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日本オラクル・三澤社長が2023年度事業戦略を説明、ミッションクリティカルシステムの近代化など5つの重点施策を掲げる

 日本オラクル株式会社は7日、2022年6月からスタートした同社2023年度の事業戦略について説明した。

 日本オラクルの三澤智光社長は、「オラクルは先ごろ発表した2022年度の業績も好調であり、新たにCernerの買収を発表するなど、元気な会社になってきていることをあらためて実感している」と述べながら、2023年度の重点戦略として、「ミッションクリティカルシステムの近代化」、「ビジネスプロセス全体のデジタル化」、「安全、安心で、豊かな暮らしを支える社会公共基盤の実現」、「社会・企業活動のサステナビリティを加速」、「ビジネスパートナーとのエコシステムを強化」の5点を掲げ、日本における事業拡大に取り組む考えを示した。

 また「トラステッド・テクノロジー・アドバイザーとして、日本の社会に貢献し、日本のITを少しでも良くしたい」とも語っている。

2023年度 日本オラクルの重点施策

今回の重点施策を取り上げた背景

 今回の会見では、この5つの重点施策に至る背景の説明に時間を割いた。

 三澤社長は、「GDPとIT投資には相関関係があると思わざるを得ない」と切り出し、「日本では、DXが叫ばれるなかでも、IT投資は1995年よりも下がっている。それに伴い、GDPもずっと成長していない。実際、DXをやらなくてはいけないと言いながらも、IT投資を大幅に増額することを宣言している経営者は少ない。つまり、IT投資の絶対額が変わらないという前提でなにをするかを考えなくてはいけない。だが、IT投資の8割は、既存システムの保守に対するものであり、新規投資は2割にとどまるという構造はずっと変わっていない。保守の投資を下げないと新規投資ができず、変革が起こらないということであり、まずはIT投資の構造を変えることが必須である」と指摘した。

日本オラクルの三澤智光社長

 また、「保守費用の多くが人件費であるのが日本のIT投資の実態である。さらに、日本は受託開発率が極端に高く、全体の88%を占めている。米国では自社開発とパッケージの比率が高い。ICT人材の配置についても日本は7割以上がベンダーに集中している。さらに、日本では、労働生産人口が減少し、同時に生産性が低いままである。日本オラクルは、こうした課題の解決に貢献したいと本気で思っている。特に貢献できる領域が、ITコスト構造の変革と、デジタル化による業務の自動化の2点である」と語った。

日本の現状認識
米国と比較してコストを変革しづらい構造が課題

 あわせて三澤社長が指摘したのが、エンタープライズITの4つの課題である。

 ここでは、「変化に追随できない複雑なシステム」、「ビジネス価値が希薄な基盤更改」、「事業継続リスクを抱えた基幹システム」、「行き過ぎたクラウド神話」の4点を挙げた。

 「現行業務プロセスありきでシステム化が進められたため、アドオンやカスタマイズが多く、システム変更に莫大(ばくだい)なコストを要している。また、ハードウェアやソフトウェアのEOSL(製品サポート終了)により、ビジネス価値が希薄な基盤を更改するための投資が強要されている。ここはベンダーが反省しなくてはならないポイントでもある」と前置き。

 「そして、企業ではパッチ適用を過度に避けた結果、セキュリティリスクを抱え続けており、障害対策が施されていないシステムの上で、基幹業務が行われている。私が知る限り、日本のミッションクリティカルシステムのほとんどが、定期的にパッチが当てられていない。データベースも暗号化されていない。DRができておらず、できていたとしても本当に切り替えられるのかが定かではないという状況にある。さらに、パブリッククラウドには得意分野があるが、不得意なワークロードまでクラウド化し、手段が目的となっている。非機能要件を満たさないクラウドの利用により、コスト削減やパフォーマンスの目標を果たせないばかりか、かえって高コスト化を招いている。オンプレミスに戻る例もある」とする。

 その上で、「こうした課題解決にも日本オラクルは貢献できる」と述べた。

エンタープライズITの課題

ミッションクリティカルシステムの近代化を支えるOCIの強み

 2023年度の5つの重点施策のうち、ひとつめの「ミッションクリティカルシステムの近代化」では、コスト構造の変革、事業継続リスクの最小化、変化対応力の両立を支援することができるとし、Oracle Cloud Infrastructure(OCI)による強みやメリットなどを強調した。

 三澤社長は、「日本において、最も多くのミッションクリティカルシステムをクラウドで提供しているベンダーが日本オラクルである。この1年で、日本を代表する企業が、既存のミッションクリティカルシステムをクラウド化し、日本の企業が抱える課題を解決してきた」とし、野村総合研究所や大日本印刷、東芝、三井不動産、NTTドコモ、ウエルシア薬局、ファンケル、パーソルキャリアの事例を紹介。

 「クラウドには、リソースの柔軟な調達、フレキシビリティ、スケーラビリティ、サブスクリプションによる課金体系といったメリットがあるが、OCIではこれに加えて、定期的なパッチ適用、データベースの暗号化、低コストでのDRサイトの実装のほか、オンプレミスでオラクルデータベースを利用している顧客であれば更改コストの大幅な低減ができ、EOSLからも解放され、運用の自動化ができる。さらに、非機能要件を満たしたデータ基盤の移行が可能である。クラウド化の失敗事例の多くは、高可用性や性能といった非機能要件が担保できないという点である。OCIは、それを担保できる」とした。

ミッションクリティカルシステムでのOCIの採用事例

 またパートナーに対して、最新テクノロジーを活用することで、低コスト、短期間でのデリバリーが可能になる手法を共有していると述べ、「これまでの仕組みでは、ミッションクリティカルシステムの移行見積もりをとったら、SIからは莫大な金額と、2~3年の期間を要するという話になる。そのため、クラウド化をあきらめていた企業もあった。新たなテクノロジーによって、ここも大きく変えていくことができる」と述べた。

OCIで実現する近代化

 三澤社長は、OCIが、ミッションクリティカルシステムのクラウド化に適している理由として、Zero Downtime MigrationやOCI Database Migrationなどの移行作業の工数を削減するツールを提供していること、アプリケーションテストの工数を極小化するOracle Real Application Testing(RAT)を用意していること、OCI Golden Gateにより、ハイブリッドクラウドおよびマルチクラウド環境での容易なリアルタイムデータ連携が可能なこと、Oracle Cloud Lift Servicesの提供やビジネスパートナーによる支援を通じて、ミッションクリティカルシステムのクラウド移行に関するノウハウの提供と支援ができることを挙げた。

移行作業の工数を削減するツールの提供
移行後 ハイブリッドやマルチクラウド環境での容易なリアルタイムデータ連携(OCI GoldenGate)
ミッションクリティカルシステムのクラウド移行に関するノウハウの提供と支援

 さらに、「汎用クラウドは、赤帽のように、軽トラックで小さな荷物を一度に配達することが得意である。高速道路を使って大型トラックで一気に運ぶというニーズもあるが、汎用クラウドは得意ではない。OCIはどちらでも対応できる点が、汎用クラウドとの大きな違いである。高速ネットワークや高速コンピュート、超高速ストレージ、デフォルトセキュリティの実装とセキュリティの自動化、ハイブリッドクラウドの実現、ミッションクリティカルシステムのためのOCIに最適化されたソフトウェアによって、OCIは、ミッションクリティカルシステムの非機能要件を埋めることができる」とした。

 ここでは、一般的なデータベースクラウドのストレージが25万IOPSであるのに対して、Oracle Exadata Database Serviceでは4480万IOPSと、性能に圧倒的な差があることや、OCI Dedicated RegionやExadata Cloud@Customer、Compute Cloud@Customerなどにより、さまざまな用途でのクラウド環境を構築できることを挙げた。

 「OCI Dedicated Regionは、パブリッククラウドと同じものを、顧客のデータセンター内に設置できる。2022年6月の新たな発表により、最小単位で12ラック、年間100万ドル(約1億3000万円)から利用できるようになった。一般的には500ラックからのサービスと言われているものが、OCI Dedicated Regionでは、より小規模、省スペース、省電力で導入でき、データソブリンの課題も解決できるようになる」とした。

 OCI Dedicated Regionでは、野村総合研究所のほか、Vodafone、オマーン・スルタン、Australian Data Centresなどが採用しているという。

オンプレミスのデータベースをそのまま移行し“安定稼働”させるストレージ
顧客の求める配置を実現し“安定稼働”を実現する分散クラウドソリューション

 また、説明のなかでは、OCIによるハイパフォーマンスコンピューティングやスマートシティなどの事例として、SUBARUや三島市などの例を挙げたほか、ISVでは、GEヘルスケア・ジャパンやスーパーストリーム、ラクラス、インフォマティカなどが、アプリケーションの提供にOCIを採用していることを紹介。

 「HPCの領域では圧倒的な実績がある。日本全国のスマートシティにおいてもクラウドで支援をしている。OCIは、2018年に完成したクラウドであり、最新技術を活用しているため、安くて、速くて、セキュアな環境を提供できる点がISVからも評価されている」とした。

Oracle Cloud Applicationsでビジネスプロセス全体のデジタル化を支援

 一方、重点施策の2つめに挙げた「ビジネスプロセス全体のデジタル化」の取り組みについては、Oracle Cloud Applicationsについて触れ、間接業務負荷を軽減し、付加価値の高い業務へ経営資源を集中できるように支援できるとした。

 三澤社長は、「Oracle Cloud ApplicationsはピュアSaaSをスイートとして提供できる点が特徴である。オンSaaSではない、ピュアSaaSとしての活用が可能であり、さまざまな規模のさまざまな業務に対応できることが、この1年で、日本において証明できた」と語る。

 また、「オンプレミス型ERPのアーキテクチャをAWSに乗せて、それをクラウドと呼んでいるSaaSもどきとは、デザインがまったく違う。これまでのERPは、コアモジュールと密結合したカスタマイズとアドオンアプリの存在が諸悪の根源になっており、アップグレードしたくても更改コストが莫大になり、インフラも複雑である。だが、Oracle Cloud Applicationsは、オンプレミスERPのデメリットのほぼすべてを解消できる。ピュアSaaSでは、アドオンが不要であるため、導入の短期化とコスト低減ができる。また、継続的な進化により、ビジネス変化に追従できる。さらに、Oracle True Cloud Methodの展開により、導入手法を標準化している」と述べた。

Oracle Cloud Applicationsで実現するデジタル化

 その上で、Oracle Cloud Applicationsでは、「データ統合」、「マニュアル作業の自動化」、「AIの活用」、「ニーズに基づいた機能拡張」、「業界向け機能の拡充」の5つの領域における機能拡張に注力していることを紹介。「新機能の80%以上を顧客のニーズをもとに開発している。ピュアSaaSであるため、新たな機能を短いサイクルで提供できる」などとした。

5つの領域における機能拡張に注力

 ここでは、Oracle Cloud Applicationsの導入事例として、三井住友フィナンシャルグループやパナソニック、本田技研工業、ファイン・トゥディ資生堂、NEC、イトーキなどを紹介した。

 「オラクルは、フルアプリケーションをピュアSaaSで提供できる唯一のベンダーである。また、シングルデータモデルにより、複数のアプリケーションがシングルデータを共有し、リアルタイムなデータドリブン経営を推進できる。足りないファクションがあった場合には、オープンなインターフェイスを使い、PaaS基盤上でアドオンアプリケーションを開発でき、これを疎結合できる。アップグレード時に発生していた課題もなくなる」と述べた。

 また、3つめの「安全、安心で、豊かな暮らしを支える社会公共基盤の実現」では、経済安全保障に求められる強靭でセキュアな社会基盤の実現を支援。「社会公共基盤にOCIを採用する動きが加速しており、デジタル庁からも大きな期待をもらっている」としたほか、4つめの「社会・企業活動のサステナビリティを加速」では、中期的な企業価値向上と、循環型経済の実現に向けて、ITの側面から支援。オラクル自らも2050年までにバリューチェーン全体でネットゼロを目標としていること、2025年までにすべてのデータセンターで100%再生可能エネルギーで使用することなどを示している。

 このほか、5つめの「ビジネスパートナーとのエコシステムを強化」では、日本オラクルとステークホルダーの強みを合わせることで、各種イニシアチブを推進。「日本を代表する企業や、スタートアップ企業とともに、共創を広げていく」と述べた。

社会公共基盤としての広がり
オラクルは2050年までにネット・ゼロの達成を目標とする