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アーム、デバイスからデータまでを一貫して管理できるIoT向けプラットフォーム「Arm Pelion IoT Platform」
2018年8月23日 06:00
英Arm Limitedの日本法人であるアーム株式会社は、デバイスからデータまでを一貫して管理できるIoT向けプラットフォーム「Arm Pelion IoT Platform」の国内での提供を開始すると発表した。
Armは8月3日(日本時間)に、米Treasure Dataの買収を発表。今回発表したArm Pelion IoT Platformは、同社のソリューションのほか、同じく買収した英Stream Technology Corporationの技術、Armの技術を統合したものだ。
Arm IoTサービスグループのディペッシュ・パテル プレジデントは、「IoTのコネクティビティ、デバイス、データを包括的に管理する、業界初のエンドトゥエンドなIoTプラットフォームになる」と、これを位置付ける。
またその上で、「Arm Pelion IoT Platformは、コネクティビティ管理、デバイス管理、データ管理の3つから構成される。IoTから得られるデータや企業内外のデータから、迅速に、セキュアに、そして、持続可能な形で実行に移すための知見を得ることができる」とした。
デバイスの製造段階から、デバイスがフィールドで稼働したあとのデータ転送、さらには使用終了に至るまでのライフサイクル全般に対して、統合型セキュリティモデルを提供。ネットワークに接続されたIoTデバイス群を、単一のユーザーインターフェイスによって包括的に管理できることから、オペレーターはリアルタイムでの意思決定を行えるという。
さらにコネクティビティサービスを活用することで、制御プレーンとデータプレーン向けにデータトラフィックを最適化できるほか、共通のプラットフォーム抽象化により、さまざまなハイブリッド環境での実装に対応できるとした。
3つの管理機能を提供
個別の機能のうち、1つ目のコネクティビティ管理機能では、IoTデバイスの実装場所にかかわらず、ライフサイクル全般に渡ってデバイスの接続と管理を実現。エンタープライズ、機器メーカー、システムインテグレータ、各種パートナーに向けて、単一のモビリティ契約で、コスト効果に優れたフルマネージドのサービスとサポートをグローバルに提供するという。加えて、eSIMオーケストレーション機能により、セルラー、LoRa、衛星コネクティビティのプロトコルを通じて、600以上のプロバイダーネットワーク上でデバイスのオンボーディングを実現すると説明した。
2つ目のデバイス管理機能では、多種多様なIoTデバイスの効率的で柔軟な管理を実現。デバイス認証によって信頼関係を確立し、セキュリティを管理したり、フィールド内でデバイスをアップデートしたりできる。
また、制約が非常に厳しいデバイスから、制約のあるデバイス、制約が比較的緩やかなメインストリームのデバイス、制約が緩やかな高機能ノード/ゲートウェイ装置に至るまで、あらゆる種類のデバイスを対象に、デバイスの多様性をサポートし、複雑性を解消するとのこと。
最後のデータ管理機能では、包括的なデータパイプラインを通じて、あらゆるソースからのデータ収集や、フォーマットや期間を問わないIoTデータとエンタープライズデータの統合、BIツールとの直接的な連携による分析を実現する。
デバイス、エンタープライズ、サードパーティといった異なるソースから得られる大量のエンタープライズデータを統合および保存し、1秒あたり200万件のイベントを処理や、1日あたり数十万件のクエリと、50兆件のレコードを処理することで、ビジネス上の価値につながる知見を大規模に取得することが可能になるという。
「Arm Pelion IoT Platformは、どのようなデバイスであっても対応でき、他社とはサービスのレンジが異なる。IoTは膨大な市場であり、エコシステムと一緒にやっていく必要がある」と、パテル プレジデントは述べた。
なお、Arm Pelion IoT Platformの名称については、「Pelionは、ギリシャの山の名前であり、『強い』、『大きな』という意味がある。世界中の誰でもが使えるようという意味からも最適だと考えた」と説明している。
Treasure Dataは今後、ArmのIoTビジネスの中で役割を担うことになる
Armは創業以来、プロセッサIP(半導体設計資産)を提供しており、全世界で1250億個以上のArmベースのチップを送り出してきたというが、同社ではプロセッサIP事業と並ぶもう1つの柱として、IoTデバイス管理プラットフォームを中心としたIoT事業を位置付けている。その中でTreasure Dataの買収は、ArmのIoT事業を加速する重要なマイルストーンになると位置付けた。
Treasure Dataは、2011年に芳川裕誠氏、太田一樹氏、古橋貞之氏の3人の日本人により、米国シリコンバレーで創業された会社であり、現在は約200人の従業員がいる。
Armのパテル プレジデントは、「Treasure Dataは200社以上の顧客を持ち、毎日50兆のレコードを処理し、200万以上のイベントを毎秒処理している堅牢なプラットフォームを持っている。このプラットフォームは、Armが掲げているビジョンの実現に重要な役割を果たすことになる。Armの上でIoTが実現されることになるが、そこでは、さまざまなデバイスの接続性や管理の複雑さが課題となっている。また、データは今後10倍に拡大し、その広がりに対応していくと同時に、デバイスからデータまでのセキュアな環境を実現しなくてはならない。さらにプラットフォームは、プライベートクラウドやパブリッククラウド、ハイブリッドクラウドに対応し、異機種環境においても利用できなくてはならない。これを実現するための新たなソリューションが求められており、Arm Pelion IoT Platformは、こうした要望に応えることができる」とした。
一方、Treasure Dataの創業者であり、現在はArm IoTサービスグループ データビジネス担当バイスプレジデント兼ジェネラルマネージャーとなっている芳川裕誠氏は、「今後は、ArmのIoTビジネスの中で役割を担うことになる」と前置き。
「Treasure Dataは日本の大手企業にも導入されているが、その背景には、デジタルトランスフォーメーション(DX)がある。ディスラプターと呼ばれる企業は、データ解析に裏付けられた徹底した顧客理解を行っている点が特徴であり、このために、年間数十億ドル規模の開発投資とトップエンジニアへの求心力を持っている。Treasure Dataが提供するエンタープライズCDP(カスタマデータプラットフォーム)は、デバイスをはじめとするさまざまなチャネルから生活データを統合できる唯一のプラットフォーム。これを利用することで、新たな時代のCRMを構築でき、ディスラプターが持つ基盤と同じものを多くの企業が手に入れることが可能だ」としたほか、「IoTブランドとして高い実績を持つArmと組むことで、世界最大のビッグデータプラットフォームを提供することができるようになる」と話した。
なお、記者会見にゲストとして登壇したソフトバンクグループ 取締役兼ソフトバンク 代表取締役社長 執行役員兼CEOの宮内謙氏は、「2018年5月に、ソフトバンクとTreasure Dataは提携を発表し、日本企業にデジタルマーケティングの導入を促進することを目指してきたが、こうした形でTreasure Dataがソフトバンクグループに入ることを喜んでいる」とあいさつ。
また、「iPhoneが登場してから11年を経過した。それ以来、データが資源となり、デジタルプラットフォームの利便性を、多くの人が享受できるようになった。ソフトバンクでは、今年度内に1000個のIoTプロジェクトをやりたいと宣言した。現在、200のプロジェクトが動いており、年度内には1000プロジェクトに間違いなく到達するだろう。今後、世界中のビジネス分野において、IoTが一気に加速するとみている。今回、Arm Pelion IoT Platformという、エンド・トゥ・エンドのIoTプラットフォーム基盤ができたことは大きな意味がある。IoTは、スマホ以上の加速度を持って広がっていくだろう」などと述べた。
このほか、ジョンソン・エンド・ジョンソン ビジョンケアカンパニー コマーシャル・オペレーションズ&ストラテジー本部 User Experience & Unified Commerceディレクターの宮野淳子氏は、「当社は、消費者のデータから、ニーズを導きだし、顧客に対して、最適なタイミングで、最適なツールで提供したいと考えている。今後、エンタープライズCDPを活用して、プレシジョンマーケティングへと進化させたい。これは日本から始まった取り組みであり、世界中から注目を集めている」とコメント。
SUBARU IT戦略本部 PGM(コネクトビジネス戦略)兼情報企画部 部長の齊藤一隆氏は、「当社は、2017年からTreasure Dataを活用しており、これまでに120億のデータを扱っている。Treasure Dataはなくてはならないパートナーである。『スバリスト』と呼ばれる当社のユーザーに対して、アフターサービスの涼気でも共感できる価値を提供したいと考えている。今後、Treasure Dataが推進する顧客データとデバイスデータの一元化には期待している」とした。
また、ソニーマーケティング プロダクトビジネス本部カスタマーリケーション部 統括部長の大内光治氏は、「当社は、長年に渡ってデータを蓄積してきたが、思うような結果を出せないという状況にあった。今年春からエンタープライズCDPを活用しているが、それ以来、マーケティングのやり方が劇的に変わった。Armによる買収は正直心配したところもあったが、話を聞いて逆に安心をした。ソニーは、顧客がソニー商品と出会い、購入し、商品を使い終わる瞬間まで、ソニー体験を提供したいと考えている。ソニーにしてよかったと思ってもらうには、Treasure Dataは最適なパートナーである」などとした。