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リコー、独スタートアップ企業のnatif.aiを買収 DocuWareのソリューションを強化

 株式会社リコーは22日、ドイツのスタートアップ企業であるnatif.aiを買収したと発表した。リコー子会社であるドイツのDocuWareを通じて、同社の全株式を取得。買収金額は数十億円としている。

 natif.aiは、インテリジェントキャプチャーと呼ばれる、AIを活用した画像認識やOCR技術に特徴を持ち、文書画像処理に特化した大規模言語モデルを開発。モデルのサイズが小さく、活用しやすいといったメリットも持つ。請求書や受発注書、契約書といった紙文書および手書き文書をはじめ、さまざまなドキュメントからの情報抽出ができ、幅広い業務プロセスにおいて、自動化および高度化につなげることができるという。

 DocuWareとnatif.aiの持つインテリジェントキャプチャー関連の技術を掛け合わせることで、AIを活用した高度な情報の読み取りと自動分類など、より幅広い業務領域への対応が可能となるほか、natif.aiの技術、ノウハウ、人材を、リコーのさまざまな製品、サービス、ソリューションに適用することで、さらなる価値提供と、優れた顧客体験の実現を目指すとしている。

natif.ai買収による効果、提供価値

 リコー コーポレート上席執行役員 リコーデジタルサービスビジネスユニットプレジデントの入佐孝宏氏は、「DocuWareを、会計分野だけでなく、さまざまな分野で使いたいという要望が増えてきた。natif.aiを組み込むことで、DocuWareのパワーを拡大できる。ビジネスプロセスオートメーション領域でのビジネスを拡大するには、インテリジェントキャプチャー技術の強化が必要であり、今回の買収により、リコーが目指している『お客さまのタスクゼロ』を実現する時代が、すぐそこまでやってきた」と語った。

リコー コーポレート上席執行役員 リコーデジタルサービスビジネスユニットプレジデントの入佐孝宏氏

 natif.aiは、2019年に、ドイツ・ザールブリュッケンで設立したスタートアップ企業で、ドキュメント分類およびデータ抽出のサービスプラットフォームを提供しているほか、機械学習による高性能AIモデルや、高度なOCR技術の研究開発を手掛けている。従業員数は46人。

natif.ai社の概要

 また、DocuWareはリコーが2019年に買収した企業で、コンテンツ活用&業務効率化サービスを提供。コンサルティングや構築を行う500人のDocuWare有資格者を通じた販売を行っている。世界45カ国で展開し、1万8690社に導入している。

DocuWareの概要

 リコー リコーデジタルサービスビジネスユニット デジタルサービス事業本部プロセスオートメーション事業センター所長の高松太郎氏は、「企業で扱われるデータの約90%は非構造化データであり、業務プロセスの約70%で、紙、あるいは紙とデジタルのハイブリッドで行われている。これまで技術的制約やコストの課題などがあり、データの構造化や、業務のデジタル化が進まなかったが、natif.aiのインテリジェントキャプチャーの技術を用いることで、高い精度でのデータ抽出や、さまざまな種類の書類やレイアウトにも、柔軟に対応でき、紙からの転記や手書きからの転記が、ほぼ自動化できる」とする。

リコー リコーデジタルサービスビジネスユニット デジタルサービス事業本部プロセスオートメーション事業センター所長の高松太郎氏

 その上で、「DocuWareを請求書発行業務以外にも適用させようとすると、データ抽出において一部機能に制限があった。具体的には、自動分類や手書き抽出、フォームの変更に伴う自動学習が行えないといった課題があったが、これらをnatif.aiによって解決できる。DocuWareの機能拡張につながり、会計領域だけでなく、人事や法務、物流、マーケティング、R&Dなどの多種多様な業務において、多種多様な帳票に対応できる」とした。

 独自に事前学習したAIモデルによって、natif.aiで読み込むことができる帳票の種類が増加しており、さらに、顧客の個別環境にあわせて学習させることで、読み取り精度をさらに高めることができるという。

 また、natif.aiのインテリジェントキャプチャーを活用することで、構造化された読み込みやすいデータを整備することができ、顧客が持つデジタルデータと組み合わせたAIの学習を行える、といった活用も可能になるという。

 例えば、データ抽出においては、OCRが苦手としている状態が悪いクシャクシャな帳票でも、natif.aiのインテリジェントキャプチャーにより、情報を読み取ることができるほか、手書き文字から、テキスト情報を取得したり、チェックボックスの認識も可能にしたりといった機能を持つ。また、複数ページの文書を含む異なる文書が、ひとつのファイルとして表示された場合にも内容を判別し、文書ごとに分別して読み取ることができる。

くしゃくしゃな帳票の読み取りもできる

 さらに、natif.aiの学習済みAIモデルによる伝票チェックの自動化では、PFUのスキャナーを使って、異なるタイプの帳票を一括でスキャンし、これをnatif.aiが自動認識して、ワークフローを分岐。注文書や請求書は「取引書類」に格納し、宅配便やカードの申込書は「その他」に自動的に格納することができる。続けて、DocuWareによって、異なる書類の突合処理を自動で行うことができる。経理担当者はスキャンするだけで、ほとんどの作業が不要で処理が完了する。

請求書であることを認識して自動で分類し格納する

 一方、契約書などの非構造化文書からのデータの自動抽出においては、natif.aiのインテリジェントキャプチャーによって、非定型の契約書から、契約先や企業名、契約日といった必要な情報を抽出。これらのデータをDocuWareに格納。契約書の内容についても、テキストとして保存できる。さらに、これらのデータを学習することで、リコーのAIを活用して、「納期が順守できない場合の適切な対応方法について教えてください」と質問すると、それに対する回答が得られるとともに、その回答に合致する契約書を格納したデータから呼び出して、参照することができる。

リコーのAIを活用して回答を得ることができる

 natif.aiは、現在、ドイツ語、英語に対応しており、2024年9月までに、今後、日本語、フランス語、スペイン語にも対応する。

ドイツ語の手書き文字を認識しているところ

 なおnatif.aiは、DocuWareのオプション機能として販売するほか、リコーが持つOCRやスキャンなどに活用。リコーのアウトソーシングビジネスにも活用していく考えを示した。

 リコーは、OAメーカーから、デジタルサービスへの会社への転換を目指しており、ワークプレイス領域において、デジタルサービスを展開。それをけん引するのが、リコーデジタルサービス(RDS)ビジネスユニットである。RDS BUでは、「ワークプレイス領域」を重点領域に位置づけ、ビジネスプロセスオートメーションと、ワークプレイスエクスペリエンスと呼ぶコミュニケーションサービスの2分野に経営資源の集中を進めている。今回の買収は、ビジネスプロセスオートメーション分野での取り組みとなる。

デジタルサービス展開をRDSがリード

 リコーの入佐コーポレート上席執行役員は、「リコーは、全世界140万社を対象にビジネスを行っている。そのベースにあるのが、MFPや、PFUのスキャナーをはじめとしたエッジデバイスであり、それをネットワークやITで結んだプラットフォームによるビジネスを展開している。培ってきたドキュメント、プロセス領域の技術に、AIテクノロジーを活用することで、お客さまの業務のタスクゼロを実現することを目指している」とする一方、「リコーは、1990年ごろから、AIや深層学習に投資を行い、研究を行ってきた。直近の10年間では、AIをビジネスに展開するために、画像・空間認識系、自然言語系の2つの領域で価値提供を行ってきた。リコーには、AIに関する技術の蓄積があり、300人のエンジニアがAIと機械学習を活用した価値づくりを進めている」などと述べた。