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米IBM、ボランティアの計算資源で小児がんの新たな治療薬探索を支援するプロジェクト

日本、香港、米国の研究者チームが研究プロジェクトを開始

 IBMと医学研究者チームは30日、全世界での子どもの病気による死因第1位である小児がんの有望な治療薬を探索するためのプロジェクト「Smash Childhood Cancer~小児がんと闘う子どもたちへのITでの支援」について、ボランティアを募集すると発表した。

 小児がんのがん細胞を抑制する鍵となる分子やタンパク質に作用する候補化合物を見つけ出す研究には、多くの費用と時間が必要となる。IBMでは、こうした研究を支援するため、世界中のボランティアから寄付されたコンピューティングパワーを活用して科学研究を発展させることを目的とした、IBMが出資および管理するプログラム「ワールド・コミュニティー・グリッド」へのアクセスを科学者に無償で提供している。

 今回発表した「Smash Childhood Cancer」を支援したいボランティアは、各自のコンピューターまたはAndroidデバイスに無料の安全なアプリケーションをダウンロードしインストールすることで、ワールド・コミュニティー・グリッドに参加できる。コンピューターを使用していないアイドル状態の間に、ボランティアの端末が研究チームに代わって自動的に仮想実験を行い、その結果が研究者のもとに転送され、分析が行われる。

 Smash Childhood Cancerは、国際的に有名な小児腫瘍医および分子生物学者であり、佐賀県医療センター好生館の理事長でもある中川原章博士が責任者を務める。中川原博士は、2009年に「Help! Fight Childhood Cancer(ファイト!小児がんプロジェクト)」で今回と同じ研究アプローチを取り、子どもの最も一般的ながんの1つである神経芽細胞腫の医薬候補を同定することに成功。今回のSmash Childhood Cancerでは、神経芽細胞腫だけでなく、脳腫瘍、腎芽細胞腫(腎臓の腫瘍)、胚細胞腫瘍(生殖器系や中枢神経系に影響)、肝芽腫(肝臓がん)、骨肉種(骨がん)といったほかの種類のがんについても、治療法の調査を拡大する。

 Smash Childhood Cancerには、日本の千葉大学と京都大学、中国の香港大学、米国のConnecticut Children's Medical Center、The Jackson Laboratory、University of Connecticut School of Medicineの研究者が参加する。

 ワールド・コミュニティー・グリッドは、カリフォルニア大学バークレー校で開発されたオープンソースソフトウェアプラットフォームである「Berkeley Open Infrastructure for Network Computing(BOINC)」によって実現されている。2004年以来、がん、HIV/エイズ、ジカウイルスやエボラウイルス、遺伝子地図作成、持続可能エネルギー、浄水、生態系保全などの重要分野で、27の研究プロジェクトにリソースを提供してきた。

 IBMのクラウドで一部をホストするこのリソースは、80カ国の個人72万人と440の機関による300万台を超えるデスクトップ、ラップトップ、Androidデバイスから、100万年分以上のコンピューティング時間を寄付され、5億米ドル相当の無料のスーパーコンピューティングパワーを研究者に提供してきた。その結果、小児がんの治療薬候補化合物の同定、太陽電池の効率化、水ろ過材の効率化に貢献してきたという。