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CloudianからスピンオフしたEDGEMATRIX、5Gネットワークを活用したエッジAI事業戦略を発表

 EDGEMATRIX(エッジマトリックス)株式会社は29日、事業戦略発表会を開催した。

 同社は7月1日付けで、米Cloudian Holdings(以下、Cloudian)および日本法人クラウディアン株式会社からAI事業をスピンオフ。Cloudianに加え、NTTドコモ、清水建設、日本郵政キャピタルが出資し、9億円の資金調達を行っている。

設立経緯
ロゴ

 メイン事業となるのは、5Gネットワークを活用したエッジAI事業。「3年前、クラウディアン時代に走っている車を識別し、ドライバーの好みにあった屋外広告を表示する実証実験を行ったところ、識別精度をあげるには4Kなどの高精細映像が不可欠だった。しかし、高精細映像をAI処理するためにクラウドへ送ると、ネットワークへの負荷が大きくなり、コストや処理時間などに影響が起こる。高精細映像活用には、現場のエッジでAI処理を行うことが必要」(EDGEMATRIX 共同創業者兼代表取締役 副社長の本橋信也氏)と、新事業に取り組む背景を説明する。

 なお新会社では、エッジAIプラットフォーム事業、エッジAIデバイス事業、エッジAIソリューション事業の3つの事業を手がけていくとした。

EDGEMATRIX 共同創業者兼代表取締役 副社長の本橋信也氏
エッジAIプラットフォーム事業、エッジAIデバイス事業、エッジAIソリューション事業の3つの事業を手がけていく

“大容量データをどう処理するのか”はエッジが大きな鍵となる

 代表取締役社長に就任した太田洋氏は、カメラで撮影した映像をAIで分析する「Intelligent Video Analytics:IVA」領域には、エッジ処理が不可欠だと指摘する。

 「大容量データをどう処理するのかといった点には、エッジが大きな鍵となる。エッジAIコンピューティングでは、クラウド処理の際に必須となるデータ圧縮が不要となる。クラウドへの送信は分析数値だけを送ればよいので、送信データ量を削減可能で、結果的に送信コスト削減につながる。工場でロボットアームなどを分析結果に応じてリアルタイム制御するといった使い方においても、ネットワーク遅延を心配する必要がなくなる。人物映像を使ったソリューションについても、エッジ側で処理することで人物映像を残さずに利用するといった使い方も可能となる」(太田氏)。

 具体的な事業としては、エッジAIデバイス事業では、カメラ分離型で既存のカメラを生かしながら利用可能なタイプや、防塵・防水といった設置場所に合わせて選択できるラインアップを用意する。

Intelligent Video Analytics:IVA
EDGEMATRIX 代表取締役社長の太田洋氏

 エッジAIソリューション事業では、現状の課題として実証実験は行われるものの実用化・商用化には至らないケースが多いことや、高価なシステムは費用対効果の面で現実とはギャップがあることから、実用化・商用化を行った経験をもとにしたビジネスを展開する。

 またデプロイ時に最大限の費用対効果が出るよう、エッジAIプラットフォームベースにカスタムソリューションを開発する。専門性を持ったAI開発企業との連携により、最適なカスタムソリューションを開発していくという。

AIソリューション事業

 用途例としては、出資元である清水建設などと連携したスマートビルディングによって、セキュリティ、省エネルギー、スペースの有効活用、設備管理、生産性向上などに活用することを計画している。

 やはり清水建設との連携が見込めるスマートファクトリー分野では、AIを活用した製品の良否判定、工場ごとによって異なる製品や異なる製造ラインを構築するカスタマイズなど、ディープラーニングの知識と総合的なインテグレーション能力が必要になる。現在、清水建設と共同でプロジェクトが進行中で、実用に合致したソリューションを提供していく。

スマートビルディング
スマートファクトリー

 低コストでシステム開発を行っていくために不可欠となるエッジAIプラットフォーム事業では、マーケットプレイスの提供を行うほか、デバイス管理コンソール、マップビュー/エッジビューなどからなるプラットフォームを提供する。

 「プラットフォームを介して提供するアプリをコンテンツに置き換えると、iモードのビジネスモデルと似ている。iモードはユーザー、コンテンツプロバイダー、DoCoMoの三者ともWIN-WINだったが、今回はユーザー、AIアプリパートナー、当社とDoCoMoがすべてWIN-WINとなるものを目指す」(太田氏)。

エッジAIプラットフォームサービスの全体像
AI版iモード?

 マーケットプレイスで提供するAIアプリとしては、顔認証、人物プロファイル分析、車両の交通量計測、渋滞監視、在庫管理、不審物管理などを想定する。こうした標準的なものに加え、カスタム型アプリケーションを開発・提供していく計画だ。

マーケットプレイスとソリューション

 今回出資した株式会社NTTドコモ 執行役員 IoTビジネス部長の谷直樹氏は、「ドコモでも映像を使ったAIに関する研究を行い、エッジ活用の必要性を感じていた。クラウディアン時代から共同実験を行い、展示会で展示も行ってきたが、評価の声があり、市場性を感じている。また、5Gネットワークでパートナーとの共創を模索しており、その点でも協力関係が築けると判断した。実際のソリューションとしても人手不足、社会変革などさまざまな場面で活用が見込める」と話した。

 清水建設 執行役員 エンジニアリング事業本部長の関口猛氏は、「付加価値の高い施設、進化できる施設を提案することができないかということでAI、IoTに関する研究を行ってきた。その中で太田社長に会い、いろいろな相談し、いくつか実証も行ってきた上で今回の出資となった」と話した。

NTTドコモ 執行役員 IoTビジネス部長の谷直樹氏
清水建設 執行役員 エンジニアリング事業本部長の関口猛氏

 独立前に主要メンバーが所属していたCloudian Holdings Inc.のCEOであるマイケル・ツォー氏は、「自分の娘を嫁に出すような気持ち」と言いながら、「新会社は急成長しているAI市場で鍵となるエンド・トゥ・エンドソリューションを提供できる会社」と新会社にエールを送った。

Cloudian Holdings Inc.のマイケル・ツォーCEO