「中小・中堅企業のためのサービス・デリバリー・システムを提供するのが役割」

~仮想化ベンダーParallelsのサービス・プロバイダ部門責任者に聞く


 米Parallelsは、Macintosh向けの仮想化ソフトウェアでも著名ではあるが、事業の柱となっているのは独自の仮想化/自動化技術に基づくサービス・プロバイダ向けのソリューション提供であり、クラウドサービス・プロバイダが事業を展開するために必要なテクノロジーを提供している企業だといえる。今回、クラウド Watchでは、同社の創業メンバーの一人で、サービスプロバイダ向け事業部門の責任者(プレジデント)を務めているであるジャック・ズバロフ氏に、話を聞いた。

 

新製品に盛り込まれた新技術

米Parallels サービスプロバイダ部門プレジデントのジャック・ズバロフ氏

――それでは、9月29日に日本国内で発表された新製品について、その提供の意図を教えていただけますか。

ズバロフ氏:まず、シェアード・ホスティングサービス事業者のサービス・デリバリー・システムは、Parallelsの以前のバージョンによって実現されているか自社開発の独自システムで実現されているのかを問わず、現在大きく2つの問題に直面している。

 1つは、Webサイト間あるいは顧客間の分離が十分ではないことだ。ある顧客のWebサイトで何か問題が生じた場合に、ほかの顧客すべてに影響を与えてしまっていた。もう1つは、1台の物理サーバーでホストできるWebサイト/顧客の集約密度があまり高くないという点だ。現状ではおおむね1台の物理サーバーでホストできるのは最大でも2,000アカウント程度にとどまっている。

 新製品として発表した、「Parallels Automation」向けの追加モジュールとなる「Linux共用ホスティング次世代サービスモジュール」では、この2つの問題に対処した。

 1つは、Webシェアード・ホスティングサービスにおいてWebサイト間/顧客間を完全に分離して管理できるようにしたこと。もう1つは、Parallelsが独自開発した技術に基づき、1台の物理サーバー上で稼働しているWebサイト間でロードバランシングが可能になったことだ。この結果、物理サーバーのパフォーマンスを損なうことなく、Webサーバーの実装数を最大1万まで増やすことができ、実装密度を大幅に向上させている。

 Parallelsの次世代製品によって、シェアード・ホスティングサービス事業者は1顧客当たりのインフラ・コストを引き下げることができ、さらに顧客に対してQoS保証を提供できるようになる。この結果、顧客がサービス品質に不満を持ち、離れてしまうことを避けられるだろう。

 顧客間の分離が不十分なシステムでは、ある顧客の挙動がほかの顧客に影響を与えてしまうため、サービス事業者がパフォーマンスの保証を行うことが難しかった。新技術の導入により、計画/計画外いずれのダウンタイムも削減することができる。次世代製品では顧客のWebサイトを稼働させたまま移動したり、一度シャットダウンしてから再起動したりといった作業に要する時間が大幅に削減されている。この成果を、サービス価格の引き下げという形で顧客に還元することで競争力を高めることも可能になる。

 

――顧客の分離は従来の仮想化でも実現していたのでは?

ズバロフ氏:アカウントの分離は、従来もコンテナ/ハイパーバイザによる仮想化で実現されていたが、Parallelsでは新技術として“Super Light Container(スーパーライトコンテナ)”を実装することでより高度な機能を実現している。WebサーバーをホストするコンテナではOSのすべての機能を必要としているわけではないので、Webサーバーを実行するために必要な機能に絞った軽量なコンテナを用意した。

 この結果、新しいコンテナを用意してWebサーバーを立ち上げるのに要する時間は1秒未満に短縮された。仮にアクセスの集中などによってWebサーバーが大量にリソースを消費してしまうような状況になった場合には、迅速にコンテナをシャットダウンすることでほかのコンテナに影響が波及することを防ぐことができる。

 スーパーライトコンテナの起動/終了は極めて迅速に行われるため、アクセスがあまり多くないWebサイトの場合は、アクセスがきたところでコンテナを用意してWebサイトを立ち上げて応答し、処理が終了したらコンテナを終了してしまう、という運用も可能になる。これによって、大幅な集約密度の向上が実現するわけだ。Webサイトにアクセスしてきたユーザーには遅延の大きさを感じさせることなく、アクティブなコンテナだけが物理サーバーのリソースを消費している、という環境が実現できる。

 

シェアードWebホスティングの市場動向

――この製品を利用する、シェアードWebホスティングの市場というのは、そもそもどうなっているのでしょう?

ズバロフ氏:クラウドに注目が集まっているが、市場が10年後にどのようになっているかについて考えてみよう。特にParallelsが強みとするSMB市場については、中堅・中小企業がどのようなものを必要とするかについて考える必要がある。今後SMB市場のIT投資がクラウドにシフトしていくことは間違いないだろう。その意味では、今SMB各社が自社内に確保しているITリソースの多くを、10年後にはクラウドから入手することになるだろう。

 中堅・中小企業にとっては、サーバーは必要ないしOSにも関心はないだろう。SMBが必要としているのはあくまでアプリケーションであり、インフラではない。現在はクラウドの大流行といった状況だが、「雲(クラウド)の回りには霧がかかっている」とでも言えばよいのか、何が本当に必要とされているのかを見通すことは困難だ。SMBはIaaSやPaaSも利用するだろうが、本当に必要なアプリケーションが利用できるのであれば、IaaSやPaaSでさえ本当は不要なはずだ。現在はIaaS/PaaSを利用しているSMBも少なくないが、今後5年程度で減少に転じると予想している。

 というのも、より簡単かつ安価にアプリケーションだけが利用できるという形で成熟していくはずだからだ。IaaS/PaaSは短期的には急成長を遂げるだろうが、長期的には需要は減っていくと見ている。

 それに対して、シェアードWebホスティングの需要は根強いものがある。SMBのニーズを見れば、自社の存在を広くアピールするためにもWebサイトは必要だろうし、顧客からのフィードバックを得るためにソーシャル・サービスを活用することも今後ますます増えてくるだろう。コミュニケーション・サービスやIP電話なども多くのSMBが必要とすると思われる。しかも、こうしたさまざまなアプリケーションはWebアプリケーションとして実装される傾向が強まっている。Webアプリケーションを提供するためにも、Webサーバーは不可欠だ。

 Webホスティング・サービスの市場は、現在でもさらに成長を続けているところだ。かつては存在しなかった新しいアプリケーションやサービスが次々とWebをプラットフォームとして提供され始めていることもその理由となっている。

 

エンタープライズとSMBの本質的な差

――仮想化市場では、VMwareなど他社との差別化が気になるところです。

 ParallelsはVMwareとは競合していない。VMwareは特に大企業に注力している。VMwareのvSphereを見てもわかるとおり、数万人規模の従業員を擁し、特大規模のデータセンターを運用している企業向けの製品として設計されている。

 一方で、Parallelsはまずは中小規模の企業向けに製品を提供することに注力している。市場に重なる部分が全くないわけではないが、大きくは大企業向けか中小企業向けかというすみ分けになっている。

 製品の機能面で見ても、Parallelsのサービス・デリバリー・システムが提供する機能とVMware製品が提供する機能では重複部分はごくわずかだ。Parallelsのサービス・デリバリー・システムの強みである「セルフサービス・ポータル」や「プロビジョニング・システム」、「ビリング(課金)・ソリューション」、「ビジネス・サポート・システム」に対応する機能はVMwareにはない。

 もちろん、Parallels製品が大規模企業では使えないわけではなく、むしろ優れたサービスを提供できている。具体的には、「Hosted Exchange」や「Hosted SharePoint」といったサービスでは、Parallelsのソリューションを活用することで大企業向けの優秀なサービスを展開できる。とはいえ、Parallelsのサービスの大半は、SMBのビジネスの支援することを意図して提供されていることは間違いない。

 同じプラットフォームを使ってエンタープライズ向けサービスもSMB向けサービスも同じように展開できるのではないか、と考える人もいるだろうが、そんなプラットフォームは現時点では存在していないし、今後開発される可能性もまずないと断言できる。その理由は、エンタープライズとSMBでは必要とされる要件が全く異なっているためだ。

 SMB向けのサービス・デリバリー・システムでは、コスト効率性と使いやすさが特に重視される。一方、エンタープライズ向けのシステムで特に重要となるのは、既存のインフラや将来導入されるシステムと確実に統合できるような柔軟性や、システム側で実現しているセキュリティの高さだ。

 逆に、システムの使いやすさに関しては、専任のITスタッフが十分に確保されていることが多いため、SMBほど重視されないし、コスト効率に対する考え方もSMBとは根本的に異なっている。大企業にとっては必ずしも価格が安価である必要はなく、よいテクノロジーがその価値に見合った価格で提供されるのであれば導入するだろう。大企業でもコスト削減を重視するとは言うが、そこで言っているコストはSMBとはけたが違っており、数万ドル単位の話なのか数十ドルの話なのかという大差がある。

 

日本市場の現状とParallelsの強み

パラレルス株式会社 代表取締役 富田直美氏

 続いて、補足として同社日本法人代表取締役の富田直美氏からもコメントがあった。

富田氏:Webホスティングのマーケットは今でも伸びている。コロケーションや占有ホスティング、シェアード・ホスティングなどの種類がある中では、シェアード・ホスティングが最も伸びが大きく、調査会社のデータでは日本で138%の伸びだという。コロケーションは18%の伸び、占有ホスティングは74%の伸びで、シェアード・ホスティングの成長度合いが圧倒的だ。

 シェアード・ホスティング市場での競争も厳しくなってきているが、現在は日本国内のサービス事業者の8割が何らかの形でParallelsの製品を活用している状況だ。こうしたサービス事業者がさらに高信頼のサービスをより安価に提供できるようなビジネスモデルを事業者向けに提供していくのがParallelsのビジネスだ。

 こうした事業に長年取り組んできた結果、Parallelsはサービス事業者を通じて膨大な数のSMBにサービスを提供できるデリバリー・モデルを既に確立している。これは当社の大きな強みだ。今後クラウド市場においてもSMBの需要が最も伸びると見ているが、ParallelsはSMBに対してサービス・デリバリーを行うためのシステムを提供できることで、クラウド時代においても大きな強みを持っている。

 なお、LVE(Light-weight Virtual Environment、スーパーライトコンテナ)という取り組みもそうだが、Parallelsは既存の常識を壊して新たな価値を実現する企業だ。現在の最新のプロセッサやチップセット、OSの機能を存分に活用し、フルチューンナップすることでこうした機能が実現できている。「今まではこれはできなかった」ということが異次元のレベルでできるようになるのが、Parallels製品を利用する価値となっている。

 競合に関して言えば、ズバロフ氏の言うとおりだが、実はクライアントの仮想化という分野ではVMwareと直接競合している。しかも、この分野でのシェアはVMwareに対して大きくシェアを伸ばして優位に立っているという調査結果が出ている。仮想化技術という一点に注目しても、VMware以上の実力を有しているという自負がある。

 

 ここまでのインタビューで見てきたように、Parallelsの取り組みは、日本国内でのクラウド・サービスの普及を考える上で無視できない重要性がある。大企業では自社のデータセンター内をクラウド化する「プライベート・クラウド」であっても比較的容易に実現できるが、数の上では圧倒的に多い中堅・中小企業のクラウドへの移行はサービス事業者によるパブリック・クラウドの提供があって初めて実現すると考えられるためだ。しかも、こうしたサービスを提供する事業者として最も近いところにいる現時点での国内のデータセンター・サービス事業者の多くは自身が中堅/中小規模の企業であることが多い。

 大企業向けではなくSMB向けとして製品仕様を磨き込んでいるParallels製品は、派手な最先端動向だけに注目していると見落としがちではあるが、実のところサービス事業者が現実的なインフラを構築するためには不可欠のコンポーネントだといえるだろう。

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