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光電融合デバイスを手掛ける「NTTイノベーティブデバイス」が始動、第3世代デバイスの試作機も公開

 IOWN構想に対応した光電融合デバイスの開発、生産、販売などを行うNTTイノベーティブデバイス株式会社が6日、事業戦略について説明した。また、2025年度に商用化する予定の第3世代光電融合デバイスの試作機も公開した。

 NTTイノベーティブデバイスの塚野英博社長は、「光電融合デバイスは、長距離伝送による通信領域から、データセンターやサーバーなどのコンピューティング領域、コネクテッドカーやPC、スマホなどのコンシューマ領域にも適用させることで、適用台数を数万個から数億個にまで広げることができる。スケールを追うことを目指しており、それに向けたコストダウンと量産化にも取り組んでいく。2030年の世界人口は85億人が見込まれているが、ここに掛け算をする規模を想定して、事業を進めていく。IOWN構想により、光のメッシュを世界中に張り巡らせ、デジタルツインの社会を構築し、社会の課題解決やカーボンニュートラルに貢献したい」などと述べた。

 また、「2023年3月期の業績は379億円であり、これを、早期に4桁億円(1000億円規模)の売上高をすることを狙う」とした。

目指す光電融合デバイスのアプリケーション

 NTTイノベーティブデバイスは、NTTが提唱するIOWN構想の実現に向けて、NTT研究所の光電融合技術部門を切り出して、2023年6月12日に設立された企業で、光電融合デバイスの市場投入と事業拡大の加速をミッションに掲げている。8月1日には、デバイス事業会社のNTTエレクトロニクスを統合し、光電融合デバイスの設計開発、製造、販売などの機能を持つ専業メーカーとして事業を開始した。

新会社の設立

 社員数は566人、グループ合計で1148人を擁するNTTの100%子会社である。現時点での資本金は66億円だが、300億円の資本剰余金がある。米国、欧州、中国に販売会社を持つほか、製造会社として、古河電工との合弁会社であるNTTデバイスオプテックおよび古河ファイテルオプティカルデバイス(FFOD)などがある。また、技術会社では、光電融合のNTTデバイスクロステクノロジ、アナログICのfJscaler、シリコンフォトニクスのAloe Semiconductorを持つ。

 「NTTグループはネットワークを中心にソリューションサービスを提供する企業であるが、NTTイノベーティブデバイスは、ハードウェアの構成部品であるデバイスを扱う企業。異端であり、異なるビジネス領域にある。培ってきた光電融合の技術をしっかりと事業化するためには、ひとつにまとめていく必要があり、事業会社の形をとった」と説明した。

グループの構成:開発~販売までの一貫体制

 なお塚野社長は富士通出身で、同社代表取締役副社長やCFO、CHO、CSOを歴任。2019年6月に副会長に就いたが、2020年3月に退任していた。一方で同年に、NTTアドバンステクノロジ顧問、NTT研究企画部門シニアアドバイザーとしてNTTグループに参画。2021年7月からNTT IOWN総合イノベーションセンタ長に就任し、2023年8月1日付で、NTTイノベーティブデバイスの社長に就いた。

NTTイノベーティブデバイス 代表取締役社長の塚野英博氏

光電融合デバイスとは?

 光電融合デバイスには、3つの技術チャレンジがあるという。

 ひとつめは、光電波路の設計技術であり、実装する基板に埋め込むイメージで作り上げることになるという。2つめは、光調芯の検査および量産技術となる。らせんを描きながら進む光を制御し、接続においては、精緻(せいち)に芯と芯をあわせるための技術革新に取り組むという。3つめは、DSPによるロジックICや、半導体技術であるアナログIC技術、シリコンフォトニクス変調素子および薄膜レーザー素子の技術だという。

 「ムーアの法則には限界が訪れているとの指摘があるが、それを超えるキーテクノロジーのひとつが光電融合技術になる。電気での限界を光と電気の融合によって解決し、将来は光に置き換えていくことになる。また、長距離伝送の領域だけでなく、データセンター内部をはじめとしたコンピューティング領域にも適用し、出荷数量を増やしていく。より薄く、小さく、安く提供していくことを目指す」と述べた。

 また、IOWN構想への取り組みを4階建てで表現。「インフラハードを作るための光電融合デバイスが1階、SWB(Super White Box)を活用し、メモリカードやGPUカードに光電融合デバイスを組み合わせることで電力消費の削減などを実現するのが2階。ディスアグリゲーテッドコンピューティングによる演算向上や消費電力の削減につなげることも進める。また、光や無線をソフトウェア化し、オーケストレータとしての役割を実現し、アプリケーションを提供することが3階となる。ホワイトボックス装置対応のネットワークOSのBeluganos(ベルガノス)もここに含まれる。その上に、業種ごとのソリューションやサービスを構築し、提供するのが4階となる」などを比喩した。

 光電融合デバイスは、2032年には第5世代にまで進化させる計画を打ち出している。

 最初はCOSAと呼ばれるものであり、13.5×10.5×2.2mmのサイズに収めた光回路で構成。信号処理を行うDSPと、光源となるレーザーは別途調達することになる。2023年に入り、CoPKG(コパッケージ)に進化。COSAで提供していた光回路とDSPをひとつのパッケージとして構成し、11.5×21×3mmのサイズに収めることができる。

 「パッケージ化することで、異なる信号処理を最適化する作業が不要になり、技術力が高くない企業でも新たな技術を利用でき、光電融合デバイスの間口の広がりにつなげることができる。NTTは、複雑なシリコンフォトニクスや信号処理の設計を実用化している点に強みがあると自負している」(NTTイノベーティブデバイスの富澤将人副社長)。

NTTイノベーティブデバイス代表取締役副社長の富澤将人氏

 第3世代は、光エンジンと呼ばれるもので、2025年に商用化する。サイズは大きくなり、20×50×7mmとなるが、FAU(Fiber Array Unit)を取り込むとともに、光回路や信号処理方式の変更により、省電力化や高速化が図られるという。ボード接続用PEC(Photonics Electronics Convergence)と呼ばれるもので、中心部にLSIを配置し、それを取り囲むように16個の光エンジンを配置する構成となっている。3.2Tbps/2mmの伝送容量を持つ。

 第3世代ではデータセンター内での活用も想定している。2025年に開催される大阪・関西万博では、第3世代の光電融合デバイスを公開する予定であり、「万博では、アプリケーションやソリューションを実装したミニモデルを紹介する形になる」(NTTイノベーティブデバイスの塚野社長)とした。

2025年度に商用化する予定の第3世代光電融合デバイスの試作機

 第4世代は、2028年に商用化する予定で、薄膜レーザーも取り込みながらも、5×10×3mmへと大幅に小型化。さらに、省電力化や高速化を実現する。「チップとして、光融合デバイスを構成できるようになり、チップ同士の接続にも光が利用されることになる」という。

 2023年には、第5世代へと進化。半導体パッケージのなかに光電融合を取り込むことができ、2×5×2mmという超小型サイズを実現する。「1円切手の3分の1ぐらいの大きさになる。また、Heterogeneous System MCMにより、機能ごとの光電融合チップレットによって構成するため、コストや機能のバランスが取りやすいという特徴がある」などとした。

光電融合デバイス構成・諸元

 また、量産技術の確立までは自社で行うが、量産そのものの方法については検討していることを示しながら、「特に、第4世代以降になると、販売先の対象が、それまでのセットメーカーから、半導体メーカーに変わることになる。自社保有の生産設備だけでなく、外部の生産インフラの活用も検討していく。拡大する需要に対応できるキャパシティを確保していくことが大切である」と語った。

 設備投資については、第3世代までは生産委託を想定しているため、今後数年間は、100億円以下の投資にとどまるが、第4世代以降に、1000億円以上の投資が必要になると想定しているという。

 「第3世代の光電融合デバイスをしっかりと商品化し、これがデータセンターに入っていくことが経営の土台になる。その上で、第4世代以降の光電融合デバイスを、圧倒的な飛躍につなげたい。かつては、PCやスマホに新たなテクノロジーを持った部品を導入する際に、値ごろ感は3000円だと言われていた。技術だけでは商売にならない。コスト耐性も培う必要がある。10万円の単価が、1万円を割り、3000円を割り込むようにしなくてはならない。市場の声を聞き、狙っている顧客に広げていく」と語った。

 一方、塚野社長は、「NTTエレクトロニクスは、長距離伝送を中心に追いかけてきた企業であったが、ここに、コンピューティングの世界を狙うためのアクセラレータを持ち込んだのが、NTTイノベーティブデバイスという会社である。これまでのビジネスに、ターボチャージャーを搭載したようなものであり、マーケットに取り組む姿勢がこれまでとは大きく異なる。コストを下げないと、ボリュームが出ない。このトレードオフをとらえながら、収益を確保していくことになる」と語った。

 さらに、「生活を便利にしようとすると、それを支えるデータセンターが大規模化し、発電所が必要になるほどの電力が必要になる。光電融合デバイスは、快適な生活をするために必要となる電力の引き下げに貢献できる」としたほか、「スマホのなかに光を持ち込むことは、現時点では、アグレッシブな考え方といえるが、スマホのエンジンが大規模化するなかで、電気で接続する方法では、さらに多くの熱が発生し、電力消費も大きくなる。光電融合は熱の課題も解決でき、性能を高め、駆動時間も長くできる」などと語った。

 なお、ラピダスに対しては、「とても期待している。前工程から後工程までをやるということは、NTTイノベーティブデバイスとの接点が広がり、深くなるきっかけになる。2nmに対する期待感もあり、さらに、光電融合チップレットをHeterogeneous System MCMの構成部品のひとつとして活用してもらいたいと考えている。ラピダスが外販する半導体パッケージのなかに光を活用する場合にも接点が生まれるだろう」などと述べた。