ニュース
Webサーバー「NGINX」開発元が日本市場に本格参入、東京オフィスを開設
2019年2月8日 06:00
Webサーバーソフトウェア「NGINX(エンジンエックス)」を開発する米NGINX社は7日、日本に東京オフィスを開設し、日本市場に本格参入することを発表した。日本のカントリーマネージャーには、元Canonical社の中島健氏が就任する。
同日開催された記者会見には、中島氏とともに、NGINX社CEOのガス・ロバートソン(Gus Robertson)氏と、NGINXのオリジナル開発者でNGINX社CTO兼共同創設者のイゴール・シソーエフ(Igor Sysoev)氏が出席した。
「上位サイトではNGINXがデファクトスタンダード」
NGINXは、NGINX社が中心となり、オープンソースソフトウェア(OSS)として開発しているWebサーバーだ。その商用版であるNGINX PlusをNGINX社がリリースしている。
インターネットからアクセスできるサイトでのNGINX利用は、Netcraftの調査によると3億7500万サイト以上。これはフロントエンドだけの数字で、KubernetesのNginx Ingress Controllerなどのように、組織の内部で何千ものNginxが使われていることもあるとロバートソン氏は言う。
中島氏も、「世界の上位サイトではNGINXが過半数のシェアで、ほぼデファクトスタンダードとなっている」と説明した。また、日本の.jpドメインにおけるNGINX利用率の直近のデータをもとに、「2013年4月に3%だったシェアが、いまや30%となっている。われわれが市場に入ってサポートする必要があると感じている」と語った。
商用版であるNGINX Plusの採用例としてロバートソン氏は、Global 2000にランクインしている顧客150社があると語った。その中には、世界最大の銀行5行中3行、アメリカ最大の小売業者5社中3社、世界最大のテクノロジー企業10社中5社、世界最大のSaaS企業10社中5社があるという。
シソーエフ氏は、NGINXを開発した経緯として、当時スタンダードだったApache httpdでは、1つのサーバーでの同時アクセス数の上限に問題(C10K問題)を感じていたという。Apache httpdより同時アクセス数の多いサーバーソフトもあったが、機能が限定されていた。「そこで、C10K問題に対応しつつ、静的ファイルだけでなくほかのサーバーとの連携機能を持ったWebサーバーとしてNGINXを開発することを決めた」(シソーエフ氏)。
NGINXが成長した背景としてロバートソン氏は「デジタルトランスフォーメーション(DX)が理由だ」と語った。「業界トレンドは、古い世界から新しい世界へ移ってきている。アジャイル開発やマイクロサービス、軽量Web API、ソフトウェアディファインドのインフラ、継続的デリバリー、DevOps文化などだ。その移行をお手伝いする会社がNGINXだ」(ロバートソン氏)。
東京が5つめのオフィス
NGINX社は2011年に設立され、従業員数は現在250人超、顧客数が2000社弱。米国サンフランシスコと英国ロンドン、アイルランドのコーク、シンガポールにオフィスを構え、東京オフィスが5つめのオフィスとなる。
会社を設立した理由についてシソーエフ氏は「NGINXの利用者が増えるについて事務作業などが増えたことから、マネージメントや営業などのできる共同創設者とともに会社を作った。主な市場は米国なので、米国で会社を設立した。そしてインターナショナル展開に適した人物としてガス(ロバートソン氏)にCEOになってもらった」と語った。
NGINX社の製品群はNGINXアプリケーションプラットフォームと呼ばれている。NGINX Plusを中心に、アプリケーションサーバーのNGINX Unitと、NGINX Plusを集中管理するNGINX Controllerがある。
特にロバートソン氏が強調したのがNGINX Unitだ。先行ソフトウェアであるApache httpdはWebサーバー機能やプロキシサーバー機能に加えて、PHPなどのWebアプリケーションを実行するアプリケーションサーバー機能を持つ。
それに対してNGINXはWebアプリケーションを実行する機能を持たないため、サイトによってはNGINXと、Apache httpdなどのアプリケーションサーバーとを組み合わせるような使い方がされてきた。NGINX Unitにより、Webアプリケーションの実行もNGINXアプリケーションプラットフォームでカバーする。
NGINX Unitの特徴としてシソーエフ氏は、Python、PHP、Go、Perl、Ruby、Node.jsといった、さまざまな言語に対応したWebサーバーであることを挙げた。「マイクロサービスやサービスメッシュを構築するうえで、主要な要素となると考えている」(シソーエフ氏)。
日本語サイトも開設
このタイミングで日本にオフィスを開設した理由について、ロバートソン氏は、大きく成長している市場であり、まだ直接参入していない地域であるため、さらなるサポート体制の強化が必要であると説明。さらに、元Red Hat社で日本にいたこともあるロバートソン氏は「日本はオープンソースを受け入れやすい市場で、NGINXが急拡大している」と語った。
日本市場へのコミットとして中島氏は「日本スタッフの増強」「日本語による情報提供」「パートナーとの強固な営業体制」「市場開拓、拡大」の4つを挙げた。
日本スタッフについては、2019年度中に7名程度に増やし、2年以内に20名体制にする。特に、営業体制を強化するという。
日本語による情報提供については、日本語サイト「www.nginx.co.jp」を同日開設した。まずはユースケース情報を公開していくという。
そのほか、日本語によるNGINXトレーニングを提供する。まずCoreトレーニングから始め、やがては総合的な学習プログラムのNGINX Universityを日本でも提供できるようにしていくという。
パートナー体制では、日本のパートナーとして現在、サイオステクノロジー株式会社とマクニカネットワークス株式会社の2社がNGINXを販売する。
市場開拓については、「NGINXにとって4番目の市場になる」と中島氏は目標を語った。そのためのターゲット業界として、ITやeコマースのほか、5Gを推進する通信業界や、MaaSなどを進めている自動車業界を挙げた。
なお、中島氏が述べたようにNGINXは上位サイトで使われているが、オープンソース版の利用が多いのも事実だ。その中で商用製品を拡大していくことについて中島氏は「有償版によって、オペレーションソフトを削減できることや、高可用性による堅牢性などの機能があるということがあまり知られていない。そこを訴求していく」と語った。