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OpenStack Summit Tokyo 2015 2日目レポート、OpenStack Foundation COOのMark Collier氏らが登場
コンテナ技術への取り組みなどを説明、楽天などのさまざまなユーザー事例も
(2015/10/30 11:38)
オープンソースのクラウド基盤ソフトウェア「OpenStack」の国際カンファレンス「OpenStack Summit Tokyo 2015」が、10月27日から30日まで開催されている。
初の日本での開催となる。参加者は5000人を超え、そのうち約三分の二が海外からの参加者だという。
2日目の基調講演には、OpenStack FoundationのCOOであるMark Collier氏が登壇。10月にリリースされたOpenStack最新版の「Liberty」や、その中のネットワーク機能「Neutron」などについて語った。
いま最もアクティブなのは「Neutron」
OpenStackは、機能ごとにモジュール分けされ、プロジェクトが分かれている。Collier氏はまず、OpenStack Libertyでは数々のプロジェクトを、大多数の利用者が利用する「コアサービス」と、それ以外のオプションとなるもの(BIG TENT)とに整理したことを説明した。
「では、いま最もアクティブなプロジェクトは何でしょう?」とCollier氏は会場に質問。いろいろな声が上がったあとで、ネットワーク機能の「Neutron」だったことを明らかにした。
氏は、OpenStackのユーザーの利用率として、2014年にはNeutronを動かしているのが68%だったというデータを紹介。もっと増えるべきだと心配していたが、2015年には89%になたとのことで、「NeutronがQuantum Leapをとげた」と語った(物理学の量子跳躍と、Neutronの旧名Quantum、さらに同題のTVドラマ(邦題「タイムマシーンにお願い」)をかけたジョーク)。
Collier氏は「コンピュート」「ネットワーク」「ストレージ」の3要素について、「コンピュートは早く成熟し、ストレージがそれに続いた。いまこそネットワークの時代だ」と述べた。
そして、そのトレンドとして「SDN」と「NFV」の2つを挙げた。SDNについては、サーバー仮想化の2倍のスピードで成長しているという調査会社のデータを紹介。NFVについては、「通信キャリアが4Gなどの導入のたびに独占的で高価な機器に入れかえなくてもよくなる。通信キャリアを変えてしまう、大きなマーケットだ」と述べた。その上で、「SDNやNFVを扱うベンダーの中で、上位5社はOpenStackに賭けている」とCollier氏は語った。
Neutronについて、OpenStack Libertyで改善された点として、Collier氏は、RBAC(Role-based Access Control)や、プラガブルなIPAM(IP Address Management)、QoS APIなどを紹介した。
Neutronとコンテナのネットワークをつなぐ「Kuryr」
ここで、NeutronのPTL(プロジェクトチーム責任者)であるKyle Mestery氏が登場。Neutronについて解説したあと、コンテナのネットワークをOpenStackで扱うプロジェクト「Kuryr」について説明した。
Mestery氏はまず、Neutronの歴史を紹介。続いてNeutronの設計として、プラガブルなアーキテクチャと、APIによる組み合わせを特徴に挙げた。これにより、LBaaSやVPNaaS、L2GWなども実装されている。
氏はさらにコンテナについて言及。「いま、ベアメタルと仮想マシン、コンテナの3種類のノードがある。これらをつなぐのはネットワーク」と語った。そして、Dockerが開発しているネットワーク仮想化機構「libnetwork」の構成を示して、「Neutronと似ている」と主張した。
その上でMestery氏は、Neutronのサブプロジェクトとして最近登場した「Kuryr」を解説した。Kuryrは、Neutronの仮想ネットワークとlibnetworkのネットワークを「VIF Bindn」を介して統合するものだという。これにより、Neutronの仮想ネットワークからコンテナを扱えるようになり、Magnum(OpenStackのコンテナ機能)とも統合できる。
Dockerクライアントで操作できるコンテナクラウドホスティング「Carina」
コンテナの分野ではそのほか、Rackspace社のScott Crenshaw氏とAndrian Otto氏が登場し、Dockerコンテナのホスティングの新サービス「Carina」を発表した。なお、Rackspace社はホスティングやクラウドの会社で、NASAとともにOpenStackのプロジェクトを始めた企業だ。
Carinaは同日、無償のベータ版サービスが開始された。「easy-to-use(簡単に使える)」「instant on(すぐにオンになる)」がキャッチフレーズ。1台のコンテナではなく、コンテナのクラスタを作れるもので、「ネットワークの複雑なところもやってくれる」という。
簡単さを強調するため、Otto氏の10歳の息子がOtto氏に教わりながらCarinaを操作するビデオが上映された。Web上でクラスタ名を入力するだけで、クラスタが作られる。あとはクラスタの設定などの入ったアーカイブをダウンロード。設定を読み込むだけで、普通のdockerコマンドからクラスタにコンテナを作って実行できる。
Carinaのサイトの説明によると、Docker EngneをDocker Swarmでクラスタ化し、Carinaのコントロールプレーンからコンテナをデプロイする。仮想化しない物理サーバー上のLinuxで直接コンテナを動かすため、仮想マシンより60%高速にデプロイできるという。ちなみに講演や説明を見た限り、CarinaでOpenStackが使われているかどうかは不明だ。
そのほか、Rackspaceの既存のサービスでコンテナを使っている例として、Webホスティングサービス「Pantheon」も紹介された。
Otto氏は、OpenStackの中でコンテナを扱う「Magnum」のPTLでもあり、Magnumについても簡単に紹介した。Magnumでは「Bay」という単位でクラスタを作って扱う。Bay自体はDocker SwarmかKubernetes、Mesosで管理し、そのAPIをMagnumから利用するという。
Open Boxの顧客DC版「Blue Box Local」
IBM社のAngel Diaz氏と、Blue Box社のJesse Proudman氏は、Blue Boxのサービスの紹介と、IBMのOpenStackへの貢献について語った。
Blue Boxは、OpenStackのマネージドサービス(ホステッドプライベートクラウド)を提供する企業で、2015年6月からIBM傘下にある。
Blue Boxでは、OpenStackのインフラの上に、Cloud FoundryやDockerなどのプラットフォーム、さらにNode.jsなどのランタイムなどを用意。「Blue Boxではこれらを1つにまとめた。お客さまが必要とするのはソリューション」と語る。
Blue BoxではIBMのクラウドサービス「Soft Layer」上で「Blue Box Dedicated」サービスを提供している。さらに新しいサービスとして、顧客企業のデータセンターで動くプライベートクラウドをマネージする「Blue Box Local」が紹介された。
IBMのOpenStackへの貢献としては、OpenStack Foundationでのボードやテクニカルコミッティへの参加、各リリースでコミットしたコードの行数などが示された。
OpenStackのユーザー企業が事例を語る
基調講演では、OpenStackを利用するユーザー企業もゲストとして登場し、事例を語った。
ポータルサイト「goo」を運営するNTTレゾナント株式会社の西山敏雄氏は、2014年10月から新サービスを動かす基盤にOpenStackを導入した経験を語った。
採用理由は、ビジネス環境の変化にともなう「スピード」、プロビジョニングや運用の「コスト削減」、そしてNTTグループ全体でOpenStackの知識が蓄積していたことだ。
400以上のハイパーバイザー上で、1800の仮想マシンにより80以上のサービスを稼働。Red HatのOpenStackディストリビューション「RDO」を採用し、以前から使ってきたPuppetやZabbixなどの運用ツールと統合。さらにNeutronによってVLANをコントロールし、バグ報告などOpenStackコミュニティにフィードバックしたという。
OpenStackの導入により、新サービスのリリース期間が3か月から2週間に短縮。サービス開発部門のリクエストに柔軟に対応できるようになり、コストも削減したという。
韓国のSK Telecomのイ・カンウォン氏は、通信キャリアのインフラでのOpenStack導入について語った。
まず、次世代の5Gモバイルネットワーク。4Gまではモバイルネットワークとデータセンターの設備が分かれていたが、5GではすべてがITネットワークに一本化されるという。「5Gのネットワークは、手動で構成するのは難しい。ポリシーから構成したり、需要が増えたときにプロビジョニングしてスケールアウトするなど、SDNやNFVによってハンドリングする必要がある」とカンウォン氏。「そのとき、単一のベンダーではニーズを満たせないと考え、オープンテクノロジーのOpenStackに投資した」。
SK Telecomでは、OpenStackを核にしたSoftware Defined Data Centerプラットフォーム「T-ROS(T-RON Operating System)」を開発し、全国のNOCのサーバーの管理に導入した。そのほか、新しいサービスやアプリケーションを開発するためのプライベートクラウドにもOpenStackを利用しているという。
また、SDNの分野では、スタンフォード大学のON.Labが開発するキャリアグレードのSDNコントローラ「ONOS」にコントリビュートしているという。これは、Neutronからの管理の対象となる。SDNの応用としては、ネットワーク構造を3Dで可視化し、その上で特定の個所のトラフィックを止めたり、輻輳(ふくそう)を解決したりできる管理ツールを開発したという。
楽天株式会社からは、佐藤裕紀・ニール氏と佐々木健太郎氏が登場した。
楽天では2010年からハイパーバイザーにXenを採用して、社内向けのプライベートクラウドを構築(2,000台強)。2012からはVMwareに移行(20,000台強)、2015年からはOpenStackのセットアップを始めたという。
Novaは1UのローカルSSDのマシンで動作し、ハイパーバイザーはKVM 2.0を採用。Glanceには自社開発したS3互換の分散ファイルシステム「LeoFS」を使う。NeutronではVLANとOpen vSwitchドライバーでネットワークを構成するという。
サイバーエージェントの長谷川誠氏は、アドテクなどのサービスをOpenStackによるプライベートクラウドで動かしていると語った。
同社では2012年にOpenStack Folsomで検証を開始した。2013年にはGrizzlyで10個程度のサービスを運用開始。2014年のIcehouseでアドテクをOpenStack上に乗せたという。
コードネーム「Diana」というプライベートクラウドプラットフォームでは、CPUの総コア数が2015年3月の3,500コアから10月の14,000コアに成長。70以上のVLANを使って、20以上のアドテクサービスを乗せているという。
これからについては、サービスの増加にともないスケールを拡大。またOpenStackのバージョン追従していく。さらに、ネットワークとしては現在MidoNetを検証しているところだと語られた。