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日本マイクロソフト、通信キャリアへのB2B2Xビジネスの創出に向けた支援を促進へ

メディア業界向けには、新たな視聴体験を協創するパートナーとしての役割を強化

 日本マイクロソフト株式会社は7日、通信およびメディア業界における取り組みについて説明した。通信業界に対しては、通信キャリアに対するB2B2Xビジネスの創出に向けた支援を促進。一方のメディア業界向けには、ニューノーマルにおいて、新たな視聴体験を協創するパートナーとしての役割を強化することを示した。

 また、「マイクロソフトは通信事業者になるのか、広告ビジネスや検索ビジネスをやるのか、あるいは映像配信サービスをやるのかいった問い合わせがある。断言できるのは、マイクロソフトはお客さまのDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援するパートナーという立場は崩さないということである。一緒になって新たなマーケットを作りたい」(日本マイクロソフト 業務執行役員 エンタープライズ事業本部通信メディア営業統括本部統括本部長の石本尚史氏)と述べた。

日本マイクロソフト 業務執行役員 エンタープライズ事業本部通信メディア営業統括本部統括本部長の石本尚史氏

通信業界向けの支援

 日本マイクロソフトでは、2021年度の事業方針において、「政府、自治体のデジタルトランスフォーメーション」と「市場、顧客のデジタルトランスフォーメーション」の2点に注力する姿勢を示しており、通信・メディア業界は、市場、顧客のDXにおいて、重点業種のひとつに位置づけている。

 石本統括本部長は、「通信・メディア業界においては、通信サービスのコモディティ化や通信の引き下げ、テレビ広告の減少といった既存ビジネスモデルの伸び悩み、MVNO事業者との競争激化や、ネットフリックスなどのOTT事業者の台頭といった新たなプレーヤーの参入、5Gや4K/8K対応、AI活用などによる技術の革新などが起こっている。通信・メディア業界に共通しているのは、新たなビジネスモデルによって、変化に対応した新たな稼ぎ方の構築が必要になっている点である」と指摘し、「日本マイクロソフトでは、これらの課題解決を支援していくことになる」とした。

 通信キャリアは、従来型の接続による通信事業の収益確保が伸び悩み、ユーザーの関心が集まる領域は、映像配信やゲーミング、IoTへと移行している。

 「今後、通信キャリアが目指すのは、さまざまな業界のパートナーとの連携によるB2B2Xモデルの確立。これによって、OTTビジネスを核にした法人向け事業の収益拡大と、通信事業のオペレーションコストの効率化による収益の拡大、新規ビジネスへの投資拡大が進むことになる。そのためには、5G のポテンシャルを活用できるインフラの構築、各業界の課題をとらえたユースケースの創出、安心で安全な通信インフラの維持と拡大が必要になる。そこにマイクロソフトが持つアセットを活用できる。エッジからクラウドまでのグローバルなハイパースケールインフラを持ち、その上でさまざまな機能を提供しながら、各業界のキープレイヤーとのエコシステムを活用したビジネス創出や、世界最高レベルのセキュリティを実現するクラウド環境を提供できる」などとし、「日本の通信事業者が、B2B2Xのイネイブラーとなり、新たな市場を創出することを支援する」と述べた。

通信業界への支援

 なお経済産業省によると、5Gがもたらす経済効果は46兆8000億円に達するという。

 日本マイクロソフト 通信メディア営業統括本部インダストリーエグゼクティブの大友太一朗氏は、「5Gはあらゆる業界で経済効果を生み、通信業界を牽引する技術になる。クラウドとエッジを結ぶ役割を果たし、Azureと5Gを組み合わせることで、世界中のあらゆるところで、コンピューティングリソースを活用できるようになる」と語る。

 また、「クラウドの力でネットワークの将来性を高めること、あくまでもパートナーとしての存在であること、プラットフォームビジネスに徹して、通信事業者と競合しないこと、オンプレミス、エッジ、パブリッククラウドまでのエンドトゥエンドで支援すること、さまざまなプロバイダーと密接に連携して顧客のネットワークを総合的に支援すること、事業やネットワークの成長にあわせた中長期で伴走することを、通信業界における6つの原則に定めている」などとした。

日本マイクロソフト 通信メディア営業統括本部インダストリーエグゼクティブの大友太一朗氏
通信業界における6つの原則

 マイクロソフトが提供するAzure for Operatorsは、この6つの原則にのっとったものと位置づけ、「Azure for Operatorsは、キャリアグレードのプラットフォームであり、2020年3月に発表したエッジコンピューティングソリューションのAzure Edge Zones、2020年3月に買収したAffirmed Networks、2020年7月に買収したMetaswitchによって、5Gのコアネットワークの仮想化やコンテナ化により、全世界60リージョン以上で展開するAzureの上で通信設備を稼働させることができる。マイクロソフトと通信事業者、パートナーとの連携によって、新たなコミュニケーションプラットフォームを提供する」と述べた。

通信事業者が求める品質のプラットフォームを提供

 Azure for Operatorsによって、専用ネットワーク環境を提供し、自動車の制御や、製造業での設備制御などを超低遅延環境で実現。半年から1年を要していたネットワーク設計を、数日から数週間で実現するとともに、マイクロソフトが仮想化基盤を最新の状態を維持、管理する。また、OPEXモデルによりネットワーク運用コストの柔軟性と効率化を実現するほか、ボイスメールなどのレガシーサービスをコンテナ化することで、設備の運用コストを最小化できるメリットがあるとした。

 「無人搬送車のコントロール、MR(ミックスドリアリティ)を活用した現場作業員の支援、高画質画像を活用した現場での異常検知ワークフローの監視など、B2B2Xとしての活用が可能になる。マイクロソフトがB2B2Xを実現する基盤を提供することで、通信事業者の事業領域が、これまでのコネクティビティにとどまらず、B2B2Xのイネイブラーへとシフトすることができる」と述べた。

Azure for Operators
B2B2Xの事例紹介

メディア業界向けの支援

 一方、メディア業界では、視聴者が求める視聴体験を把握し、コンテンツの高付加価値化が求められているという現状を示す。

 日本マイクロソフトの石本統括本部長は、「インプレスの調査によると、巣ごもりにおける時間の使い方では、動画を見るが37%で最も多く、次にテレビを見るが26%となっている。視聴者の時間の使い方が大きく変わっている。OTT事業者が大幅に契約数を伸ばしていることからもそれがわかる」と前置き。

 「OTT事業者は、1 to 1マーケティングによるカスタマイズされた視聴体験の提供や、オリジナルコンテンツの制作に巨額の資本を投下したり、制度に縛られない自由なサービスの企画、展開を行ったりといった点が市場から評価され、新たな顧客を獲得している。アマゾン、ネットフリックス、アップルの3社だけでも2020年に240億ドルの資本を投資しているほどであり、視聴体験に対する満足度が高い」とした。

 その上で、「メディア業界では、視聴者とつながるためのDXが必要であり、そこにマイクロソフトは支援ができる」と語り、Microsoft 365による業務の効率化や、動画配信プラットフォームであるAzure Media Serviceによるサービスの提供、AIによる映像解析を通じたコンテンツの高付加価値化を実現する「メディアのためのテクノロジー、プラットフォーム、ソリューションの提供」、ソフトウェア企業からクラウド企業へとシフトしてきた実績をもとに、制度設計、テクノロジー、人材育成、文化醸成といったあらゆる面からサポートする「マイクロソフト自身のDX経験」、グローバルで提携するISVとのエコシステムと日本のメディア業界に精通したパートナーエコシステムにより、「ニューノーマル時代での新たな視聴体験の創出を支援できる」と述べた。

メディア業界への支援

 同社では、DXを実現すたるフレームワークとしてデジタルフィードバックループを提示しているが、「視聴者や消費者の動向を知り、コンテンツ制作業務の効率化や高付加価値化に取り組み、コミュニケーションの手法などを見直して、クリエーティブな業務に集中。消費者に求められるコンテンツの提供につなげるというメディア業界におけるデジタルフィードバックループを実現できる」(日本マイクロソフトの大友氏)という。

メディア業界におけるデジタルフィードバックループの例
メディア業界のコミュニケーション改革

 また、「メディア業界で働く人たちを、Microsoft 365やMicrosoft Power Platformなどを活用した効率化や自動化により、高付加価値を生み出す仕事に集中できる時間を増やすことができる一方、映像素材をクラウド上に構築した環境で編集したり、映像素材の自動文字起こしや翻訳などにより、これまで多くの人的リソースと時間を割いていた業務をAIによって自動化、省力化したり、視聴動向の分析から最適な顧客体験を把握することもできるようになる。コンテンツ制作のメディア業界のオペレーション改革にも貢献できる」とした。

メディア業界のオペレーション改革

 会見では、日本における映画製作でのクラウド映像編集の事例について紹介。IMAGICAエンタテインメントメディアサービスは、映画「都会のトム&ソーヤ」の製作に、アビッドテクノロジーの「Edit On Demand」を採用。Azure上に、クラウドストレージと編集環境を構築し、自宅からアクセスして、編集作業を可能にしたという。同作品は、2020年7月の公開を目指し、同年3月から撮影を開始したが、コロナの影響で撮影が中止。2020年10月から撮影を再開していた。

 アビッドテクノロジー パートナーアカウントマネージャーの光岡久治氏は、「かつては、オンプレミス環境に、高速、大容量のストレージを用意して、編集作業を行っていたが、これをクラウド上で実現したのが、Edit On Demandである」と説明。

 またIMAGICA エンタテインメントメディアサービス 編集の西尾光男氏は、「クラウドでの編集には以前から興味を持っていたが、コロナ禍で環境が大きく変化したことをとらえて、リモートでの作業環境へと移行した。複数のコンテンツを同時に製作すること、密を避けながら、チームの作業効率を高めることを狙った。負荷の高い編集作業でも問題なく使うことかができた。監督も在宅で作業を行ったが、実用に耐えることができる環境だという評価があった。今後は、海外の案件にも活用したり、女性も就労機会が増えたりすることにもつながる」とした。

 なお日本マイクロソフトでは、メディア・エンターテインメント業界向けコミュニティとして、「Microsoft DXチャネル」を新設し、メディア業界におけるDXや働き方改革をサポートする考えも示した。

 ここでは、Microsoft Teamsを活用して、DX関連情報の提供や、ワークショップやハッカソンなど、コミュニケーションの場の提供などを行い、DX関連知見の獲得支援やDXに関するアイデアの創出、社内関係者および他社とのネットワーク構築などの成果を目指す。

 「メディア業界のワークフローを支えるパートナーエコシステムによって、グローバルの知見と日本のメディア業界を知る日本のパートナーの力を組み合わせることができる。ここにも、日本マイクロソフトの強みが発揮できる」と述べた。

Microsoft DXチャネル