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日本マイクロソフト、ヘルスケア分野のDXを解説 遠隔医療も実用化間近に
2021年10月1日 06:15
日本マイクロソフト株式会社は9月30日、ヘルスケア分野のデジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた同社の取り組みについて説明会を開催した。
日本マイクロソフト 業務執行役員 パブリックセクター事業本部 医療・製薬営業統括本部長の大山訓弘氏は、「マイクロソフトとしては、社会と人をつなぐ新しいエコシステムの実現を目指し、PHR(個人健康情報管理)やEHR(電子健康記録)などを含めた医療全体を網羅するヘルスケアプラットフォームを提供していきたい」としている。
こうした考えのもと、同社が2020年に発表したのが「Microsoft Cloud for Healthcare」だ。Microsoft Cloud for Healthcareでは、「ヘルスケアサポートソリューションやオンラインを前提とした機能、医療データとの連携にフォーカスしている」と大山氏は語る。
医療業界の変革を支えるために取り組んでいることについて大山氏は、「患者を通じて入手したデータを連結することで患者とのエンゲージメントを向上させることがひとつ。また、多職種での連携やチーム医療などにおいて、医療従事者間とのコラボレーションを強化させたいと考えている。さらには、分散管理された状態の医療健康データを統合し分析することで、暗黙知の見える化を実現させたい」としている。
こうしたことを実現するにはセキュリティが重要となるが、「マイクロソフトでは信頼性を重視している」と大山氏。「国内や世界標準の医療情報に関するルール、法律、ガイドラインを順守することはもちろん、クラウドベンダーとしてデータを預かる立場ではあるが、そのデータを収益化することもなければ、データを使って顧客やパートナーと競合することもない。業界で最も厳しいセキュリティとプライバシー基準を順守した上で、患者から信頼を得るようにしたい」と大山氏は述べている。
すでにこの分野の事例が国内でも誕生しており、大山氏は株式会社インテグリティ・ヘルスケアのオンライン診療システム「YaDoc Quick」が「Microsoft Teams」と連携した事例を紹介した。同システムでは、予約の時間に医師がカレンダーから患者を選択し、Teamsでビデオ通話によるオンライン診療を行うというものだ。同システムにおける電子カルテ連携は未だ実現していないものの、米Epicのオンライン診療システムでのTeams連携では、電子カルテデータとの統合も実現しているという。
さらに大山氏は、今回新たに富士通株式会社の電子カルテシステム「HOPE LifeMark-HX」のニューノーマルオプションとして、Teams連携が実現したことも紹介した。「医療従事者の業務効率化を目指したもので、リモートワークやウェブミーティングを実現する。院内で診療科や職種を横断し、非対面で院内カンファレンスができるほか、コロナ禍における隔離エリアとのコミュニケーションにも活用できる。院外でも、グループ病院間でのカンファレンスに利用したり、勤務待機中の医療従事者と病院とのコミュニケーションに活用したりと、ニューノーマル時代に新たな価値を提供する」と大山氏は説明する。
4月には、米Nuance Communicationsの買収も発表した。この買収により、NuanceのAIを活用した音声データの構造化に取り組んでいるという。現在開発中ではあるものの、このAIを活用することで「Teamsでのオンライン診療時、患者との会話を自然言語処理AIによって構造化し格納できるようになる。また、患者とのやり取りからデジタルデータを瞬時に作成し、医師の承認の下、カルテとして保存する。医師が手動でタイピングしなくてもカルテデータが作成できるようになることを目指している」(大山氏)という。
国立国際医療研究センター 医療情報基盤センター センター長の美代賢吾氏は、「将来的には、キーボードやディスプレイもない状態でAIがさまざまな状況を判断し、医師の意図をくみ取るようになるだろう。診察においても、患者の名前を呼ぶと患者の3D映像が現れ、例えばベトナムなど遠隔地にいる患者の診療もできるようになる。ベトナム語は自動翻訳され、問題なくコミュニケーションも可能だ。手術も遠隔で行うことが可能となり、渡航費用がかからず日本の医師の手術が受けられるようになる」と、未来の医療についての構想を語った。
「今は非現実的だと感じるかもしれないが、このような世界が実現すると予見するようなものが現在の技術にはちりばめられている。こうした未来は必ずやって来るだろう」と美代氏は主張する。
大山氏によると、すでに日本でも遠隔医療は実現しているという。3月には、日本マイクロソフトが長崎大学、五島中央病院、長崎県、五島市と連携し、複合現実とAIを活用して離島やへき地などの専門医過疎地域に向け、リウマチ患者への遠隔医療システムを構築したことを発表している。「Microsoft HoloLens 2」や「Azure Kinect DK」を活用して実現したシステムで、「現在は実証段階だが、実用化に向けて取り組んでいる」と大山氏は述べた。