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NEC、先進AI技術を活用した創薬事業を手がける新会社を設立
がん免疫治療用ワクチンの開発・実用化を推進
2016年12月20日 06:00
日本電気株式会社(以下、NEC)は19日、ヘルスケア事業強化の一環として、NEC独自の先進AI(人工知能)技術を活用し、医薬品開発で重要な新薬候補物質を発見するとともに実用化を支援する創薬事業を開始すると発表した。
あわせて、同事業の開始にあたり、NECが発見したがん治療用ペプチドワクチンの開発・実用化を推進する新会社「サイトリミック株式会社」を設立。NECとサイトリミックは、株式会社ファストトラックイニシアティブ、SMBCベンチャーキャピタル株式会社、NECキャピタルソリューション株式会社と、各社を引受先とするサイトリミックの第三者割当増資に合意したことを発表している。
NECでは、ICTを活用したヘルスケア領域での取り組みとして、従来から創薬分野に力を注いでおり、2001年に、機械学習と実験を組み合わせて新薬候補物質を発見する独自のAI技術「免疫機能予測技術」を開発。
2014年には、同技術を活用し、山口大学・高知大学との共同研究および山口大学における臨床研究を通じて、肝細胞がんや食道がんなどの治療に効果が期待でき、かつ日本人の約85%に適合するペプチドを発見したという。
NEC 取締役 執行役員常務 兼 CMO(チーフマーケティングオフィサー)の清水隆明氏は、「当社は、最先端AI技術群『NEC the WISE』ブランドを立ち上げ、幅広い領域へのAI技術の応用を目指して研究を続けている。その中で、創薬分野においては、薬の設計領域にアクティブラーニングを用いる革新的なアプローチによって、少ない実験で膨大な化学物質から新薬候補となる物質を高精度・短期間に予測できる技術を開発した。そして、この技術を活用し、がんの第4の治療方法として注目されている免疫治療で使われるペプチドワクチンの候補となるペプチドを発見するに至った」としている。
同社が2014年に発見したペプチドは10種類以上で、2015年には、これらの様々な組み合わせの中から、ペプチドワクチンの効果を増強する革新的な新規アジュバンド(免疫補助剤)を山口大学と共同で発見。今年1月に、発見したペプチドとアジュバンドを用いて、新たな複合免疫療法の臨床研究を行うとともに、初期の安全性・有効性を山口大学で実証している。
「こうした取り組みを受けて、今回、新発見したペプチドとアジュバンドから構成されるがん治療用ペプチドワクチンの実用化に向けて、新会社『サイトリミック』を設立した。新会社では、ペプチド免疫治療という夢の実現を目指し、治験用製剤の開発、非臨床・臨床試験、製薬会社との事業化検討などを行っていく」(清水氏)と、新会社設立の狙いについて述べている。
新会社設立の発表会には、共同研究を行った山口大学 学長の岡正朗氏も同席。「ペプチドワクチンを使ったがんの免疫療法の実用化に向けては、多くの課題があった。まず、がん抗原を特定し、それに対して有効なペプチドを、膨大な数の中から見つけ出す必要がある。また、人それぞれに異なる白血球(HLA)のタイプごとに適合するワクチンが求められるとともに、ワクチンの効果促進に有効なアジュバンドの開発も必要となる。こうした課題に対して、山口大学の腫瘍抗原シーズとNECの免疫機能予測技術を活用することで、がん治療用ペプチドワクチンの候補となるペプチドを短期間で発見することができた。今年1月の臨床試験では、9例中6例で腫瘍制御効果が示唆された」と、NECとの共同研究による、新たながん治療用ペプチドワクチンの開発成果を説明した。
NECの免疫機能予測技術を活用したペプチド予測システムの特徴について、サイトリミック 代表取締役社長の土肥俊氏は、「免疫機能予測技術のアクティブラーニングでは、複数のペプチド用機械学習の予測バラツキを抽出し、自己学習で予測の弱みを分析して、弱みを補強するパターンを算出する。ペプチド予測システムでは、このアクティブラーニングにより、約5000億通りの膨大な未実験パターンの結合予測を行う。実際にシステムで実験するパターン数は約200通りだが、結合予測精度は93%を実現しており、従来は見つけられなかったペプチドを発見することが可能となった」としている。
新会社の今後の事業展開について土肥氏は、「設立後2年間は、非臨床開発を進め、治験薬としての安定性試験を行うとともに、動物による安全性試験を行う。その後、3年間で、山口大学を中核医療機関とする複数の病院による臨床試験(治験第I/II相)を進めていく」との計画を明らかにし、「最新のがん免疫学の知見と技術に基づく革新的がんペプチドワクチンの臨床開発を通して、がんを克服する社会の実現に貢献していく」と、新会社のミッションステートメントを示した。