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生データをいつまでも持ち続けられる強み――、トレジャーデータ、カスタマデータプラットフォームおよび「Fluentd Enterprise」を提供へ

 トレジャーデータ株式会社は11日、企業が持つ多種多様な顧客データを統合する「カスタマデータプラットフォーム(CDP)」と、米Treasure Dataが中心となって開発するオープンソースのログコレクタ「Fluentd」のエンタープライズ版である「Fluentd Enterprise」の国内提供を開始した。

 米国本社から来日したTreasure Dataの芳川裕誠CEOは「Treasure Dataの最大の強みは、ありとあらゆるデータを収集し、生データのまま保持し続けられること。この強みを生かし、ごく一般の企業がデータに直接アクセスできる機会を増やし、デジタルトランスフォーメーションを実現することを日本でも支援していきたい」と語り、国内企業に対するデータビジネスのサポートを強化していく方針を示している。

Treasure Dataの芳川裕誠CEO

 CDPは広告配信データやCRM、Web/モバイルアプリのログといった、顧客にまつわるあらゆるデータを収集し、顧客ひとりひとりの行動パターンや嗜好(しこう)を分析することでパーソナライゼーションにフォーカスし、「GoogleやAmazonのような、完全にテーラーメードされたエクスペリエンスを顧客に提供する」(芳川CEO)ことを実現するデータプラットフォームだ。

 同社が以前から提供する「Treasure DMP」は、顧客を性別や年齢、地域などでセグメント化し、広告配信システムなどとデータ連携することで個別最適化を図る製品だが、CDPはより"個"にフォーカスすることで、「360度にわたって」(芳川CEO)顧客を可視化、ダイレクトな1on1マーケティングを実現する。マーケターはCDP上で独自のワークフローを構築し、柔軟に分析を実行することが可能になる。

 「GoogleやAmazon、Facebookなどは会社自体が顧客データベースとイコールの存在。巨大なデータに裏打ちされているからこそ、徹底的なパーソナライゼーションが可能で、デジタルディスラプターと呼ばれる存在になった。しかしこういった"データのDNA"を持たない会社でも、CDPのような顧客データを扱いやすいプラットフォームがあれば、デジタルトランスフォーメーションを実現することは十分に可能」(芳川CEO)。

従来のTreasure DMPに対し、CDPがもつ3つの優位性。多様なデータへの柔軟な対応、制限なしのデータ保持期間、操作の容易性

 Treasure DMPでは個人のデータを特定しないCookie IDやIDFA(IDentification For Advertisers:広告識別子)の扱いが中心だったが、CDPには顧客IDや氏名、メールアドレス、住所といった個人に直接ひもづいたセンシティブなデータも含まれるようになり、その量も膨大になる。

 芳川CEOは「どんなデータでも生のまま保持できる当社の強みを生かし、各種データの保管期間に制限は設けない。顧客ひとりひとりのデータを長期間にわたって保持/分析することで、顧客体験の大幅な向上につながる」と語り、量も期間も制限なく生データを持ち続けられるCDPの優位性を強調している。

 セキュリティに関しても「扱うデータの量や種類が増えたからには、これまで以上にセキュリティを強化している。今年3月には米海兵隊の退役軍人で情報セキュリティに30年以上携わってきたポール・キップ・ジェームス(Paul Kip James)をCISOに迎えており、ISO 27001やSSAE 16などの第三者機関による認証の取得も急速に進めている」(芳川CEO)としている。

新しく着任したCISOのジェームス氏により、セキュリティサーティフィケーションの取得が急速に進んでいるという

 また、もうひとつの発表であるFluentd Enterpriseについて、芳川CEOとともに米国本社から来日したTreasure Dataの太田一樹CTOは「2011年からオープンソースとして開発してきたFluentdは、すでに5000社/100万台の環境で使われるようになり、GoogleやAmazonなどでも日常的に使われているログコレクタとして知られている。だが普及が進むにつれ金融機関などから"よりミッションクリティカルな業務でFluentdを使いたい"という要望を受けるようになり、国内でもプロダクトレベルで対応することにした」と語っている。

Treasure Dataの太田一樹CTO

 Fluentd EnterpriseはオープンソースのFleuntdとはコアモジュールは共有するが、「バイナリはまったく異なるかたちで用意する」と太田CTOは説明する。具体的には、

・エンタープライズレベルでのエンドトゥエンドの暗号化
・エンタープライズ向け専用プラグイン
・専門家(社内のFlunentdコミッタなど)による24時間/365日のサポート

などを提供、バイナリはすべてセキュリティテスト済みで、プラグインもTreasure Dataによりサーティフイケーションされたものだけをエンタープライズ版にバンドルする。

FluentdのOSS版とエンタープライズ版の違い。コアモジュールは共有するが、バイナリはまったく異なるものを提供し、専用プラグインとサポートをエンタープライズ向けに用意する

 専用プラグインには「インプット」「プロセス」「アウトプット」の3つのタイプがあり、アウトプット用プラグインにはTreasure Dataが開発するプラグイン(Splunk、Amazon S3、Treasure Data)のほか、メッセージングシステム「Apache Kafka」の開発元であるConfluentと協力して作成したKafkaプラグインも含まれる。

Fluentd Enterpriseで用意される専用プラグイン

 なお、国内におけるFluentd Enterpriseの提供は、SI事業者やデータセンター事業者などを通して行われ、価格は非公開となっている。

 以前からFlunentdのエンタープライズサポートを提供するNTTデータ、JBアドバンスト・テクノロジー、三菱電機インフォメーションシステムズ(MDIS)、SRA OSS, Inc. 日本支社の4社は引き続きサポートを行い、Fluentd Enterpriseのプロダクト提供も行うことになる。

昨年、Fluentdのエンタープライズサポートにおける協業を発表したNTTデータをはじめ国内4社のパートナーが引き続きサポートする

 Fluentdに限らず、Treasure Dataは創業当初からオープンソースに対して強いこだわりを持っている。オープンソースとして開発が続けられているFluentdをエンタープライズ版と分けることについて太田CTOは「基本的にコアな部分は同じで、エンタープライズ版ではセキュリティやサポートを重視している。エンタープライズ版だけにエンハンスした機能を追加するようなことは現時点では考えておらず、Fluentdの中心がオープンソースであることは変わりない」とし、オープンソースに変わらずコミットしていく姿勢を明らかにしている。

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 Treasure Dataは現在、300社以上の顧客から100兆件にも上るデータを預かっている。冒頭の芳川CEOの言葉にもあるように、同社の最大の強みは生データをそのまま持ち続けられるというところにある。

 「データアナリティクスの基盤を作るということはふつうの会社にはできない。われわれはアナリティクスだけに集中したいから、基盤はすべてTreasure Dataにまかせている。Treasure Dataがあることでわれわれは5年間で40億ドルものビジネスに成長することができた」――。

 これは、米国で急成長を遂げるEC企業のWishの創業者が発したコメントだ。デジタルトランスフォーメーション(DX)に欠かせない存在のデータを、いつまでも、どこまでも、そのままのかたちでセキュアに持ち続けられる基盤とそのエコシステムでもって新しいマーケティング体験の可能性を拓くという同社のアプローチが、国内企業にどういったインパクトを与えていくのかが注目される。