ニュース

日本IBMと北九州市が連携協定を締結、DX拠点「IBM地域DXセンター」を11月に開設へ

地域のDX推進や雇用の創出、企業誘致活動の促進などを実施

(左から)北九州市長の北橋健治氏、日本IBM 専務執行役員IBMコンサルティング事業本部長の加藤洋氏、日本IBMデジタルサービス 代表取締役社長の井上裕美氏

 日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)は4日、福岡県北九州市と、地域のDX推進や雇用の創出、企業誘致活動の促進などに関する連携協定を締結した。これらの活動を推進する拠点として、2022年11月に、「IBM地域DXセンター」を北九州市に設置することも発表。地域経済への貢献につなげることになる。

 具体的な取り組みとしては、2022年11月にIBM地域DXセンターを設置したのちに、北九州市が推進しているコクラ・クロサキリビテーションプロジェクトの第1号案件である、小倉駅周辺のミクニ魚町ビル(仮称)に同センターを移転。九州山口地域の高専や大学とのネットワークを活用した「伴走型人材採用支援」などにより、IBM地域DXセンターでの採用を支援する。

IBM地域DXセンターの北九州市への進出

 またエンジニアは地元採用とし、地場の協力会社とともに、金融機関、自動車メーカーから受託するシステム開発、運用、保守業務を行う。このほか、企業、自治体などの会計処理をはじめとしたバックオフィス業務を受託するBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)事業を推進。ここでは、AIやRPAなどの最先端技術も活用し、複雑な業務などにも対応できる体制を整える。

システム開発・運用業務を実施、BPO事業も推進する

 さらに、地域DXの推進においては、北九州市が創設した北九州市DX推進プラットフォームや、ロボット・DX推進センターとも連携。北九州グリーン成長戦略における連携も実施し、日本IBMの知見、ノウハウを活用して、企業の脱炭素化を支援する。日本IBMが持つブロックチェーン技術を活用した生産および流通過程でのCO2可視化技術も活用する考えだ。

 デジタル人材の育成も行い、人材の相互交流、学生に対する進出IT企業の認知度向上、中途人材向け就業機会の創出などを図る。北九州市が設置しているデジタル市役所推進室では、日本IBMからITコンサルティング経験者の派遣を受け入れるほか、市職員をIBM地域DXセンターに派遣することで、人材の相互交流を図り、市役所内のデジタル人材の育成につなげる。

地域DXやグリーン成長戦略を推進
デジタル人材の育成

 日本IBMでは、市内の大学向けワークショップなどを開催したり、社会人育成プログラムを提供したりするとともに、55団体が参加している北九州市SDGsスタートアップエコシステムコンソーシアムに日本IBMが参画し、スタートアップ企業との共創を行う。あわせて、IT関連企業の誘致については、日本IBMのネットワークを生かした協力も行う予定だ。

IBM地域DXセンターが担う役割

 今回の連携協定において、IBM地域DXセンターでは「先進的なITサービスの提供」、「グリーン成長戦略への貢献」、「人材に関する様々な取り組み」の3点を行うことになる。

IBM地域DXセンターで今回実施する3つの取り組み

 「先進的なITサービスの提供」では、システム開発と運用、BPO事業を展開。プロダクトやサービスの開発を、先進的なテクノロジーや開発手法の活用により高度化するという。具体的には、IBMによる超高速開発の推進と次世代開発手法「Dynamic Delivery」の活用、AIを活用したプロジェクトマネジメントである「Cognitive PMO」の活用を推進。日本IBMが持つ革新的技術の提供も行う。

先進的なITサービスの提供

 「グリーン成長戦略への貢献」では、北九州市の「北九州市グリーン成長戦略」を支援。北九州市環境局、産業経済局とともに、2050年のゼロカーボンシティの実現に向け、環境と経済の好循環による新たな成長を、産官学で協働する。これにより、新たな産業の創出や企業の競争力の強化、新たなイノベーションの創出につなげるという。

グリーン成長戦略への貢献

 「人材に関する様々な取り組み」では、産官学や地域コミュニティとの連携により、DXの基礎となるスキルから、実践に至るまでを学ぶことができる機会を提供。「地域共創DXワークショップ」を開催し、最新テクノロジーを学ぶ機会を創出する。

 また、社会人のリスキリングと就労支援を行うIBMの社会貢献プログラム「IBM SkillsBuild」を活用し、人材育成とともに就労機会の提供を行うという。

 ここでは、日本IBMデジタルサービス(IJDS)が推進しているフルリモート勤務体系や最大で65歳まで働ける人事制度、シニア層を含むITエンジニアのキャリア採用などの仕組みも活用し、UターンやIターンといった勤務の実現、仕事と生活を両立するフレキシブルに働ける環境も提供。雇用の創出や地域の活性化にもつなげたいとしている。

人材に関する様々な取り組み

 日本IBMデジタルサービス 代表取締役社長の井上裕美氏は、「地域のDXの加速推進、雇用の創出、企業誘致の推進の3点を軸に共創を進めていく。特にカーボンニュートラルへの取り組みにおいては、北九州市は日本の代表事例となっている。DXやGXのモデル都市となるポテンシャルがあり、そこにひも付くテクノロジーを活用できる」とコメント。

 「北九州市には、鉄鋼や化学などの素材産業、金属や機械などの加工組立産業を中心に、モノづくり産業を支える企業が多く、高専ネットワークとの結びつきも強い。IBM地域DXセンターは、日本の変革を支える技術力がある地域に対して、支援を行いたいと考えており、地域で推進しているさまざまな活動に参加させてもらい、テクノロジーを活用し、アイデアを具現化し、その価値を地域に定着させていく。DXの人材育成、価値の創出を産官学によって共創する拠点として、企業誘致の中核となり、北九州市のDXを加速させ、地域経済に貢献したい」と述べた。

 IBM地域DXセンターは、日本IBMデジタルサービス(IJDS)が運営。2022年1月から、北海道札幌市、沖縄県那覇市、宮城県仙台市に順次開設しており、今回の北九州市への拠点開設は、4カ所目となる。2022年中には中国地方にも開設する予定だ。

 IJDSでは、IBM地域DXセンターの展開により、地域の協力会社とあわせて、2024年までにデジタル人材を2500人規模に拡大する計画を打ち出している。

 「地域の一員となり、お客さまや地域の協力会社、地方自治体と共創し、DXを推進する拠点を目指す。地域におけるDX人材の育成と、新しい働き方の実現、地域経済の発展を通じて、日本の社会変革の加速に貢献したい」(日本IBMデジタルサービスの井上社長)と述べた。

IBM地域DXセンターについて
日本IBMデジタルサービスが運営するIBM地域DXセンターの様子

 なお、北九州市役所で行われた記者会見で、日本IBM 専務執行役員IBMコンサルティング事業本部長の加藤洋氏は、「北九州市に本社を置く、TOTOを創業した森村組(現・森村商事)は、日本から輸出した陶器の受注処理をするためにCTR(IBMの前身)の計算機を導入することを検討。このときにCTRとつながりがあった森村組のニューヨーク支店の担当者が、日本IBMの前身となる日本ワットソンの初代社長に就任した。それ以降、TOTO、八幡製鉄所、安川電機など、モノづくり日本を代表する企業とともに、産業の発展に貢献してきた」と、北九州市とのつながりを強調。

 「北九州市は、DXやGX、デジタル人材への取り組みに加えて、モノづくり企業の立地などがあり、大きなポテンシャルがある。また、北九州市では、環境未来都市への取り組みを、産官学の共創によって進めている。IBMはサステナビリティの活動を全世界で推進しており、共通点がある。北九州市に少しでも貢献したいと考えている。IBMでは、2022年から『Let's create』をスローガンに掲げ、さまざまな分野のパートナーとともに共創し、世の中をよりよく変えていくことに取り組んでいる。今回の提携もこれに沿ったものになる」と位置づけた。

 また、北九州の北橋健治市長は、「日本全体がカーボンニュートラルを目指すなかで、モノづくりの拠点である北九州市には、地方のDXやGXのモデル都市となりうるポテンシャルがあること、モノづくり産業を支えている高等教育機関の集積によって、優秀な人材を多く輩出していること、進出したIT企業への人材採用支援の成果があるといった特徴を、日本IBMに評価してもらい、今回の連携協定の締結に至った。北九州市まち・ひと・しごと創生総合戦略では、IT企業の誘致に注力しているが、2021年度までの7年間で92社の進出、2726人の新規雇用を創出してきた。日本IBMの進出により、IT企業の誘致や集積にさらに弾みをつけたい」と発言。

 「2022年11月には、IBM地域DXセンターの設置により、システム開発拠点が新設され、採用活動やBPO拠点としての準備を進める予定である。女性や若者の地元定着につながり、新たな雇用創出にも期待している。また、日本IBMが持つ最先端のテクノロジーや知見、ノウハウを生かし、さまざまなプロジェクトに取り組んでいくことを期待している。DXを推進するには、新たなビジネスモデルの創出や、新たなサービスの検討が必要である。それを成功させるには最新テクノロジーの活用が重要になる。日本IBMと共創することで、最新のテクノロジーのスキルを身に着けることができ、変革をスムーズに実現できる」としたほか、「中小企業の生産性向上、脱炭素に向けたカーボンニュートラルへの取り組みは地域における喫緊の課題である。また、デジタル人材の不足も課題である。日本IBMの進出を契機にして、街ぐるみでデジタル人材の育成を推進したい」と述べた。

 さらに、「地方創生の面で、若い世代に人気があり、比較的所得が高いIT企業の職場を確保することは、市長にとって、最大の課題であった。日本IBM,の進出が決定したことは、お盆とクリスマスと正月が一緒に来たような気分である。IT企業同士のつながりが生まれ、多くのデジタル人材が生まれる。北九州市に拠点を持つといい人材に出会えるという、企業にとって最も重要な関心事に応えることができる」とした。