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みんなのAndroidリソースで最先端科学の研究に貢献できる~米IBM

 米IBMは22日(現地時間)、Android端末で最先端の研究に貢献できるワールド・コミュニティ・グリッドを発表した。個人や組織が専用アプリをダウンロードし貢献したいプロジェクトを選択。病気治療や新星の発見といった最先端の研究に、Android端末のリソースを提供できる。

 これは「ボランティア・コンピューティング」と呼ばれるもので、個人や組織が提供するコンピューティングリソースをグローバル規模の分散型スーパーコンピュータとして、すでにシミュレーションやデータ解析が行われている。個人や組織はボランティア・コンピューティングを通じて、手間をかけずに科学の進歩に貢献できる。

 これまでのボランティア・コンピューティングは、デスクトップやノートPCなどを使用していたが、スマートフォンやタブレットなどの演算処理能力とエネルギー効率は向上しており、台数も急速に増加。現在、Android端末は約9億台にのぼり、その演算処理能力の合計は最大規模の従来型スーパーコンピュータの能力を上回るようになった。

 これらを研究に活用するため、カリフォルニア大学バークレー校が開発したボランティア・コンピューティング用ソフト「Berkeley Open Infrastructur for Network Computing(BOINC)」をバージョンアップ。Android 2.3.3以上の端末から市民として科学の推進に参加できるようにした。

 バッテリ消費の抑制や充電時間の短縮、さらに通信プランに定めたデータ通信量を超えないようにするため、スマートフォンやタブレットがBOINCで演算処理を実行するのは、充電中、バッテリ残量が90%以上のとき、無線LANに接続中のときに限られる。ただし、この設定は任意に変更することも可能。

「Einstein@Home」で新星を発見

 Androidベースのボランティア・コンピューティングで参加できる最初のプロジェクトの1つが、ドイツ・ハノーバーのマックス・プランク重力物理研究所が率いる未知の電波パルサー探索プロジェクト「Einstein@Home」だ。

 Androidユーザーは、プエルトリコのアレシボ天文台にある世界最大の電波望遠鏡からのデータを解析するアプリケーションに演算パワーを提供する。このアプリケーションは電波パルサーから出るパルス電磁波を検知して電波パルサーを見つける。

 パルサーは非常にコンパクトな恒星のかけらで、通常の物体に比べて極端な物理特性を持っているという。この中には伴星のすぐそばを周回し、アインシュタインの一般相対性理論を証明するユニークな試験台となっているものもある。しかし、新しいパルサーを発見するための感度は、その演算処理能力の制約を受けてしまう。

 演算処理能力が高まれば「Einstein@Home」の探索活動を加速し、感度を高められる。科学者たちは星や宇宙の進化の道筋を理解しやすくなり、ボランティアはAndroid端末を使って新しい電波パルサーの発見に貢献できるというわけだ。

「FightAIDS@Home」でエイズ治療薬の研究

 もう1つのプロジェクトが、IBMのワールド・コミュニティ・グリッドで展開されている「Fight AIDS@Home」。効果的なエイズ治療薬の研究を目的として、スクリプス研究所にあるオルソン教授の研究室により進められているものだ。

 ヒトを死に至らしめるエイズ・ウイルスが機能し拡大していくためには、HIVプロテアーゼ、HIVインテグラーゼ、HIV逆転写酵素という3つの酵素が必要となるが、オルソン教授らはこれらの酵素をブロックできる形状と科学特性を持つ新しい候補薬を特別な計算手法により特定しようとしている。

 これら以外にもIBMのワールド・コミュニティ・グリッドでは今後、Android対応のプロジェクトを増やしていく予定という。

川島 弘之