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北原病院グループら、NECの生体認証技術を活用した治療の意思表明ができるサービスの実証を開始

 北原病院グループ(医療社団法人KNI)と株式会社Kithara Medical Strategies International(以下、KMSI)、および日本電気株式会社(以下、NEC)は9日、治療に関する本人の意思を事前に保存し、救急医療などに活用する「デジタルリビングウィル」の実証を7月より開始したと発表した。

 今回の実証は、KMSIが提供する会員制の医療・生活サポートサービスである「北原トータルライフサポート倶楽部」の会員を対象として行う。

 北原トータルライフサポート倶楽部は、通院、介護、リハビリなど医療関係のサポートのみならず、家事や食事、外出といった一般的な生活にかかわる支援までを幅広く提供している。2018年4月より一部のサービスを開始しており、今回新たにデジタルリビングウィルを提供する。

 実証期間は2020年6月30日までの1年間で、実施場所はKMSIとKNIのほか、両者が拠点を置く八王子市内の提携医療機関数カ所を予定している。

北原トータルライフサポート倶楽部について

 KNI 理事長の北原茂実氏は、高齢化社会において「高齢の単身者が増加していることが特に問題だ」と話す。「高齢単身者が意識を失い病院に搬送されても、受け入れを拒否する病院が存在する。それは、過去の病歴を調べたり家族を捜して治療の同意を得たりすることが困難なほか、医療費を支払う人がいるかどうかさえわからないためだ」と北原氏。

 また同氏は、延命治療を拒否する人も増加傾向にあるとして、「病院は単に治療すればいいという世の中ではなくなってきている。本人の受けたい医療や生活に関する意思を事前に確認しておく仕組みが重要だ」と述べ、今回のサービス提供の背景を語った。

KNI 理事長 北原茂実氏

 医療現場で長年患者の治療にあたってきた北原氏は、「手術して植物状態になる可能性の高い患者でも、治療の中止を望む家族は少ない。一方で、その状態を見た家族は、自分はこうなりたくないと言う。つまり、治療の方針は自己責任で意思表明することが大切だ」としている。

 デジタルリビングウィルでは、生体認証で守られたサーバー内の個人サイトに、会員が自分の既往歴や生活の状態、そして治療の意思を保存する。変更が必要な場合はいつでも会員自ら変更が可能だ。同サービスを利用することで、「万が一意識不明となって病院に搬送された場合も、生体認証ですぐに身元が特定できるのみならず、本人の意思を尊重した的確な治療ができる」と、KMSI 取締役 事業推進本部 本部長の浜崎千賀氏は説明する。

 「身元がわからない患者が増え、基本情報が把握できないままでは治療ができないなど、現状のシステムでは高齢者が守り切れなくなっている。救急病院で抱える問題を、われわれのようにさまざまな事業に取り組むグループ企業として解決していきたい」(浜崎氏)。

デジタルリビングウィルで実現できること
サービスの仕組み
KMSI 取締役 浜崎千賀氏

 生体認証には、NECの「Bio-IDiom」という技術を活用する。これは、顔、虹彩、指紋・掌紋、指静脈、声、耳音響の6つの生体認証を、必要に応じて使い分けたり組み合わせたりして利用できるというもの。今回のデジタルリビングウィルでは、顔、指紋、指静脈の認証を組み合わせて利用する。

 「複数の認証技術を組み合わせることで、認識率が向上できる。今回の実証実験を通じて、技術の評価や需要などを把握し、ノウハウと知見を蓄積したい」と、NEC 執行役員常務の中俣力氏は述べている。

NECの生体認証技術、Bio-IDiomを活用する
NEC 執行役員常務 中俣力氏

 実証の開始にあたり、KMSIとKNIは「新技術等実証制度(プロジェクト型規制のサンドボックス制度)」の認定を取得した。同制度は、参加者や期間を限定することで、既存の規制の適用を受けることなく新しい技術が実証できる制度。今回のように生体認証を用いて会員の医療をサポートするような事例は「海外を含め今回が初めて」(北原氏)だという。

 北原トータルライフサポート倶楽部は、年会費が6000円からで、この金額にてデジタルリビングウィルも利用が可能。現在の会員数は50人とのことだが、「デジタルリビングウィルの提供開始に伴い、今後会員数を300人まで拡大したい」と浜崎氏は述べている。

左から、KMSI 浜崎氏、KNI 北原氏、NEC 中俣氏