターネットイニシアティブ 取締役 副社長執行役員の村林聡氏は、「IIJは金融機関にネットワーク、セキュリティサービス、OA系システムを提供してきた経緯がある。また、DXの加速によるネットワークの高度活用を背景に、基幹系システム向けプラットフォームの提供が増加しており、IIJが導入した金融機関は約500社に達している。今回の取り組みでは、プライベートネットワークバックボーンを中心に、オープン系システムのデータセンターの提供などを行い、そこにIIJの技術やサービスを活用。分散基盤共同プラットフォームは、千葉県白井および福岡県博多のデータセンターを活用し、金融機関に求められる安全性、可用性を実現するとともに、カーボンニュートラルにも対応できる。また、プライベートネットワークバックボーンは、閉域で安全に接続し、安定性および安全性を提供することができる。金融システムの次世代化やネットワーク化に大きく貢献できる」と述べた。
さらに、IIJでは、分散基盤共同プラットフォームとは別に、地銀が個別に持つデータセンターのサーバーを、勘定系基準と同一サービスレベルで、IIJのデータセンターに移転させるサービスを用意。さらに、地銀が個別に構築しているOA環境やセキュリティ環境を共同プラットフォームとして利用できるサービスも提供するという。これらのプラットフォームもプライベートネットワークバックボーンで接続できる。
どのパートナーと、どんな座組を作るかが、安定したシステムを構築する上で重要
一方、日本IBMの山口社長は、金融システムの変遷についても振り返った。
「金融機関における基幹系システムは、勘定系やリアルタイム連携基盤などを通じて、預金や外為、融資などのサービスを提供。これを1970年代からメインフレームのもとで稼働させ、その後、更新を加えながら現在でも動いている。1990年代になると、顧客に近い部分の業務や軽い業務を、メインフレーム以外の中小型システムで稼働させる基幹分散系システムが登場した。ここでは、コンビニATMとの接続などの対外系や、インターネットバンキングなどのチャネル系のゲートウェイとして、あるいは融資業務のワークフローに活用されたりしている」と説明。
さらに、「2000年以降は、API接続によるFintechアプリケーションとの接続や、デジタルサービスを勘定系システムとつなげる動きが出てきた。さらに、昨今では、勘定系システムやデジタルサービスで獲得したデータを利活用したり、AIを戦略的に活用したりするための基盤としてデータサービスを提供している」と述べた。
また、「1990年代には、餅は餅屋に任せるのがいいという潮流のなかで、勘定系システムのアウトソーシングサービスが登場した。その経済合理性をさらに高めるために、共同化といった動きが始まった。それを一歩進めたものとして、今回の金融ハイブリッドクラウド・プラットフォームがある」と位置づけた。
このほか、金融システムの全体概要についても触れた。
「世の中には、メインフレームとクラウドを比較するケースがあるが、それは間違った比較である」とし、「金融システムとして使用されるコンピュータの種類には、一般的にオープンと呼ばれている中小型機による分散システムと、メインフレームによる大型汎用機がある。また、自社所有するオンプレミスと、共同利用するクラウドが存在する。これらを組み合わせた4象限のなかでインフラが構成されている。大切なのは、システムありきではなく、業務特性をベースにどれが最適なのかを判断することである。分散システムのオンプレミスは、安定性と経済合理性を追求する場合に有効であり、柔軟性や迅速性を追求するには、分散システムのクラウドを利用するのがいい。また、高性能、安全性、安定性を必要とする場合には、メインフレームの自社所有が適している。適材適所でシステムを利用することが、サステナブルに成長させることにつながる」と語った。
IBMは、メインフレームの長期ロードマップを公表しており、安心して利用でき、それにあわせた開発計画を立案できるようにしていることも強調した。
「メインフレームは、レガシーではない。最も省電力のCPUが搭載され、AIチップも内蔵している。新たなプラットフォーム構想のなかでも重要な役割を果たすことになる」と述べる。
また、「日本IBMにとっては、メインフレームだけがミッションクリティカルシステムではなく、すべてがミッションクリティカルシステムである。デジタルサービスプラットフォームによるクラウド分散基盤のアプリケーションに問題が発生しただけでも、世の中に大きな影響がある。どのパートナーと、どんな座組を作るかが、安定したシステムを構築する上で重要である。今回の三菱UFJ銀行およびIIJとの協業も、その考え方をベースにしている」と語った。