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AWSがMaaSへの対応を紹介、MaaS「EMot」でAWSを利用する小田急も登壇
2020年8月20日 06:00
アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社(AWSジャパン)は19日、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)の最新動向を紹介する記者説明会を開催。Amazon Web Services(AWS)のクラウドサービスを活用してMaaSアプリ「EMot」を提供している小田急電鉄とヴァル研究所が、利用企業の立場から、AWSを活用している狙いや今後の方向性について説明した。
EMotに使われているMaaSプラットフォーム「MaaS Japan」を開発したヴァル研究所では、「ビジネスの速度優先に合致していること、変更に柔軟に対応できること、サービスの急激なスケールにも対応できるプラットフォームであること、当社エンジニアにとっても最も使い慣れたクラウドサービスであった」(ヴァル研究所 執行役員CTOの見川孝太氏)と、AWSの採用理由を説明した。
AWSでは、MaaSが登場した背景として、多様化する移動ニーズへの対応、過疎地/移動弱者へのフォロー、低炭素社会の実現といった解決しなければならない課題が健在化したことなどを挙げる。さらに技術が進化し、スマートフォンが普及、ビッグデータとそれを活用した機械学習の台頭といった状況が揃ったことで、課題を解決することが可能となったと説明する。
「MaaSの実現には、従来の、個社ですべてを解決しようとするやり方ではなく、複数社がかかわり、さまざまなプレイヤーが連携することが必須となる。Single PurposeからMulti-Purposeの時代だ。MaaSを取り巻くさまざまな領域での、AWSの活用が進行している」(AWSジャパン 技術統括本部長 執行役員の岡嵜禎氏)。
そして導入事例として、株式会社ティアフォー、トヨタ自動車株式会社、株式会社ゼンリンデータコムの3つを紹介した。
ティアフォーは、自動運転の中核となるIoTの基盤として、マネージドサービスのAWS IoT Coreを採用。コンテナサービスとサーバーレスによって自動運転プラットフォーム構築を効率化しているという。
トヨタ自動車との連携については、8月18日付けでニュースリリースを出しているが、モビリティサービス基盤としてAWSを採用し、ビッグデータの蓄積、利用基盤の強化を進めるとした。
ゼンリンデータコムは、MaaSには不可欠な地図データを提供する企業。地図情報が従来の静的情報から動的情報へと変化していることを受け、リアルタイムデータ更新などを行うために、既存のオンプレミス環境の仮想マシン1800台をVMware Cloud on AWSに移行した。さらに、機械学習モデル構築にAmazon SageMaker、エッジデバイスのコンピューティングリソースにAWS IoT Greengrassを使ったプロトタイプの構築なども始まっているとのこと。
「MaaSにAWSが採用される要因としては、マネージドサービスを利用することでインフラ部分の開発や管理はAWSに任せ、コア事業に集中できることがメリットの一点目。さらに、ビジネスアイデアをすぐに試せるオンデマンドリソースであることが二点目のメリットだ。三点目は、拡張性を内包するサービス疎結合化といった設計原則によるスケーラビリティが、クラウドならではであること。システム面、アプリケーションともにスケール化できる手法を持っている点が評価されている」(岡嵜氏)。
さらにMaaSに不可欠な、異業種を含めた複数社の連携を実現するために、権限管理や暗号化といったセキュアなデータ連係、世界に24のリージョンを持つことでグローバルフットプリントの実現、技術者には共通言語といえる豊富な技術情報による学習コスト最小化、といったメリットもあるという。
なお、マルチモーダル、決済、データプラットフォーム、ライドシェア、地図、公共交通など、さまざまなサービスが連携することでMaaSのエコシステムとなるが、それを実現するものとしてAWSでは、さまざまなサービスを提供している。
エッジコンピューティングとしてAWS IoT Greengrass、デバイスゲートウェイのAWS IoT Core、データを蓄積するデータレイクとしてAmazon S3、そのデータを活用した機械学習にはAmazon SageMaker、ユーザーが迅速にアプリ開発を行うためのAWS Amplifyなどが、コア技術として活用されている。
「2020年中に、新たにAWS Connected Mobility Solution(CMS)をリリースする準備を進めている。MaaSのリファレンス実装をテンプレートとして提供する。2017年から提供しているコネクテッドカーソリューションを、大幅に機能拡張したものとなっている」(岡嵜氏)。
小田急が進める「EMot」の取り組み
今回、AWSを活用したMaaSアプリ「EMot」を提供する小田急では、「新しい小田急」への変革を目指してさまざまな試みを行っている。その1つがEMotだ。
多くの事業者がMaaSに取り組む背景として、「技術進化によって、パソコンを使ってクーポン券を紙に印刷していた時代から、携帯電話で画面にクーポンを表示するようになり、さらにスマートフォンでの検索、決済、そして画面をチケットとして利用する時代へと変化した」と前置き。
そして、「端末にGPS、決済機能が搭載されたことで生活が大きく変わっている。例えば、タクシーはアプリとGPSによって自分の近隣にいるタクシーを呼び、降りた時には決済が終わるといったスタイルへと変化している。タクシー事業者にお話を伺ったところ、需要が多くなっている時期には価格を高めに設定し、需給バランスを取るといった施策も可能になるそうで、今後は運輸業界にとってMaaSに取り組むことは必須となるのではないか」(小田急電鉄株式会社 経営戦略部 次世代モビリティチーム 統括リーダーの西村潤也氏)と説明した。
EMotは「もっといい『いきかた』」をキャッチフレーズとする。いきかたとは、どのように移動するかを示す「行き方」と、ライフスタイルを示す「生き方」の2つの意味を持つ。
「新しい生活スタイルを始めるために利用していただくイメージ。アプリの利用例としては、複合経路検索で、通常の電車+徒歩という経路だけでなく、タクシー利用、バイクシェアなどさまざまな経路検索を提案する。場所によっては、カーシェアを活用するタイムズのステーションを表示することもある。小田急以外の経路を表示することが特徴で、実現のために現在は17の企業との連携を実現している」(西村氏)。
電子チケットの活用例としては、箱根を散策する「デジタル箱根フリーパス」を使って、新しい箱根周遊スタイルを提案している。
「小田急以外の利用例としては、遠州鉄道と協業し、浜松市周辺を散策するプランを電子チケットで実現した。この例からもわかるように、EMotは小田急のロゴ、小田急のテーマカラーなどを使わず、さまざまな企業との連携ができるサービスとなっている」(西村氏)。
このサービスを技術的に支えているヴァル研究所は、経路検索サービス「駅すぱあと」でおなじみ。駅すぱあとは30年前に誕生したサービスで、個人利用から、組み込み、法人活用などさまざまな活用の広がりを見せているという。
同社が開発協力したMaaSプラットフォームが「MaaS Japan」。各機能の結合度を下げ、今後の拡張を容易に行うために機能単位で疎結合を実現。一部分はサーバーレスとすることで、実装のみに集中することができる。運用コストを抑えるために、極力PaaSを利用しているといった点が特徴となっている。
「機能単位で区分けを行い、PaaSでは実現できない部分についてはコンテナなどを利用している。例えばチケット部分については開発が必要となり、開発を行っている。外部サービスとの連携については、各機能とは別に連携を実現しており、例えば駅すぱあとについても、外部のサービスとして連携する仕様となっている」(ヴァル研究所 見川氏)。
APIについても、「すべてを自社開発するのではなく、任せられるところは外部に任せるというスタンスで、ほかのプラットフォームの活用も行っている」(見川氏)という。
なお小田急では、MaaSが必要になっている要因として、「昔の運輸事業者は、日本の人口拡大が進む中で陣取り合戦に買っていく必要があった。人口減少時代の現在では、他社と連携できる部分は連携し、利用者の利便性をあげることが必要になる。双方がWIN WINとなる仕組みが必要」(西村氏)と、外部連携できるプラットフォームが必須となると指摘する。
将来的には海外のMaaSと連携し、「自分の国で使っているサービスが、日本に来た時にはMaaS Japanと連携してサービスを受けられる世界を作ることも想定している」(西村氏)とのことだ。
日本での今後のサービスとして、チケットをまとめて購入した人が利用者に電子チケットを配布し、乗り物の中で落ち合うことを実現することや、箱根湯本駅の近くにある混浴施設のお得な電子チケットの提供、AIを活用した周遊プランニング機能や、リアルタイムでの運行情報を提供する機能の提供を予定する。
このほか、「新型コロナウイルスによって、混雑に対する関心が高まっていることから、そういった情報をリアルタイムに配信することを望む人もいるのではないか」(西村氏)と話している。