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AIのパワーをすべての企業に――、Salesforce.comがAIプラットフォーム「Einstein」をリリース
2016年9月20日 12:22
米Salesforce.comは9月19日(米国時間)、同社のCRM製品を利用する全ユーザーが利用可能なAI(人工知能)プラットフォーム「Salesforce Einstein」(以下、Einstein)をリリースした。
報道陣向けの電話会議で発表を行ったSalesforceのEinstein担当シニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャ、ジョン・ボール(John Ball)氏は、「AIの活用は企業にとってのラストワンマイル。コンシューマの世界ではすでにあたりまえになっているAIのパワーを、企業ユーザーにも届けていきたい」と語り、“AI for Everyone”をEinsteinによって実現していくと強調している。
Einsteinは、Salesforceが提供する7つのクラウドプラットフォーム(Sales Cloud/Service Cloud/Marketing Cloud/Commerce Cloud/Community Cloud/Analytics Cloud/IoT Cloud)それぞれに統合されたAI機能として提供される。
例えばSales Cloudでは「Slaes Cloud Einstein」として、最適なリード獲得のためのアクションや契約の成否の予測など、現時点での営業活動に有用なインサイトをAI機能から得ることができる。
また、開発者やデータサイエンティストからビジネスユーザーに至るまで、マシンラーニングなどを取り込んだアプリケーション構築やそのカスタマイズがしやすくなるのもメリットのひとつだ。
Salesforceのプラットフォームは、ベースとなるマルチテナント・インフラストラクチャレイヤの上に、CRMデータやIoTイベントデータ、さらには外部データ(E-mail、カレンダー、ソーシャルなど)を含むデータサービスレイヤ(Thunder)が存在する。
AIプラットフォームレイヤとなるEinsteinはThunderの上に構築され、データモデリングやマシンラーニング、予測分析などの各種のAIプロセスに必要なデータをリアルタイムに吸い上げる。Einsteinでの成果はAppExchangeやForce.com、Herokuといった開発レイヤ(Lightning)と連携、各クラウドプラットフォーム上で利用されるアプリケーションを構築できる。
「当然だが、メールやカレンダー、Chatterといった企業にとってのプロプライエタリなデータが他社と共有されるような事態は、絶対に起こり得ない」(ボール氏)。
各クラウドプラットフォームでのEinsteinの機能
各クラウドプラットフォームで利用可能となるEinsteinの機能は以下の通り(現時点ではカッコ内でGAと記載されている機能のみ利用可能)。なお、利用料金はライセンス費用に含まれるものと、利用した分だけ支払う従量課金によるものがある。
Sales Cloud Einstein
Predictive Lead Scoring(最適なリード獲得へのフォーカス)、Opportunity Insight(契約の成否予測)、Automated Activity Capture(メールログやカレンダーのデータとCRMデータをひもづけ、取るべきアクションの予測分析)
Service Cloud Einstein
Recommended Case Classification(予測される問題をすみやかに解決可能な担当エージェントを自動で検出)、Recommended Resposes(担当エージェントに推奨されるレスポンスを提示)、Predictive Close(問題解決までに必要な時間を予測)
Marketing Cloud Einstein
Predictive Scoring(メールの反応から顧客ごとの見込みをスコアリング)、Predictive Audiences(予測されるふるまいからセミナー参加者などのオーディエンスをセグメンテーション)、Automated Send-time Optimaization(顧客の過去のふるまいからメッセージを送信するのに最適な時間を予測)
Commerce Cloud Einstein
Product Recommendation(買い物客ごとにおすすめ商品をパーソナライズ、GA)、Predictive Sort(見込み客/買い物客の行動予測にもとづいた検索結果のパーソナライズ)、Commerce Insights(よりスマートな商品売買と店舗計画を実現するために商品購買の相関性を理解するヒントをリテーラーに提示)
Community Cloud Einstein
Recommended Experts, Articles and Topics(コミュニティ内で話題になっている、あるいは話題にすべき記事や投稿、エキスパート、トピックなどを提案、GA)、Automated Service Escalation(Service Cloudで顧客からの問い合わせにタイムリーに応対していない場合、自動でそのレスポンス用の窓口を作成、GA)、Newsfeed Insights(フィードごとに、もっとも関連性が強くて人気のあるコンテンツをハイライト)
Analytics Cloud Einstein
Predictive Wave Apps(あらゆるビジネスプロセスにおける将来のパターンを発見)、Smart Data Discovery(膨大なデータの組み合わせから数分でインサイトを見つけ出すための支援、GA)、Automated Analytics & Storytelling(ユーザが知りたがっている次のインサイトを自動で検出/優先化)
使う企業と使わない企業の差がはっきりあらわれる
「Einsteinを使う企業と使わない企業、その差ははっきりとあらわれることになるだろう」とボール氏は自信をもって言い切っている。その自信の背景にあるのは、ここ1、2年ほどの間にSalesforceが積極的に進めてきた、スタートアップを中心とするAI関連企業の買収の成果だ。
もともと、Salesforceは買収による技術力の向上を重要な戦略として位置づけているが、AIに関してはとりわけその傾向が強く、RelateIQ、MetaMind、PredictionIOといったディープラーニングや自然言語処理を専門とする優秀な企業を精力的に買収してきた。そしてそれらの技術をある程度統合した成果が、このSalesforce Einsteinだということができる。
Einsteinの発表と同時に、Salesforceは「Salesforce Research」というチームの設立を明らかにしている。人数などは公表されていないが、買収企業からの人材を含むデータサイエンティストやAI研究者などが多数所属し、最先端のマシンラーニング/ディープラーニング、自然言語処理、コンピュータビジョンなどの研究を行っていくという。
リーダーとしてSalesforce Researchを率いるのはMetaMindの創業者であり、現在はSalesforveのチーフサイエンティストを務めるリチャード・ソシェ(Richard Socher)氏で、今後も同チームでのAI研究の成果をEinsteinに反映させていく予定だ。
また、今後はSalesforce Researchでの成果の一部をオープンソースとして公開していく方針も示しており、すでにマシンラーニングサーバとしてPredictionIOをApache Software Foundationのもとで公開している(http://predictionio.incubator.apache.org/)。
なおEinsteinの詳細は、米国サンフランシスコにて10月6日(米国時間)から開催されるSalesforceの年次プライベートカンファレンス「Dreamforce 2016」でも紹介される予定となっている。