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ITセクターの営業利益と利益率が過去最高に――、日立の2021年度第1四半期決算を振り返る

海外事業も過去最高を記録

オンラインでの決算会見の様子。中央が日立 執行役専務CFOの河村芳彦氏

 株式会社日立製作所(以下、日立)は7月30日、2021年度第1四半期(2021年4~6月)の連結業績を発表したが、今回の第1四半期決算では、ITセクターの売上収益が前年同期比3%増の4428億円、調整後営業利益が前年同期から53億円増の436億円、利益率が9.8%となり、ITセクターの調整後営業利益、利益率が過去最高を記録している。

 日立 執行役専務CFOの河村芳彦氏によれば、「ITセグメントは引き続き堅調で、第1四半期としては、過去最高の調整後営業利益、利益率を達成した」という。また、社会、公共、金融、プラットフォーム事業の全体で収益が高まっているとのことで、好調さをアピールした。

 今後の見通しについては、後段であらためて説明する。

ITセクターの概況

 そして、もうひとつ過去最高となったものがある。それが、海外事業である。

 海外売上収益は前年同期比88%増の1兆4598億円で、構成比は62%。いずれも第1四半期としては過去最高を達成したという。

 河村執行役専務CFOは、「パンデミックの影響が回復しつつある地域を中心に受注は堅調であり、中国のビルシステム事業、欧州の鉄道事業、北米のインダストリー事業などが伸長している。特に、脱炭素の流れを受けた日立ABBパワーグリッド事業の受注が良好であり、第1四半期の受注高は27億ドル。さらに、受注残高は約120億ドルと、日本円にして1兆円を超える規模に達している」とする。

 第1四半期実績を地域別に見ると、日本の売上収益は11%増の9075億円と2桁成長となったが、海外での成長はそれ以上に高く、北米は97%増の3587億円、欧州は107%増の3072億円、中国は57%増の3504億円、ASEAN・インド他が98%増の98%増、その他地域が103%増の1723億円と、「それぞれ1.5倍から2倍の成長となっている」とする。

 さらに、白物家電家電事業では、トルコ アルチェリクと海外白物家電事業の合弁会社の設立を完了。7月13日(日本時間)には、GlobalLogicの買収が完了し、海外事業を拡大する地盤も整った。

 「海外白物家電事業の合弁会社の出資比率は、アルチェリクが60%、日立グローバルライフソリューションズが40%となっている。トルコに本社を置くアルチェリクは、自動車や石油などの手掛けるコチグループの1社。トルコのGDPの10%を持つ企業である。また、GlobalLogicは、買収完了前の第1四半期の売上収益、利益ともに堅調であり、第2四半期以降に貢献することになる」とした。

地域別売上収益

2021年度第1四半期全体の業績

 まず2021年度第1四半期全体の業績を見てみよう。

 売上収益が前年同期比48.5%増の2兆3674億円、調整後営業利益は同123.5%増の1304億円と増収増益。EBITは同50.5%減の1686億円、継続事業税引前利益は同50.9%減の1668億円、当期純利益は同45.2%減の1222億円、調整後営業利益率は5.5%となった。

2021年度第1四半期の業績

 河村執行役専務CFOは、「売上収益および調整後営業利益は、2020年度第1四半期を上回るだけでなく、2019年度第1四半期も上回る結果となっている。また、調整後営業利益の1304億円のうち、約75%となる982億円がIT、エネルギー、インダストリー、モビリティ、ライフの5セクターによるものであり、残りが自動車部品のAstemoと、日立建機と日立金属の上場子会社となっている。本体から収益を生む構造となっており、進捗は計画通りである。事業やコストなどの構造改革の成果により、業績は堅調に推移。パンデミックの影響が回復しつつある地域を中心に受注は堅調だった」と総括した。

 また、エネルギーセクターの売上収益は前年同期比352%増の3361億円、調整後営業利益は前年同期から45億円減の24億円の赤字。インダストリーセクターの売上収益は前年同期比13%増の1869億円、調整後営業利益は前年同期から78億円増の96億円。モビリティセクターの売上収益は43%増の3547億円、調整後営業利益は27億円増の219億円。ライフの売上収益は前年同期比9%減の2665億円、調整後営業利益は前年同期から32億円減の202億円。オートモティブシステムの売上収益は前年同期比250%増の3825億円、調整後営業利益は前年同期から337億円増の121億円だった。

 上場子会社の業績は、日立建機の売上収益が前年同期比34%増の2281億円、調整後営業利益が前年同期から88億円増の115億円。日立金属は売上収益が前年同期比47%増の2268億円、調整後営業利益が前年同期から158億円増の85億円となった。

 「IT、エネルギー、インダストリー、モビリティ、ライフの5セクターと、Astemo、上場子会社ともに、前年同期比で増収増益となった。低収益事業の見直しや、コスト構造改革の成果によるものである」と述べた。

 なお、5セクター合計の売上収益は前年同期比32%増の1兆5298億円、調整後営業利益が前年同期比136億円増の982億円。Astemoの売上収益は前年同期比250%増の3825億円、調整後営業利益が前年同期比337億円増の121億円となった。

高い成長を遂げるLumada

 Lumadaの事業売上は前年同期比38.3%増の3030億円となり、引き続き高い成長を遂げた。そのうちLumadaコア事業は同22.7%増の1620億円、Lumada関連事業が同62.1%増の1620億円となった。

Lumada事業

 また、今回の会見では、初めて、Lumadaのセクター別の売上構成比を公表。これによると、ITが33%、エネルギーが7%、モビリティが17%、インダストリーが11%、ライフが15%、Astemoおよび上場子会社が17%となった。

 さらに国内外比率は、国内が53%、海外が47%となった。これまでLumada事業の海外売上比率は約3割とされていたが、第1四半期で海外比率が一気に上昇したことになる。

 海外の成果として、タイ王国発電公社の電力需給バランス最適化に向けたデマンドレスポンス実証プロジェクトのシステムベンダーに決定としたこと、日立ハイテクの半導体エンジニアリングの米国新拠点であるHitachi Center of Excellence in Portlandの設立に向けて、半導体製造における開発期間の短縮や生産性向上、歩留まり向上に向けたソリューション展開を加速するなど、社内外の成果が出ていることを示した。

 また国内では、サントリーの新工場である「サントリー天然水北アルプス信濃の森工場」において、次世代工場モデルを目指す協創を開始。工場内のデータ統合および利活用により、高度なトレーサビリティと工場経営の実現したという。

 一方、Lumadaの2021年度通期見通しは、事業全体の売上収益が前年比42.3%増の1兆5800億円。そのうちLumadaコア事業が同33.9%増の9000億円、Lumada関連事業で同55.3%増の6800億円を見込んでいる。セクター別の構成比見通しは、ITが約40%、モビリティが約15%、ライフが約15%、インダストリーが約10%、エネルギーが約5%、Astemoおよび上場子会社が約15%。そして、国内が約55%、海外が約45%としている。

 日立の河村執行役専務CFOは、「Lumadaコア事業も、Lumada関連事業も好調に推移している。通期の1兆5800億円の計画も達成できると見込んでいる。海外事業比率が半分程度にまで高まってきた」とした。

 だが、日立全社の海外売上比率に比べるとLumadaにおける海外売上比率は低く、今後、Lumadaの海外比率をさらに高めていくことになりそうだ。

通期見通しは据え置き

 2021年度の通期見通しは、期初計画を据え置き、売上収益が前年比8.8%増の9兆5000億円、調整後営業利益は同49.4%増の7400億円、EBITは同3.6%減の8200億円、継続事業税引前利益は同5.3%減の8000億円、当期純利益は同9.6%増の5500億円、調整後営業利益率は7.8%と見込んでいる。

 「調整後営業利益の約75%を5セクターであげることになる。5セクターの通期の調整後営業利益率は8.9%であり、最終的には9%を超えると見ている。2021中期経営計画では10%を目標にしていたものの、新型コロナウイルスの影響で1年先送りにした。だが、5セクターでは、かなり目標に近いところまできている。全社でも見ても、市況回復やパワーグリッド事業買収の影響、日立Astemoの統合影響などの効果がある」とした。

 パワーグリッド事業では売上収益で2645億円増、調整後営業利益で165億円、日立Astemoでは売上収益で6090億円増、調整後営業利益で640億円、GlobalLogicでは売上収益で900億円増、調整後営業利益で180億円増の影響を見込んでいる。

2021年度の通期見通し

 セグメント別では、ITセクターの売上収益が、当初見通しに比べて1000億円増となる前年比7%増の2兆2000億円に上方修正。調整後営業利益は据え置き、前年から64億円減の2630億円、EBITも据え置き、前年から11億円増の2460億円とした。「DX需要の取り込みと、GlobalLogicの買収が貢献。5セクターや日立Astemoと、GlobalLogicのシナジー創出が期待され、Lumadaの世界展開も加速していく」と述べた。

 2021年7月に完了したGlobalLogicの買収効果として、河村執行役専務CFOは、「収益やソリューションといった観点でのシナジーに加えて、人材面でのシナジーが大きい。日本だけで雇用するのが不可能な2万1000人のデジタルエンジニアを活用できるようになるからだ」と語ったほか、「日立には、システムインテグレーションに適した人工(にんく)型人材によって構成されているが、GlobalLogic Universityという優れた研修システムを活用して、日立の人材の研修を行い、強化を図る」と述べた。

 デジタル庁創設の動きもITセクターにとっては商談機会の拡大につながる。河村執行役専務CFOは、「デジタル庁の創設は、日立にとって追い風になる。年金や医療関連でのシステム受注があるが、これについてもデジタル庁が中心となって統合していくと聞いている。システムの統廃合、新たなシステム構築の動きにも、これら受注案件の延長線上で仕事ができる」とした。

 懸念材料としてあげたのが、材料価格の高騰や部品不足だ。

 「鉄、銅、アルミの価格が上昇し、特に銅は、コンピュータの需要増大や、クルマの電動化の用途もあり、需要が拡大。材料価格が5倍になっている。この材料価格高騰の状況は戻らない。海運の輸送費用も高まり、半導体供給不足の影響もある。日立グループのなかでは、自動車部品のAstemoと、エネルギーの日立ABBパワーグリッドで、材料価格高騰の影響が生まれると見ており、契約内容の見直しや販売価格への転嫁によって対応していく」と述べた。

 材料価格高騰は、第1四半期の調整後営業利益で、グロスで250億円、さまざまな対策をしたことによるネットで200億円の押し下げ影響があったという。通期ではグロスで1000億円、ネットで850億円の押し下げリスクを盛り込んでいるという。

Green Transformation(GX)をDXと並ぶ日立の戦略目標に

 今回の会見では、日立の両輪となる戦略目標として、DX(Digital Transformation)ととともに、新たにGX(Green Transformation)を掲げた。

 日立では、日立の工場およびオフィスを含む事業所において、2030年度にカーボンニュートラルを実現すること、バリューチェーン全体のCO2排出量を2010年度比で2030年度までに50%し、2050年度までに80%削減することを目標にしているが、GXの取り組みはこれにのっとったものになる。研究開発部門による技術的イノベーションによるCO2排出量の削減と、モーターやコンプレッサーといった日立が得意とする製品や技術で効率化を進め、電力消費量の削減を目指すことで貢献することことになる。

 日立製作所の河村執行役専務CFOは、「DXとGXは、日立にとって、両輪となる戦略目標である。DXの中心なるのは、買収したGlobalLogicであり、GXの中心となるのは、日立ABBパワーグリッド(HAPG=ハップジー)である。DXとGXの両輪を回すことができる戦略的体制がいよいよ整った。いまは、2つのXに対して、どれぐらい貢献できるかが、日々のオペレーションの中心課題となっている」と語った。

 GXは今回初めて対外的に使用した言葉であり、今後、GXという言葉が日立から数多く発信されることになりそうだ。