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サイボウズが2019年度の事業戦略を発表、「米国での事業を盛り上げていく」
国内を含め事業は順調に推移
2019年2月28日 06:00
サイボウズ株式会社は27日、2018年度決算と2019年度の事業戦略について説明する記者会見を開催した。
同社の青野慶久社長は、「2018年度は、連結売上高で100億円を突破。有償契約は100万ユーザーを超え、kintoneの導入社数は1万社を突破した。さらに、中国の導入企業も1000社に達した。1と0という数字が相次いだ1年だった」と、2018年度の成果を強調。「2019年度は米国での事業拡大を目指す。米国向けであるkintone.comの基盤にAWSを採用するなど、米国における体制を強化し、米国での事業を盛り上げていく」とした。
同社が2月13日に発表した2018年度(2018年1月~12月)の連結業績は、売上高が前年比18.9%増の113億300万円、営業利益は同37.5%増の11億300万円、経常利益は同45.4%増の11億9400万円、当期純利益は同57.8%増の6億5300万円と、大幅な増収増益になっている。
このうち、クラウド関連事業の売上高は前年比31.6%増の74億3400万円となり、連結売上高の65%を超えた。自社クラウド基盤「cybozu.com」上で提供するクラウドサービスの売り上げが、引き続き積み上がったという。
また営業利益は、クラウドサービスの成長に向けた投資の拡大や、エコシステムの強化を重視したほか、従業員数の増加による人件費などの増加、業務委託費の増加などのマイナス要因があったものの、高い売上成長を背景に増益となった。2018年度末の従業員数は795人で、離職率は約4.8%にとどまっている。
各製品・サービスが好調に推移
なお、cybozu.comの契約社数は2万8000社を超え、契約ユーザーライセンス数は100万人を突破。cybozu.comの信頼性強化に向けて実施している「脆弱性報奨金制度」では、“バグハンター”からの報告件数が年間362件となり、製品の堅牢性が高まっているという。
クラウド関連サービスでは、業務アプリ構築クラウドサービス「kintone」が好調に伸び、売上高が前年比50%増となった。前年に引き続き大規模な広告展開を実施し、認知度が向上したという。導入社数も1万1000社を超え、2018年7月時点で東証一部上場企業の6社に1社がkintoneを導入。さらに、一日平均1663個の新たなアプリが開発されていると数字を示した。この分野では、販売活動においてマルケトと戦略的協業を行っている。
さらに、ユーザー向けイベント「kintnehive」を全国7都市で開催し、5469人が参加。ユーザーの業務改善に必要な基礎知識や、アプリ構築のスキルを保有する人を対象にした「kintone認定資格制度」の認定者数は297人に達し、2019年度には新たに500人の認定者の増加を目指すとしている。
このほか、2018年度のグッドデザイン賞を受賞したことも紹介され、システム開発の経験がないユーザーに向けて、細部まで丁寧にデザインされている点などが評価されたという。kintoneの導入担当者は、非IT部門の割合が81%に達しているといった数字も紹介された。
kintone関連では、kintoneモバイルを大幅にリニューアルしたことも発表された。プレビュー版を3月10日にリリースするほか、4月には随時アップデートを行い、5月に正式版を公開する予定。リニューアルでは、Kintone内のアプリやレコードに到達するまでの操作性といったユーザビリティ改善、アクセシビリティへの配慮、PC版との親和性の向上などを行っている。
中小企業向けグループウェア「サイボウズOffice」は、導入社数が6万社を突破。3年連続で過去最高の売上高を達成した。サイボウズOfficeの購入者の約半数が、前職での利用経験や知人の勧めなどにより導入しているという。
青野社長は、「サイボウズOfficeが初のグループウェアという企業が約48%、前職で利用していた経験や、知人から話を聞いて購入したユーザーが約51%。口コミによって、ユーザーが順調に増加している。これは私が目指していた誰もが使えるグループウェアの姿である」とコメント。
さらに「サイボウズOfficeは日本ではトップシェアだが、日本の中小企業の全体数から比べるとまだまだである。駅伝に例えれば、まだ1区を走っている段階。グループウェアが日本で普及するのはこれからだ。グループウェアにより情報格差が埋まり、情報を共有化し、個性を生かせる社会を作ることができる」などとした。
中堅・大規模組織向けグループウェア「Garoon」では、パッケージ製品とクラウドサービスを合わせた導入社数が5000社を突破。クラウド版「Garoon」では、REST API、jsapi、OAuth認証対応などのカスタマイズ性を強化している。一方、パッケージ版「Garoon」では、中央省庁や独立行政法人、国立開発研究法人などの行政機関への導入が進んだとのこと。
今回の会見では、明電舎が、7000人規模の情報共有基盤の実現に、クラウド版Garoonおよびkintoneを導入したことも発表した。
青野社長は、「企業において情報共有やワークフローがうまく行っていないケースを『ざんねんな情報共有図鑑』として発信したところ、これが響いた。同時に、日本の企業がこうした企業内の数々の問題点に気がつき、グループウェアによってそれが解決されることを理解し始めた」とした。2019年度は、クラウド版が初めて半分以上になると予想しているという。
また、メール共有ツールの「メールワイズ」は、「メール共有の文化を広げるツールとして、導入が増加している。メール共有から開始する、ファーストグループウェアに位置づけた製品」とした。現在、メールワイズの全売上げの約75%がクラウド版になっているという。
なお、200万人以上が利用している無料グループウェアの「サイボウズLive」が、2019年4月15日にサービスを終了することをあらためて説明した。
サイボウズ製品を利用してチームワークを高めてもらう
一方、チーム応援ライセンスの申し込みが、1000件を突破したという。このライセンスは、特定非営利活動法人(NPO法人)や特定の条件を満たす任意団体向けに、cybozu.comの各種サービスを、1サービスあたり、300ユーザーまで、年額9900円(税別)で利用できるもの。
「チームワークあふれる社会を創る、というサイボウズの経営理念に沿った取り組みであり、業務効率化ツールへの投資が財政的に困難である団体にも、サイボウズ製品を利用してチームワークを高めてもらうことを狙った。PTAやマンションの管理組合、サークルなどのほか、被災地における避難所での情報共有にも活用している。被災地には無償で提供している」などとした。
また、チームワークに関する同社のノウハウを生かした取り組みとして、2017年に設立した「チームワーク総研」において、2018年度に講演120件、研修17件を実施。2018年7月からは、メソッド事業の一環として、経営者を対象にサイボウズの経営ノウハウをすべて伝授する「チームワーク経営塾」を開講する体制を整えた。2018年度には0期生を募集し、2日間のチーム型経営塾を実施したという。
海外展開も順調に推移
グローバル展開では、米国で展開する米kintone Corporationが、2018年度には前期比60%増となる270社への導入を達成。米国における従業員数は38人になったという。
「米国では、現地のローカル企業を含む25社によるエコシステムを構築できた。さらに、日本と同様の人事成果制度を用いた結果、離職率が50%から10%に減少するといった成果が出てきた。(運輸ネットワーク企業の)米Lyftが導入するといった大量導入の事例も出ている。Gartnerのマジッククアドラントでもサイボウズの特徴が認識されるようになってきた。現場に支持される製品として、チャレンジャーという立場を目指したい」などとした。
中国市場では、2018年度末時点における導入実績が1000社を突破。東南アジア市場ではkintoneを中心とした製品・サービスの導入が進み、導入社数が前期比135%の400社となった。台湾では67社がcybozu.comを利用しているという。なお、2019年1月4日には、台湾に拠点を設置した。
パートナープログラム「Cybozu Asia Partnership Program」への参加企業も順調に増加し、タイやインドネシア、シンガポールでもビジネスが拡大した。今後は、新たにインドやマレーシアなどへの販路拡大を予定しているという。
2019年度の業績見通しは
一方、同社が発表した2019年度(2019年1月~12月)の業績見通しは、売上高が129億2300万円~133億2300万円(前年比14.3%~17.9%増)、営業利益は8億3200万円~12億3200万円(24.6%減~11.6%増)、経常利益が8億8800万円~12億8800万円(25.7%減~7.8%増)、当期純利益は3億7300万円~7億7300万円(42.9%減~18.3%増)と、幅を持たせたものにしている。
同社では、「クラウド事業の環境変化に対して機動的に対応し、その都度、最適な投資判断を実施することとしているため、予測値は常に変動する。レンジの下限値は、現時点の売上予測と投資予定費用から算出した予測値である」と説明。
「過去の傾向から、事業環境の変化に伴う売上増加、投資実行過程における費用減などによって、利益が4億円程度上振れて着地する可能性も高い。そこで、現時点でのもうひとつの予測値として、下限値にそれぞれ4億円を加算した金額を、レンジの上限値として設定した。状況に変動が生じ次第、即時に開示する」とした。
また、「クラウド事業の堅調な売上増加と将来の収益力を高めることを目的に、2019年度も国内外での積極的な人材採用や広告宣伝投資を実施する」とし、「ストックビジネスであるクラウド事業においては、契約社数は2万8000社を超え、既存顧客によるユーザー数の追加も順調である」とした。
2019年度の重点的な取り組みとして挙げた米国市場について、青野社長は「まずは約300社の顧客を、AWSの基盤上のサービスへとしっかりと移行させたい。その上で顧客数を増やしていくことになる。またエコシステムを強化し、米国市場の販売体制を強化したい。販売数の目標は社内計画としてはあるが、重視するのは次の成長に向けた土台づくりの1年にすることである」と語った。
だが、その一方で、「実は、米国での成功確率は高いとは思っていない。短期間で成果ができるものではないと思っている。世界の時価総額のトップ10企業のうち、7社がIT企業であり、そのうち5社がグループウェアの事業をやっている。日本の企業として最も時価総額が大きいトヨタ自動車であっても、世界の時価総額は40位台であり、サイボウズはそれよりも大きな企業と戦うことになる。とても厳しい環境にある」としながらも、「だが、10年後、20年後にサイボウズの実績が上がっていたら、個性を生かした組織を作れること、グループウェアに特化した企業であること、ツールに加えて、制度風土の変革を行うというサイボウズの特徴が認められたということである。ここまでできる企業は米国にはない。これができるのはサイボウズだけである」と語った。
なお、2019年度には米国への開発拠点の設置を検討しているほか、2019年下期にはオウンドメディア(サイボウズ式)の英語版を開設する予定だという。