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カブドットコム証券、API基盤にAWS採用

クラウドとAPI提供が証券システムの主流になる?

 カブドットコム証券は7日、刷新したAPI基盤にAmazon Web Services(AWS)を採用したと発表した。現在、三菱UFJフィナンシャル・グループでは、銀行サービスのAPI公開を含むAPIプログラム「MUFG{APIs}」を公表している。カブドットコム証券は2012年からkabu.com APIを提供してきたが、今回、MUFGグループの一員としてAPI基盤刷新を実施し、AWSを採用した。

API基盤をAWSで構築

 カブドットコム証券の取締役 代表執行役社長、齋藤正勝氏は、「当社は茅場町にデータセンターを持ち、運用まですべて自社で手がけてきた。これまでスケーラブルに実践してきた自負はあるが、将来動向を考えると、セキュリティ面などから、クラウドファースト実践が最適であると判断した。API提供は2012年、フィンテックブームが起こる前からやってきたが、今後、かなり大きな需要が見込めると考えている」と話す。

 また、「大手ネット証券でも野村證券、大和証券のシステムを借りて事業を行っているが、この方法ではオープンイノベーション実践に限界があるのではないか。大手のシステムを借りるのではなく、APIをたたけば証券業務ができる時代になっている。現段階では、APIを提供している証券業は当社だけだが、将来的には大手もAPIを提供するようになるのではないか」と話し、クラウド採用、API提供が証券業務の主流となるとの見方を示した。

カブドットコム証券の取締役 代表執行役社長、齋藤正勝氏

API経由でさまざまな情報が活用可能に

 カブドットコム証券は1999年に設立され、現在では三菱UFJフィナンシャル・グループの一員となっている。創業以来、証券取引システムを自社開発していることが特徴で、茅場町のデータセンター、インターネット接続回線など自社で構築し、運用を行ってきた。

 API公開も2012年から実施しているが、今回は7カ月かけて、AWSを基盤として採用した新しいkabu.com APIを開発。OAuth 2.0認証方式によるセキュリティ強化を行ったほか、旧kabu.com APIを活用してツール提供をしていたサードパーティが開発に参加することで、ユーザーニーズを洗い出し、より活用しやすいAPIとするための改良を行った。

 新しいkabu.com APIを採用することで、発注系、注文紹介、残高照会、リアルタイム時価情報など、従来は証券会社のツールを介してしか得られなかった情報が、API経由で活用できるようになる。

 旧APIも、プロップファーム、投資助言事業者、取引ツール開発業者、ロボットアドバイザー運営業者、ゲーム開発者など、さまざまな業態で活用されてきた。新APIはこうした事業者に加え、AI、自然言語処理、機械学習、ブロックチェーンなど先端技術に強みを持つスタートアップとの提携、事業化が実現することを期待している。

オープンイノベーションのさらなる推進
APIによるオープンイノベーション

 クラウド採用にあたっては、「3年くらい前から真剣に検討を始め、最初は社内の情報系システムから利用をスタートしていた」と、事前の評価を経た上で導入に踏み切ったと説明している。

 数あるクラウドの中からAWSの採用を決めた要因としては、「システムの可用性、サイバー攻撃の激化などシステム側が対処すべき課題は複雑化している。オープンイノベーションを実現するためには、クラウドファーストを実践する必要があると考えた。AWSを採用したのは、MUFGでの実績があったことが大きな要因」(カブドットコム証券の齋藤氏)と説明した。

 またAWSの東京リージョンに加え、BCPの観点から大阪リージョンの利用も検討しているという。

大阪リージョンの利用も検討

 AWS採用によって、従来のカブドットコム証券の自社システムと比較したコスト試算では、AWSを1とした場合、ソフトウェアで仮想化されたオンプレミス環境、仮想化していないオンプレミス環境ともに1.7のコストがかかるとのこと。最もコスト効果が高いのはハードウェア・通信環境で、AWSの1に対して、仮想化されたオンプレミス環境は1.4、仮想化されていないオンプレミス環境では2.9のコストがかかるという。

 アマゾン ウェブ サービス ジャパン 代表取締役社長の長崎忠雄氏は、「AWSを活用し、業界を破壊的に変える会社が出てきている。そういう会社のユニークなアイデアを実現するバックエンドとしてAWSが活用されている。今回のカブドットコム証券の事例は、APIによる連携によってこれまであった証券業界の垣根をなくしていくことになるのではないか」と採用に対するエンドースメントを送った。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン 代表取締役社長の長崎忠雄氏

 ただし齋藤氏は、「AWSだけでなくMicrosoft Azureの評価も行った。今後はマルチクラウドという方向に進むのは間違いないと考えている」とも述べ、AWS以外のクラウドの評価・検討を行っていることも明らかにしている。

 なお、MUFGが推進しているMUFG{APIs}は、2017年5月の銀行法の改正に伴い、金融業がフィンテックスタートアップとの協業によるオープンイノベーションを実現するためのもの。カブドットコム証券でも、グループの一員としてMUFG{APIs}プロジェクトに参画している。

 三菱UFJフィナンシャル・グループ CIO兼CDTOの亀澤宏規氏は、「金融機関は変革の時を迎えている。今年の4月から、再創造イニシアチブ、つまり、もう一回作り直すという取り組みを進め、その柱としてデジタライゼーションシステムに取り組んでいる。その中で重要なキーワードがオープンイノベーション。新しいAPIを通じて、リーチできなかったお客さまにリーチする、自分たちでできなかったサービスにリーチすることが目的となる。本日発表したkabu.com APIは、AWSを採用し、クラウドファーストの柔軟性、可用性を実現したもので採用の意義は大きい。今後はわれわれ自身が変革によって、グループ一体となってさまざまなサービスを提供していきたい」と新サービス提供の意味をアピールした。

MUFG{APIs}の一員として
三菱UFJフィナンシャル・グループ CIO兼CDTOの亀澤宏規氏

 なお、今回のAPI利用して、証券ビジネスに参入する意思を表明している異業種の企業があるそうで、「本来は今日のクラウド採用、新しいAPI基盤発表と共に参入企業紹介が理想的だったが、このタイミングには間に合わなかった。後日、あらためて参入企業発表を行いたい」(齋藤氏)としている。