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セールスフォース、Hyperforce上で動作する「Salesforce Data Cloud」など2つの新ソリューションを国内で提供へ

生成AIへの取り組み強化についても説明

 株式会社セールスフォース・ジャパンは19日、パブリッククラウド向けインフラアーキテクチャのHyperforceで動作する「Salesforce Data Cloud」と「Salesforce Marketing Cloud Engagement」を、2024年1月までに国内で提供開始すると発表した。また、生成AIへの取り組みを強化していることについても言及。2023年3月以降、Sales GPTをはじめとしたEinstein GPT製品群による生成AIを発表しているほか、6月には、エンタープライズ向けに生成AIを提供する「AI Cloud」を発表したことにも触れた。

 セールスフォース・ジャパンの小出伸一会長兼社長は、「生成AIは、CRMの在り方を変え、企業と顧客の接点に革命をもたらす存在であり、AIを活用した顧客管理ではSalesforceの右に出る企業はないと自負している。お客さまのビジネスに最もインパクトを与えるところにAIを提供することで、お客さま自身が、その先の顧客をよりよく理解し、つながりを深められるように支援する」と述べた。

セールスフォース・ジャパン 代表取締役会長兼社長の小出伸一氏

2つの新ソリューションをHyperforce上で提供

 今回発表したSalesforce Data Cloudと、Salesforce Marketing Cloud Engagementは、Hyperforce上で提供。国内にデータを保存し、コンプライアンスや拡張性、可用性、俊敏性といった利点を享受するための選択肢を用意したという。

ビジネスの信頼性を支えるHyperforce

 セールスフォース・ジャパンの小出会長兼社長は、「Data Cloudは、SSOT(Single Source of Truth)を構築できるSalesforce独自のデータ基盤であり、Customer 360とネイティブに連携し、モバイルやウェブ、外部APIなどを通じて、さまざまなデータをリアルタイムで取り込むことができる。Data Cloudと自動化のテクノロジーを組み合わせることで、あらゆる顧客データを最大限に活用し、あらゆるタッチポイントで、顧客とリアルタイムで関わることができる」とした。

 Salesforce Data Cloudは、2022年9月に開催した同社年次イベント「Dreamforce 2022」で、Salesforce Genieとして発表され、その後、Salesforce CDP(Customer Data Platform)として提供されていた。すぐに使えるコネクターを通じて多様なソースに接続。エンゲージメントやアナリティクス、機械学習、アクションにつなげるために、単一の統合したビューを提供する。また独自のデータ基盤により、調整済みや一体化済みの一元的な顧客プロファイルを作成し、Real-time AutomationやReal-time Einstein AIにより、Customer 360製品全体にわたって、各顧客向けにパーソナライズしたサービスの提供を支援する。

 さらに、Data Cloudを利用することで、企業はビッグデータを最大限に活用し、あらゆるチャネルやタッチポイントにおいて、リアルタイムで顧客との関係を築くことができる。例えば、営業部門では見込み客がコンテンツに接するタイミングをリアルタイムで把握し、パーソナライズした形で見込み客と関わることができるほか、サービス部門では顧客からの問い合わせを受ける前にこれまでの状況を把握し、迅速に解決を図れるという。

Salesforce Data Cloud
Customer 360とネイティブに連携

 セールスフォース・ジャパン 専務執行役員 カスタマーサクセス統括本部 統括本部長の宮田要氏は、「IT部門が、独自の連携機能の設計や開発、テストに費やす時間は36%を占めており、かつてない規模にまでデータが増加するなかで、データ連携は難題となっている。これを解決するのがSalesforce Data Cloudとなる。信頼できる唯一の情報源を構築し、統合された顧客データを中心に、Salesforceのさまざまなクラウド製品を組み合わせて利用することで、強力なインテリジェンスと大規模な自動化を実現できる」とした。

セールスフォース・ジャパン 専務執行役員 カスタマーサクセス統括本部 統括本部長の宮田要氏

 一方、Marketing Cloud Engagementは、Hyperforce上で稼働させることで、最新のAI技術を活用するとともに、パーソナライズ化したキャンペーンの提供を実現できる。

 宮田専務執行役員は、「キャンペーン計画および実行ツールであるジャーニービルダーを利用することで、さまざまなチャネルやメッセージを連携させて、カスタマイズした顧客体験を実現できる。データとAIを駆使して、最も効果的なコンテンツを最適なチャネルやタイミング、頻度を自動で判断して提供。エンゲージメントに基づき、顧客ごとに異なるパスを決定し、最適なメッセージの配信を行える」としたほか、「ユーザーが開封、クリック、登録解除、コンバージョンする確率を考慮し、最も効果的なエンゲージメントを展開できる。Marketing Cloud Engagementを使用することで、顧客エンゲージメント率を平均32%増加可能だ」と述べた。

 また、小出会長兼社長は、「Data CloudとMarketing Cloud Engagementの組み合わせにより、マーケティングROIを向上させることができる」と語った。

Marketing Cloud Engagement

 Hyperforceの特徴についても説明。完全に再構築された次世代インフラアーキテクチャにより、Salesforceを主要パブリッククラウドで安全に展開できることを強調。「Salesforceが提供するセールス、サービス、マーケティング、コマース、業種別クラウドなどにおける新たな基盤になるのがHyperforceである。パブリッククラウドのスケールと俊敏性を活用しながら、世界各地のデータセンターからサービスを提供できる仕組みである。パブリッククラウド上で共通のソフトウェア基盤、共通のツール、標準化されたセキュリティやプロセスを実現できる点が特徴である」(宮田専務執行役員)と位置づけた。

ファーストパーティデータセンターとHyperforce

 国内におけるデータストレージオプションを用意しており、データを国内に保存できるほか、ゼロトラストフレームワークや高度な制御機能、エンドトゥエンドの暗号化により、データのセキュリティを確保。柔軟なインフラ設計であることから、増大するワークロードにあわせて拡張できる特徴を持つ。

 小出会長兼社長は、「Data Cloudなどを支えるインフラには、拡張性だけでなく、セキュリティ、プライバシー、俊敏性、信頼性が必要になる。また、日本のお客さまのデータを国内に保存できる選択肢も必要である。これを実現するのがHyperforceである。データクラウドをHyperforce上で提供することで、規制業界のお客さまや、グローバル企業のお客さまに大きなメリットを提供できる」とした。

 Hyperforceは、日本をはじめとして12カ所で展開しているが、2023年中には17カ国に拡張する予定だという。

レジデンシーとコンプライアンスのための選択肢と管理を提供

 さらに「Data CloudとHyperforceは、生成AIの活用にも役立つ。信頼できるデータを、CRMの観点から提供でき、生成AIを効果的に活用し、パーソナライズしたサービスを顧客に提供できる」(小出会長兼社長)とした。

Salesforceの生成AIへの取り組み

 今回の説明のなかでは、Salesforceの生成AIへの取り組みについても言及した。

 Salesforceは、2014年からAIに注力しており、2016年にはCRM向けAIであるSalesforce Einsteinを提供開始して、約10年間に渡って改善を重ねてきた経緯がある。

2014年からCRM向けAIに注力

 同社によると、Einsteinは、Salesforceのクラウド製品全体にネイティブに取り込むことができ、成約の見込みが大きい商談に注力するための商談スコアリング、商談につながる可能性が高いリードを優先するリードスコアリング、受信メールの内容を踏まえて商談を進めるメールインサイトなど、業務の優先順位を決定することに、AIを活用してきた。現在、週あたり1兆回以上の予測処理実行数があるという。

AIによるインサイトをもとに、業務の優先順位を決定

 また、Salesforceでは、AIの研究者やデータエンジニアにも投資を続け、227件のAI研究論文を発表し、300件のAI関連特許を取得している実績も持つ。

 小出会長兼社長は、「生成AIの登場はテクノロジー業界にとって大きな分岐点になる。Salesforceでは、これまでの予測AIとしての取り組みから、生成AIへの取り組みへと移行している。すべての企業は、より高い生産性と効率性を実現し、ビジネス環境に対するレジリエンスを高めるために、AIを中心に戦略を考える必要がある」とした。

 Salesforceでは、2023年3月以降、同社のクラウド製品に生成AIを搭載している。例えば、Sales GPTでは、見込み客に送信するためのメールを生成し、営業担当者が顧客との時間をより多く取れるように支援。Service GPTではコールセンターのサービスエージェントの回答や要約、ナレッジ記事の生成を支援する。そのほかにも、Service GPT、Marketing GPT、Commerce GPT、Tableau GPT、Slack GPTを用意し、ワークフローの改善や生産性向上に貢献しているという。

Sales GPT
Service GPT

 2023年6月には、エンタープライズ向けに信頼できる生成AI を提供する「AI Cloud」を発表。データ、アナリティクス、自動化の機能を統合し、顧客体験と企業の生産性向上を支援できるという。セールス、サービス、マーケティング、コマースといったさまざまなアプリケーションやワークフローで、オープンで、リアルタイムの生成を行う機能も提供している。

 AI Cloudは、データクラウドやCRMとともに、Einstein GPT Trust Layerと呼ぶ信頼性が高い企業向けAIで構成しているのが特徴だ。Einstein GPT Trust Layerは、ダイナミックグラウンディングという手法を用い、CRMから取得した顧客のコンテキストを使用してプロンプトを生成。これを大規模言語モデルで活用し、モデルから関係性の高い出力を得ることができる。データマスキングや有害性の有無、バイアスの有無を精査し、コンプライアンスを確保するための監査も行うほか、顧客データはSalesforceの外部に格納や保持されることはなく、データプライバシーとセキュリティを確保しながら生成AIのメリットを享受できると説明した。

Einstein GPT Trust Layer

 さらにSalesforceでは、OpenAIとの連携により、Hyperforce上にOpenAIの大規模言語モデルをホストし、特定タスク向けの用途で活用。AnthropicやCohereの大規模言語モデル、Amazon SageMakerやGoogle Vertex AIなどのモデルも活用できるようにしている。

 小出会長兼社長は、「日本の企業経営者は、競争力を維持するためには、AIに投資をしなくてはならないと認識していることが伺われる」と発言。セールスフォース・ジャパン マーケティング統括本部プロダクトマーケティングシニアディレクターの松尾吏氏も、「AIはあれば便利なものから、企業の成功にとってなくてはならないものへと変化していくことになる」と指摘した。

 だが、その一方で、AIの効果的な導入に苦戦している経営幹部は76%に達しているのが現状であり、生成AIの導入においては、データの制約や品質の課題、システム連携の課題、既存システムやプロセスなどによる変化への適応の遅れといった課題があるという。また、信頼性についての懸念も大きく、個人情報を含むデータを学習に使われる懸念や、生成AIによるハルシネーションの課題なども指摘されている。Salesforceでは、Einstein GPT Trust Layerによって、こうした課題も解決できるとしている。

 なお、セールスフォース・ジャパンは、7月20日、21日の2日間、ザ・プリンスパークタワー東京およびオンラインで、年次イベントの「Salesforce World Tour Tokyo」を開催する。ビジネスにおけるAIやデータの活用方法などを通じて、最新のテクノロジーや顧客事例を紹介。AIとデータ、CRMとの融合によって実現する世界を提案することになるという。事前登録制で、参加は無料。

Salesforce World Tour Tokyo