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トヨタ自動車、Azureベースの知財プラットフォームをScalarと共同で構築

 日本マイクロソフト株式会社は3月31日、トヨタ自動車株式会社が株式会社Scalarと共同で、電子データの証拠保全を実現する知財プラットフォーム「Proof Chain of Evidence(PCE)」を構築し、運用を開始したと発表した。

 PCEは、技術情報に関する証拠力を高め、知財係争訴訟への対応力を強化することを目的に開発された。Microsoft Azure上に構築されており、Scalarの分散型台帳ソフトウェア「Scalar DL」の改ざん検知機能を利用することで、電子データの証拠を保全する。

 今回のプロジェクトは、トヨタ自動車がバーチャル組織として2019年4月に設立したトヨタ・ブロックチェーン・ラボによる取り組みの一環となっている。同日に開催された説明会では、トヨタ・ブロックチェーン・ラボは、ブロックチェーンの導入促進や効率的な開発の推進を目指し、動向調査やパートナー探しなどを行っており、「今回のシステムは、ブロックチェーン技術の専門性を持つScalarと、Azureを提供する日本マイクロソフトとの協力の下で実現した」と、トヨタ自動車 知的財産部 車両技術知財室 室長の山室直樹氏は述べている。

トヨタ自動車 知的財産部 車両技術知財室 室長 山室直樹氏

 PCEを開発した背景には、社内システムに格納された電子データに関して、改ざんされていないことの証明が困難であることが挙げられる。これまで、電子データを証拠として利用できるよう保全するには、電子公証制度を利用するか、電子データにタイムスタンプを付与するトラストサービス(時刻認証局)を用いるなどの方法が講じられていた。

 ただし、その問題点として、「電子公証制度の認証対象となる電子文書はPDFのみで、しかも10MBを超える文書は取り扱うことができない。また、タイムスタンプはコストが高いだけでなく、有効期限が10年で、それ以上の期間の証拠保全が必要な場合は再度スタンプを付与する必要があるほか、国ごとに対応するタイムスタンプが異なる」と、Scalar 代表取締役 CEO 兼 COOの深津航氏は説明する。

Scalar 代表取締役CEO兼COO 深津航氏
PCE開発の背景

 そこでPCEでは、記録した電子データがいつ、どの順序で存在していたのかを証明するほか、存在していた時点からこれまでに改ざんされていないことを、10年以上にわたって証明する。また、これらの情報を、日本はもちろん中国、欧州、米国でも、裁判の証拠として提出できる形で保全するという。

 PCEの仕組みについて深津氏は、「データ保管サービスから電子データのハッシュ値を取得し、証拠のチェーンに格納する。そこに、各国の裁判所が認めるトラストサービスを用いてタイムスタンプを付与する。ブロックチェーンシステムで非改ざんの証明を行い、各国で認証されたタイムスタンプサービスによって存在日時を確保、そのデータがその時刻以降に改ざんされていないことを示す」と説明する。山室氏は、「この証拠力は高く、裁判でも十分に使えるという鑑定を得ている」と述べている。

システム概要

 PCEの活用事例として山室氏は、「製造ノウハウやプログラムコードをこのシステムで封じ込めることができる。また、複数の企業による協業や共同開発時に、各社の知財が混ざってどちらの知財かわからなくなるコンタミネーションを未然に防止することが可能だ」としている。

 現在トヨタ自動車では、PCEの最初のユースケースとして、発明に対する先使用権の証明に向けた電子データの保全から取り組みを始めている。今後はトヨタ自動車のグループ企業や取引先企業にも展開し、知財だけでなく電子データに証拠性が求められるさまざまなシーンに展開していきたい考えだ。

活用事例