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NEC・新野隆社長、“デジタルトランスフォーメーションでビジネス創造”をアピール

iEXPO2017基調講演レポート

 11月9日、NECの独自イベント「iEXPO2017」が開幕。オープニング基調講演を代表取締役 執行役員社長兼CEOの新野隆氏が行った。

 新野氏は、「Orchestrating a brighter world ――デジタルトランスフォーメーションで共に創る未来――」というタイトルで、NEC自身の変革、デジタルで変わる社会、NECが考える価値創出、2020年に向けてという4つのテーマで話を進めた。

 その中で、NECが開発した技術を事例とともに紹介したが、顔認証を含む生体認証技術については、「Bio-IDiom(バイオイディオム)」の名称でブランド化することを初めて明らかにした。「なりすましができない技術としてブランド化し、誰もが安心してデジタルを活用できる世界を創っていく」とビジネス拡大に強い意欲を見せた。

代表取締役 執行役員社長兼CEOの新野隆氏

DXを活用したNEC自身の変革事例

 冒頭、新野氏は、「昨年もこのイベントで、デジタル産業革命を支えるNECということで、われわれの技術、事例についてお話をさせていただいた。この1年間でさらにいろいろなことが進化している。どんな進化を行ったのか、お話しさせていただく」と話し、講演をスタートした。

 デジタルを活用したNEC自身の変革としては、「そもそもデジタルトランスフォーメーション(DX)とは何か、NECはどう考えているのかだが、まずデータを集め、見える化することから始まるが、この作業自体がデジタル化を進めていることになる。集めたデータを分析し、対処することで新たな意味性を付加することになる。NEC自身がDXを活用することでどう自己変革したのか、事例から紹介する」と4つの事例を紹介した。

自らの変革を基に、顧客のDXを推進するという

 4つの事例は次の通り。

1)営業・マーケティング改革として、AIを導入し潜在顧客の抽出制度を通常の4倍に。2)設計・開発の変革として、AIを導入しソフト開発における失敗を回避するために実績データから予測モデルを作成し、25%進捗した段階で成否を80%の確率で判定。
3)サプライチェーン変革として、余剰在庫削減のためAIによる需要予測をもとに生産計画を策定し、BTO製品の部材在庫を45%削減。
4)働き方改革で伝票のチェック業務にRPAを導入し、伝票処理にかかる時間を70%削減。

 事例を紹介した新野氏は、「われわれ自身がDXによる変革を進め、成功、失敗を含め、すべての経験をもとにお客さまのDXを推進していきたい」と自身の経験が事業を進めていく大きな力となっていくとアピールした。

“デジタル”による社会課題の解決を提案

 2つ目のテーマである、「デジタルで変わる社会」は、2030年の世界の状況を想定。日本をはじめとした先進国が人口減となっていく一方、世界全体を見ると人口が大幅に増加する国も増えている。

 その状況に対し、「日本の課題は、人口減少以上にものすごい高齢化が進んでいること。3.2人に1人が65歳以上になり、5.2人に1人が75歳以上になっている中で、デジタルでどう課題を解決するのか。人とAIが協調した新しい働き方の例を、製造業、金融、医療と3つの業種で紹介する」と述べ、社会課題をデジタルで解決することを提案した。

 製造業では、住友電気工業がRAPID機械学習、画像解析技術を使ってAIによる自動検査・判別を行う事例を紹介。「品質検査業務は、熟練者による検査が行われてきたが、人材不足や属人化といった課題が生まれていた。AIを導入することで、効率化、品質の安定化を実現すると共に、検査にかかる費用を60%削減することに成功した」と、今後の課題を解決する1つの可能性となることを示した。

住友電気工業の事例

 金融分野では、インターネット取引が急増し、1日で数千万件のインターネット取引が行われていることから、「人手による処理は限界に達している」という実態がある。この実態を解決する事例が、東京証券取引所が導入している、売買審査業務を効率化するためにAIを導入による不正取引検知。「ディープラーニングにより、不正発見エンジンを開発した結果、かなりの精度で不正を発見できることが明らかになった。今後、審査業務の大部分を置き換えていくことを目指している」

 医療分野では東京都八王子市にある医療法人社団KNIが導入した、不穏予兆検知を紹介した。「患者の不穏行動を予知するために、AIを導入することでバイタル情報、カルテ情報などをもとにAIで分析を行った結果、40分前に71%を検知した。高齢化の中でも課題となる医療問題においても、デジタル技術が解決のお手伝いをしていくことができる」。

医療法人社団KNIの事例

 人口が増加している社会においては、人が多く集まる場所の安全・安心が不可欠になることから、空港、街中、イベント会場と人が多く集まる場所で、安全・安心を実現している事例を紹介した。

 アメリカの主要空港においてスムーズな入出国を実現するために、ワシントンダレス国際空港で実証実験を行った。出国者を顔認証でチェックし、セキュリティを強化しながらスムーズな出国という相反するニーズに対応している。

ダレス国際空港の事例

 街中の安全・安心を実現する例としては、京都府警と共同で、犯罪発生データと、犯罪理論から犯罪リスクの高い場所、時間、種類を予測することで、効率的なパトロールを行うことを支援する。「今後、気象データなどデータを増やしていくことで、さらに予測精度をあげていくことが期待できる」とする。

 さらに、英国のサウス・ウェールズ警察と協力し、イベントにて、車に搭載したカメラからリアルタイムで監視リストの照合を行っている。「6月に私も現地に行って、利用している車に乗せてもらったが、現地の警察からは、『初めて実用的な監視が実現できた』と高い評価をもらった」そうで、実際にこのシステムを活用したことで、犯人逮捕につながったこともあるという。

サウス・ウェールズ警察との事例

AIや顔認証などの技術で価値を創出

 3つ目のテーマである、「NECが考える価値創出」では、DXによる価値創出をどのように行っていくのかを紹介した。

 ベースとなるのは、AIをはじめとした、NECが開発した技術だが、「昨年も同じ図を紹介したが、中の技術はこの1年間でずいぶん増えた」と進展が続いている状況をアピール。

 さらに、実世界のデータを価値に変換するために、「対処として2つのルートがあると考えている。1つは徹底的な効率化によって答えを出すこと。ただし、この方法ではなぜその答えに至ったのかはブラックボックス化している。例えば、『Alpha Go』では、すごい手を打つものの、なぜ、その手を選んだのかの答えは出ない。そこでもう1つのルートとして、解釈付き分析を行い、きちんと説明できる答えを出すことで、人への示唆や、人の行動の高度化につながるアドバイスを行えるようにする。人がやることはまだまだ多く、こちらも重要となる」と、2つの対処ルートを用意していると説明した。

 主要技術である顔認証は、NISTで世界ナンバー1と評価されているが、「今年は動く映像でもナンバー1評価を頂いた。好環境での照合精度99.2%に加え、悪環境でも85.4%の照合精度。85.4%というとあまり高くないと思われるかもしれないが、動画でこの精度は非常に高精度だと評価を得ている」とあらためて強力な技術であることをアピールした。

顔認証技術をアピール

 見える化技術としては、国立がん研究センターと共同で開発した、AIを活用したリアルタイム内視鏡診断サポートシステムで、大腸ポリープ発見率98%と、熟練した医師同様のポリープ発見を実現。「現在は技術発表段階で実用化はこれからとなるが、実用化に向けて進めていく」という。

 また、人の視線を遠隔から推定する技術によって、流通、防犯などの分野に活用するための開発も進められている。「これまでは見えていなかった、人の気持ちを見える化する技術であり、幅広い用途に活用していく可能性を持っている」と説明した。

遠隔から視線を推定する技術

 NECでは顔認証を大きくアピールしているが、「実は顔以外にも、虹彩、耳音響、声紋、掌紋・静脈、指紋と6つの生体認証エンジンを持っている。デジタルな世界のリスクをなくすために、なりすましができない技術として、NECの生体認証をBio-IDiomの名称でブランド化し、誰もが安心してデジタルを活用できる世界実現を目指していく」と生体認証技術トータルで、訴えていく。

さまざまな生体認証技術を持つという
生体認証をBio-IDiomの名称でブランド化

 これ以外にも、NECが持っている独自技術としてベクトル型スーパーコンピュータの新製品「SX-Aurora TSUBASA」、5G高速通信技術、通信スループット予測に基づいて映像の乱れや再生途絶を回避する適応映像配信制御技術を紹介。

 さらに、デジタル時代には必須となるサイバーセキュリティ対策として、AIによるセキュリティ異常検知サービス「ActSecure」を利用すると、「従来は人手で5日間かかっていた未知の攻撃による異常検知が、1.5時間と従来の100分の1程度に短縮することができる」などと説明した。

人が豊かに生きるための未来像を追求したい

 最後のテーマである「2020年に向けて」では、CEATEC 2017で経済産業大臣賞を受賞した、顔認証を活用した決済サービスが、「来年から、VISA Japanが実店舗に導入されることを決定した。実証実験から使える状況となっているということ」と話した。

 さらなる将来についても言及し、「2050年ごろにはどういう世界になっているのか。テクノロジーはさらに進化し、社会は大きく変わる。日本は人生100歳時代となり、AIで多くの仕事が代替えされるようになる可能性がある。その中で人が豊かに生きるための未来像を、『NEC未来創造会議』として追求していきたい」と締めくくった。

人が豊かに生きるための未来像をNEC未来創造会議として追求する