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NECと大阪大学ELSIセンター、顔認証技術の適正利用に向け、ガイドとリスクアセスメント手法を策定

 日本電気株式会社(以下、NEC)と大阪大学社会技術共創研究センター(以下、ELSIセンター)は9日、顔認証技術の適正利用に向けたガイド「顔認証技術の適正利用に向けた10の視点」および「リスクアセスメントフレームワーク」を策定したと発表した。なおNECでは、これらについて、4月から顔認証事業での検証を開始しているとのこと。

 今回発表されたガイド「顔認証技術の適正利用に向けた10の視点」は、顔認証技術を活用した事業の社会受容性向上に向けた取り組みにおいて、留意すべき事項を整理した事業開発ガイド。従来の事業開発では、顧客の課題発見と深堀、課題解決のための提供価値を検討することが中心だったが、このガイドでは顧客と市場だけでなく、社会全体にスコープを広げて検討すべき観点を取り入れている点が特長で、事業開発の企画・開発・運用のフェーズごとのチェックリスト、リスクアセスメントに活用できるとした。

事業開発で考慮すべき観点

 事業開発で考慮すべき観点としては、以下の10の視点を取り上げている。

視点1:顔認証技術を使う必要性があるか。
視点2:取得するパーソナルデータは必要最小限であるか。
視点3:取得するパーソナルデータの処理プロセスをプロバイダー事業者、サービス事業者およびステークホルダーが把握しているか。
視点4:サービスの精度や生じるかもしれない偏り(バイアス)を把握しているか。
視点5:顔認証が誤った場合に利用者に大きな不利益が生じないように配慮されているか。
視点6:顔認証技術を使えない人/使いたくない人を公平に扱う仕組みになっているか。
視点7:利用者本人が納得してサービスを利用していると確信できるか。
視点8:顔認証および他サービスとの連携により、意図しない影響が生じないか検討されたか。
視点9:利用者および社会へのリスクと対応に関して、プロバイダー事業者とサービス事業者との対話が適切になされているか。
視点10:運用開始後の事後検証が想定されているか。そのような仕組みがあるか。

 一方の「リスクアセスメントフレームワーク」は、倫理的・法的・社会的課題(Ethical, Legal and Social Issues:ELSI)の観点を取り入れたリスクアセスメントの枠組みである。プライバシー影響評価のリスクアセスメント手法としても活用でき、これまでは扱いが難しかった、人権・プライバシーやレピュテーションに関連するリスクについて、適切なアセスメントを行えるようになるとした。

リスクアセスメントフレームワークの特徴
リスクアセスメントのリスクマップ

 なお両者によれば、顔認証技術を社会に実装するには、法令順守のみならず、利用者に対するELSIに配慮する必要があるとのことで、大阪大学は2020年に、全学組織の1つとしてELSIセンターを設立し、新規科学技術の研究開発プロセスにELSIへの配慮を組み込むための手法を研究するとともに、産学での共創の実践に取り組んでいるという。

 一方のNECは、AIの社会実装や生体情報をはじめとするデータの利活用において、プライバシーへの配慮や人権の尊重を最優先に事業活動を推進するための指針として、2019年に「NECグループ AIと人権に関するポリシー」を策定し、事業を推進してきた。また、生体認証を活用した共通のIDによって、複数の場所やサービスで一貫した体験を提供する「NEC I:Delight」事業においても、こうした考え方を基に、顧客やパートナーとの共創を進めてきたとのこと。

 そこで両者は、ELSIの抽出と対応策を検討していくために、産学共創の共同研究を2022年9月から本格的に開始。この共同研究を通じて策定した今回のガイドを2023年10月29日の「研究・イノベーション学会」にて、またフレームワークを2024年3月8日の「電子情報通信学会」にて、それぞれ発表した。今後両者は、これらのガイドおよびフレームワークを実践していくため、ELSIに配慮した事業開発の標準プロセスなどの研究・策定に取り組む考えだ。

 さらに、NECが提供している顔認証技術のユースケースを題材に、社会実装における課題を解決する取り組みを通じて、先端技術がNECのPurposeである「安全・安心・公平・効率で誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現」に寄与する、新たなイノベーションモデルの構築を目指すとしている。