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富士通、量子コンピューティングとHPCを組み合わせて自動的にハイブリッド計算する技術を開発

 富士通株式会社は8日、分子の性質や構造を電子や原子の相互作用をシミュレートして解析する量子化学計算の問題に対して、量子コンピューティング技術とハイパフォーマンスコンピューティング(以下、HPC)を組み合わせて自動的にハイブリッド計算する、量子・HPCハイブリッド計算技術を世界で初めて開発したと発表した。量子コンピューターやHPCのハードウェア層だけでなく、それらの上位層の各アルゴリズムまでを自動で組み合わせて最適計算を可能にする技術は、世界初になるとしている。

 開発した技術は、量子コンピューティング技術やスーパーコンピューター「富岳」に代表されるHPC技術、量子インスパイアード技術「Fujitsu Quantum-inspired Computing Digital Annealer(以下、デジタルアニーラ)」など、富士通がこれまで培ってきた次世代コンピューティング技術を結集。量子化学計算の問題に限らず、顧客の解きたい問題に対して計算時間や演算精度、コストといった要件に応じてAIが最適なコンピューターを自動で選択し演算できるソフトウェア構想「Computing Workload Broker」の先駆けとなる計算技術だとしている。

 量子化学計算で用いられるアルゴリズムでは、精度の高い解を得るまで何度も反復計算する必要があり、原子間の距離の変化に伴い、量子、もしくはHPCのどちらのアルゴリズムが最適なのかを適切に判断できない課題があった。これに対して、分子に対するアルゴリズムの収束の様子を分析することで、どちらのアルゴリズムを用いると精度が高いかを推定可能な技術を開発。HPCアルゴリズムが精度的に不得意とする問題では、アルゴリズムが解を算出するまでの収束状況に特定のパターンが検出されるため、問題に対して試験的にHPCアルゴリズムで前処理を実行することにより、最適なアルゴリズムの判別が可能となる。

 また、量子化学計算では、無数に存在する分子構造ごとの収束性の正確な推定が難しく、事前に精度の高い解を得るための時間や費用の見積もりが困難なことが課題となっていた。そこで、富士通が独自に開発を進めている適応型AI技術を用いて、分子構造とアルゴリズムの反復計算と計算時間の関係性を学習することで、事前に計算量を推定可能なAIモデルを構築し、精度の高い解が得られるまでの計算量をもとに必要な時間や費用の算出を実現した。

 これらの技術により得られた量子・HPCアルゴリズムの判別情報や、推定の計算時間と費用に加え、計算資源の使用状況も加味することで、利用者が望む計算時間や費用に応じて量子化学計算の性能を最適化できる。これにより、利用者は、量子・HPCといった計算資源を意識せずに、自身の要望に最も添う形で、量子化学計算の問題を解くことが可能になる。

 富士通は今後、本技術の有効性検証やさらなる技術開発を通じて、高度なコンピューティング技術とソフトウェア技術を誰もが容易に利用できるサービス群「Fujitsu Computing as a Service(CaaS)」に適用するなど、誰もが専門知識を必要とせずに利用可能なコンピューティング基盤の開発を進めていくとしている。

量子・HPCハイブリッド計算技術の概要