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日本マイクロソフトのAI関連施策、AI技術者育成やコミュニティ活動も強化

IDCと共同でAIの活用状況調査も実施、「AIの活用企業は33%」

 日本マイクロソフト株式会社は3日、AIを活用したデジタルトランスフォーメーション(DX)の事例などについて説明した。

 日本マイクロソフトの平野拓也社長は、「日本マイクロソフトでは、社員にパワーを、お客さまとつながる、業務の最適化、製品の変革といった観点から、AIによるDXを行っている」と、自社の取り組みを紹介。AIを活用したDXの新たな事例として、オリンパスでの活用について紹介した。

日本マイクロソフト 代表取締役社長の平野拓也氏

 オリンパスでは、同社の次世代製品およびサービスのプラットフォームであるICT-AIプラットフォームにMicrosoft Azureを採用。医療や科学、映像事業などにおいて、既存製品およびサービスの高付加価値化とともに、新規ビジネスの開拓に向けてAIやIoTを活用していくことになるという。

 具体的には、Azureを基盤としたIoTサービス「OLYMPUS Scientific Cloud」の運用を開始。各種センサーや非破壊検査用デバイスなどをクラウドに常時接続することで、ソフトウェアのシームレスな更新や大量データのバックアップ、データの可視化などが可能になり、今後、共同作業や予兆保全、データ保護にも活用する。

データをつなぐOLYMPUS Scientific Cloud

 また、AIを活用した工業用内視鏡プロジェクトとして、マイクロソフトの深層学習フレームワーク「CNTK」を用いて、工業用内視鏡で撮影したジェットエンジン内部の画像から、損傷の有無や損傷箇所を自動検知するという。

 さらに、手術効率の向上と専門性の高度化を実現する遠隔医療支援ソリューション「MedPresence」では、Azureの活用によって、医療機関に求められる高いITセキュリティを実現しているとした。

 オリンパスでは、米Microsoft本社の研究開発部門と連携し、最新テクノロジーを導入。さらに、米国や欧州のMicrosoft Consulting Servicesと連携し、最新事例から得た知見をもとに、幅広いプロジェクトを展開する。

 オリンパスの小川治男 取締役専務執行役員兼CTOは、「オリンパスが持つ既存の製品だけでは、ユーザーの要望のすべてに応えることはできない。そこに、ICTやAI、ロボティクスといった新たな技術を加えることでこうした課題を解決できる。マイクロソフトとの協業はそうした背景から取り組むもの。OLYMPUS Scientific Cloudでは、校正証明者の検索、シックネスゲージの測定値ファイルの共有、ソフトウェアのバージョンアップという領域での活用にとどまっているが、一度この基盤を作れば、さまざまなサービスを付加できる」と話す。

 さらに「これらのサービスでは、顧客のデータを預かるという点で、Azureが持つ強固なセキュリティが生かすことができる。AIを活用するシーンは、今後どんどん増えるだろう」とも述べた。

オリンパス 取締役専務執行役員兼CTOの小川治男氏
OLYMPUS Scientific Cloudの活用例。今後も、さまざまな用途での利用が期待されている

3つの観点から各種施策を用意

 また日本マイクロソフトの平野社長は、企業におけるAI利用を促進するために、「AI人材の育成」「テクノロジーおよびコンサルテイング支援」「社会変革支援」という3つの観点から、各種施策を用意していることを示した。

日本マイクロソフトの取り組み

 具体的には、コアとなるパートナー企業50社のエンジニアを中心に、2020年までに10万人のAI技術者を育成するほか、ベストプラクティスなどを共有するためのコミュニティ活動を強化しており、ディープラーニングラボの参加者が5000人を超えるなど、国内最大のAIコミュニティになったという。このコミュニティはさらに、2020年までには1万人の参加を目指しているとのこと。

 あわせて、日本マイクロソフト社内にデジタルアドバイザーを増やしDXの支援を行っていること、オープンハックなどを随時開催し、今年度だけで50のAI関連プロジェクトが進んでいることなども紹介された。

 「AIを企業課題として捉えるリーダーの育成も重要である。今後、これに関する取り組みについて発表する」(日本マイクロソフトの平野社長)。

ビジネスリーダーを対象に実施したAIの活用状況調査

 米Microsoft グローバルセールス マーケティング&オペレーション エグゼクティブバイスプレジデント兼プレジデントのジャンフィリップ クルトワ氏は、「MicrosoftではTech Intensityを掲げており、多くの企業にとって、今後、これが重要なものになる。いま企業は、新たなテクノロジーを実装すると同時に、それを使いこなさなくてはならない」と前置き。

 その上で、「最も注目を集めている技術がAIである。AIはゲームチェンジャーであり、企業や社会に対して、重要や役割を果たすことになる。だが、アジアでは41%の企業だけがAIの旅路を始めているにすぎない。当社は過去25年間にわたってAIに取り組んでおり、なかには、人の能力を超える技術もある。Microsoftは、デジタルテクノロジーを活用して自らが変革をしてきた経緯があるほか、変革した企業の事例も多数蓄積し、これらを学んでいる。そうした知見によって、企業のDXを支援ができる」などとした。

米Microsoft グローバルセールス マーケティング&オペレーション エグゼクティブバイスプレジデント兼プレジデントのジャンフィリップ クルトワ氏
AIはゲームチェンジャーだという

 一方でMicrosoftでは、日本を含むアジア地域において、ビジネスリーダーを対象に実施した企業や組織におけるAIの活用状況や課題に関する調査結果について発表した。

 これは、調査会社のIDCと共同で実施したもので、クルトワ氏が指摘したアジアでのAI利用率も、この調査結果をもとに言及したものだ。日本では150人のビジネスリーダーおよび152人の従業員を対象に調査している。

 その結果、日本でAIをビジネスに活用している企業は33%に達していること、ビジネスリーダーは、AIの活用によって生産性が現在の2倍以上になると期待していること、さらには、AI活用において「従業員のスキル」「AIを使いこなしやすいツール」「AIの利用を促進する組織文化の構築」が課題になっていることが明らかになったという。

 また73%の回答者が、AIを活用することで企業競争力を高めることができるとしたほか、AIを導入している日本の企業は、今後3年間で、2.5倍にも競争力を向上できると期待していることも明らかになった。

日本における調査結果のポイント
調査概要

 IDC Japan グループディレクターの眞鍋敬氏は、「AIがこれからのビジネスにおいて重要な意味を持つと、日本の企業においても認識されていることが浮き彫りになった。特に日本では、今後の労働力不足の課題もあり、AIの導入による従業員生産性の向上に期待している割合が高い」と分析した。

IDC Japan グループディレクターの眞鍋敬氏

 AIの導入によって、従業員の生産性向上が、アジア全体では1.9倍となっているのに対して、日本では2.3倍になると予測している。

 だが、「日本のビジネスリーダーはAIに対して、投資やデータの活用においては進んでいるが、ビジネスに活用するための戦略、AIと人が共存して働く実行能力、インフラの整備、文化の醸成などの点で、アジア全体に比べて後塵を拝している。日本の企業には、スキルを高めるための継続的な学習プログラムの欠如や、十分なインフラとツールの欠如といった課題がある。AIを活用していくための人材が必要とされるなかで、ビジネスリーダーは、従業員がどういった教育を受けたらいいのか、育成する時間をどう作るのかといったことを考える必要がある」と指摘した。