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実際に泥にまみれて農業IoTプロジェクトを推進する―― IIJ、自身でIoTを実践してビジネスを共創へ

 株式会社インターネットイニシアティブ(以下、IIJ)は5日、メディア向けにIoTの事業説明会を開催した。

 IIJがIoTサービスの提供を発表したのは2016年7月だが、同社が展開する法人向けモバイルサービスにおいて、出荷されたSIMの3分の2は、IoTやM2M(Machine to Machine)用途で利用されているという。

 また出荷されたSIMは、監視やマーケティング関連プロジェクトで用いられるカメラで利用されることが多く、次いでデバイスゲートウェイなど特定の用途に限定されない利用があるとのこと。

法人向けモバイルサービスの利用用途として、IoTやM2Mが急速に成長している
IoT/M2Mの活用ジャンル。カメラでの利用がもっとも多い。

 IIJ クラウド本部 副本部長 染谷直氏は「IoTの技術は多岐にわたっているため、IoT市場にはさまざまなプレイヤーがいる。IIJはMVMO事業者としてネットワークやデータ管理はもちろん、IIJ GIOなどのデータ分析、さらには自らのデバイスを管理するために開発したSACM(Service Adapter Control Manager)、セキュリティとしてwizSafeを提供している」と述べる。

 さらに「IIJには、まず自分たちがやってみるという企業文化がある。その経験から他社にはできないIoTプラットフォームを提供できる」と、対応領域の広さや実績に裏付けされた自社のサービスをアピールした。

IIJ クラウド本部 副本部長 染谷直氏
IoT市場におけるIIJのポジション

 またIIJのIoTサービスの特長について、クラウド本部 クラウドサービス2部 ビッグデータ技術課長 岡田晋介氏は、「業界最安値水準のIoT向けSIMを提供し、速度制限なく、希望があれば顧客専有の閉域網を利用することもできる。またデータ管理や分析を行うクラウドサービスについても、IIJ GIOだけではなくAWSやMicrosoft Azureといった他社クラウド、あるいはお客さまのデータセンターとも閉域網で安全な接続を可能にするほか、IIJ独自のルータ管理技術をIoTに応用してデバイスの集中管理を実現できる」と説明する。

IIJ クラウド本部 クラウドサービス2部 ビッグデータ技術課長 岡田晋介氏
月額基本利用料が1枚300円と業界最安値水準のSIMを提供
IIJ GIO以外にもAWS、Microsoft Azure、お客さまデータセンターと閉域網で接続可能
SACMによってデバイスの集中管理を実現する

 IoT案件は昨年と比較して倍増しており、「すでに230件を超える案件が稼働中」と岡田氏は説明した。しかし、多くはまだ実証実験(PoC:Proof of Concept)の段階を脱していないとのことで、「IoTはまだこれからの分野。データをどうやって集めるか、遠隔地でのメンテナンスや制御はどうするか、どのようなセキュリティ対策が必要なのかなど技術的な課題はクリアになってきている。問題は今後の具体的な利活用。IoTへの新しい取り組みはこれから始まる」と述べた。

 また、「まずは自分たちがやってみる」という企業文化を象徴するように、2017年6月に受託した農林資産相の公募事業「水田水管理IoT」のプロジェクトを推進中の、ネットワーク本部 IoT基盤開発部長 斎藤透氏は、自らが水田に訪問して水位・水温センサー、自動給水弁、LoRaによるデータ通信基地局の設置を、実際に泥だらけになりながら行っていることを紹介した。

 本プロジェクトの受託にあたり、IIJは「水田水管理ICT活用コンソーシアム」を静岡県交通基盤部農地局、株式会社笑農和(えのわ)、株式会社トゥモローズ、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構との共同研究グループとして立ち上げている。水田の水管理コストの50%削減を目指し、2019年度までの3年間、静岡県の営農法人において実証実験を行うという。

IIJ ネットワーク本部 IoT基盤開発部長 斎藤透氏
水田管理システム全体像。水位・水温センサーによって状態を監視し、給水弁の開閉指示などを行う
水位・水温センサーおよび、自動給水弁の開発イメージ
LoRa基地局

 「農業IoTでもっとも大きな課題はコスト。センサーなどのデバイスがまだまだ高価であるため、自治体などの補助がなければ一般の農家に導入することは難しい。そのため農林水産省は公募事業では異例とも言える販売価格目標の実現を公募要項に盛り込んでいる」と、斎藤氏は農業IoTが抱えるコスト問題を解説した。

 実際に農林水産省が公募条件で提示している販売価格は、水田センサーが1万円、給水弁は4万円だが、単にこのコストを実現するだけではなく、高齢化が問題になっている農業従事者でも使いやすく、かつメンテナンス性が高いものでなければならないという。

 しかし、コスト削減は簡単ではない。農業は自然が相手のビジネスとなるため、多数の試作開発を繰り返すことになる。今回のようにコメであれば、田植えから収穫までのサイクルは一般的に1年に1回しか行うことができず、製品化までに数年間かかてしまうことがざらにあるという。

 また、農業とITの両方の知識を兼ね備えた人材が不足しているため、最適な導入計画やコストシミュレーションを行うことができず、PoCを行っても「試してみました」で終わってしまうケースが多くなっているという。

 斎藤氏は、「農業のIT化推進は、IIJ1社だけではできない」と述べ、「オープンなシステム仕様と標準化を推進し、全国の地域プレイヤーを巻き込んでいく必要がある。そのため、日本農業情報システム協会(JAISA)を経由して地域ICTベンダをリクルートしている」と説明。このプロジェクトの成果を広く横展開していく意気込みを見せた。

農業のIT化の全国普及に向け、オープンなシステム仕様と標準化を推進していく。