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富士通研究所と早稲田大学、混雑予測シミュレーションの効率化を支援する新技術を開発

混雑原因を従来より短時間で発見可能に

 株式会社富士通研究所と学校法人早稲田大学 理工学術院高橋真吾教授は7日、人間行動シミュレーションの結果から、混雑につながる原因を自動で分析する技術を開発したと発表した。

 現在、さまざまな人々の属性や認知、行動を表現したエージェントモデルを構築し、計算機上で混雑状況をシミュレーションする人間行動シミュレーションが注目を集めており、緊急時の避難行動の予測や都市計画時の人の動線確認などで活用されている。

 その中の1つである混雑予測シミュレーションでは、大量のシミュレーション結果から専門家が混雑の原因を分析し1つずつ検証していくため、原因を分析して施策を決定するまで数カ月かかるほか、原因の見落としにより有効な施策を見つけられないといった課題があるとのこと。

 従来の手法で時間がかかってしまう一因としては、例えば、食事をする、A地点での案内板を見るなど、数十以上の項目で表現されるエージェントの属性、認知、行動に関するデータをすべて組み合わせてエージェントの特徴として表していたため、膨大な組み合わせパターンが発生していたことがある。

 これに対して今回開発された技術では、共通要素が含まれる項目を属性、認知、行動の観点からグルーピングした上で、グループごとにエージェントの特徴をクラスタリングすることにより組み合わせパターンを減少させ、混雑にかかわったエージェントの特徴を抽出しやすくしている。

属性、認知、行動の関係に基づく網羅的な混雑原因を発見

 これにより、ある部分で発生した混雑の原因を探りたい場合、どのような属性の人々に対して、どのような認知や行動を変化させる施策が有効であるかといった、施策に直結する原因を網羅的に発見することが可能になったという。

 例えば、複合施設で起きた店舗Aと店舗Bの混雑に対して、店舗Aの混雑は認知に着目すると案内板の集客効果が原因であり、店舗Bの混雑は行動に着目するとレストラン利用客のまとまった来客が原因である、と特定できるようになる。

 従ってこれを解消するためには、店舗Aでは利用者のもう1つの目的であるATMへ誘導する案内板により、集客を分散させる施策が有効であり、店舗Bの混雑にはスタッフを増員し処理速度を上げる施策が有効であると判断できるとのこと。

 また富士通研究所では、空港の混雑緩和施策分析を目的として2015年に開発した人間行動シミュレーションにこの技術を適用し、効果を検証したところ、専門家の分析と比較して約4倍の混雑原因を発見できたという。

 例えば保安検査の混雑分析では、旅客が特定のチェックインカウンターで滞留することに起因して保安検査の突発的な混雑が生じることを新たに発見。同技術で発見された混雑原因に基づき施策を導出したところ、専門家分析の結果から導出した施策に比べて、保安検査の待ち人数を6分の1に削減し、施策実施に必要な人員数を3分の2に抑える効果があることをシミュレーション上で確認した。また、分析時間も数カ月から数分へと大幅に短縮できたとしている。

開発された技術による混雑の原因発見と施策例

 富士通研究所では今後、イベント会場や空港、ショッピングモールなどでの混雑に対し実証を進め、デジタルサイネージやテナント配置などの効果も含めて検証する考え。また、富士通のAI技術「FUJITSU Human Centric AI Zinrai」とスーパーコンピュータ技術を活用し、都市の状況をリアルタイムに把握するサービス「FUJITSU Technical Computing Solution GREENAGES Citywide Surveillance」との連携を通じて、混雑の将来予測ソリューションの早期提供を目指す。

 一方、早稲田大学では、混雑に限らず、人間行動を含む社会・市場・組織における複雑な現象を分析し、問題解決を図るためのシミュレーション技法の確立を目指すとしている。