「ハードとソフトの融合こそ次世代ITの世界」~Oracle ラリー・エリソンCEO

Oracle OpenWorld Tokyo 2012基調講演 故スティーブ・ジョブズ氏の思い出話も


 東京都内にて開催中の「Oracle OpenWorld Tokyo 2012」の2日目となる5日には、米Oracle 最高経営責任者(CEO)のラリー・エリソン氏が、京都からの衛星中継にて基調講演に登場した。エリソン氏は京都に別荘を持つ親日家で、講演前には同氏の別荘の写真が会場スクリーンに映し出された。


京都にあるというエリソン氏の別荘

 

最高のシステムの構築に必要なものは?

米Oracleのラリー・エリソンCEO
Exadata&Exalogicの設計の狙い

 エリソン氏は、次世代コンピューティングの世界で最高のシステムを構築するには「ハードウェアやソフトウェアをすべてうまく組み合わせて動くよう設計しなくてはならない」と述べた。同氏はこの手法をうまく実現している企業としてAppleを取り上げ、「Appleは、ハードウェア、ソフトウェア、オンラインサービスのすべてをあわせてシームレスな体験を顧客に提供している。結果、Appleは最も価値の高い企業になった」とした。

 これがOracleの推進する「Engineered System(エンジニアードシステム)」構想につながっている。ハードウェアとソフトウェアを組み合わせ、適切な状態で提供できるようOracleが設計した製品を同社ではエンジニアードシステムと呼んでいるが、エリソン氏は続いて、Oracleが提供する具体的なエンジニアードシステムの製品を紹介した。

 同社最初のエンジニアードシステムは「Oracle Exadata Database Machine」だ。続いて登場した「Oracle Exalogic Elastic Cloud」も含め、「これらの製品は世界一のスピードとより良いコストパフォーマンスを目指して設計した。単にIBM Power 795を超えるだけでなく、安価なx86サーバーを数多く並べるよりも低コストになる」(エリソン氏)と自信を見せた。

 「最高のパフォーマンスを最小のコストで実現できる」とエリソン氏が言うこれらのシステムはどのようにして設計されたのか。「ハードウェアやソフトウェアをすべて並列化し、データ転送を10倍高速化した。また、データ圧縮によりデータ量が10分の1となったため、合計100倍の高速化が実現した。さらには、従来の10倍のDRAMとフラッシュを搭載し、10倍のI/O速度も実現している」とエリソン氏は話す。

 同氏は、Exadataを導入した日本の顧客例として、アサヒグループ、三越伊勢丹システム・ソリューションズ、マツダ、野村総合研究所、NTTドコモを挙げた。「アサヒグループホールディングスは、グループ各社のデータベースクラウドプラットフォームにExadataを採用し、営業分析クエリ処理時間が2時間から30秒に短縮した。またNTTドコモでは、顧客契約および課金情報データマイニングシステムにExadataを採用し、10倍のデータ圧縮で顧客情報分析スピードが95倍向上した」(エリソン氏)。

 また、Exalogicについては海外の事例を紹介し、「中国の家電メーカーHaierでは、Oracle WebLogicアプリケーションをExalogicにて稼働中で、競合に比べて2分の1のコストで7倍のスピードを実現している。ルーマニアの金融保険業界トップ5社に入るBanca Transilvaniaでは、WebLogicベースのプライベートバンキングソリューションFlexcubeを導入しているが、POSトランザクションが1秒を切っている」と、実績を強調した。

 ExadataおよびExalogicはインテル製のプロセッサを採用したシステムだが、エリソン氏はSPARC T4プロセッサ搭載の「SPARC SuperCluster」も紹介。金融大手で従来のSPARC構成よりバッチ処理が50%短縮したことや、小売り大手でJD Edwardsのセールスオーダー処理が2.5倍のパフォーマンスになったことなどを例として挙げた。


Exadataの日本での顧客導入事例Exalogicの顧客導入事例

 さらにエリソン氏は、日本で3月27日に発表されたばかりの分析専用マシン「Oracle Exalytics In-Memory Machine」についても語り、先行ユーザーのベンチマークとしてデンマークの住宅ローン大手NykreditがExadataとExalyticsで35~70倍の高速化を実現したと述べた。

 また、ExalyticsをSAPのインメモリアプライアンス「SAP HANA」と比較し、「HANAはインメモリデータベースのみで、データ量も最大2~3TB、対応するアプリケーションはSAP NetWeaver Business Warehouseくらいだ。一方のExalyticsは、インメモリデータベースに分析ツールも含まれており、数百TB、数千ユーザーにまで拡張可能。パッケージソフト、カスタムソフトを問わず、80以上のBI/EPMアプリケーションを高速化できる」と、その優位性を強調している。


Exalyticsの顧客導入事例ExalyticsとSAP HANAとの比較

 

すべてのピースをうまくフィットさせることこそ、ジョブズ氏のビッグアイデア

 講演の中でエリソン氏は、長年の大親友だったという故スティーブ・ジョブズ氏との思い出にも触れている。

 「ジョブズ氏がAppleに戻った時、彼はとてもシンプルな考えを持っていた。当時Microsoft、Intel、Hewlett-Packardの3社がPCの世界を作り上げようとしていたが、これらの会社が一緒にやっても物事は複雑で意志決定も困難となり、ひとつの製品を世に打ち出すのも難しかった。そこでジョブズ氏は、1社でソフトウェア、ハードウェア、オンラインサービスのすべてができないかと考えた。すべてのピースをうまくフィットさせることこそビッグアイデアで、Appleはそれをやってのけた。その結果Appleは、ジョブズ氏が同社に戻った当時の100倍の時価総額となる5000億ドル企業となった。しかも、同社の研究開発予算はMicrosoftやIntel、Hewlett-Packardより少ないのだ」(エリソン氏)。

 

Oracleではロックインを決してしない

 講演が実際に行われていた京都会場では、参加者からの質問も受け付けたエリソン氏。中には、エンジニアードシステム構想に賛同しつつも、「ベンダーロックインにつながり、その結果高いコスト負担につながるのではないか」と、過去にIBMでベンダーロックインされた苦い思い出から、懸念を示す参加者もいた。

 これに対しエリソン氏は、「われわれがユーザーをロックインすることは決してない。IBMのようにロックインすると、ユーザーに高い費用を負担させることになり、結果ユーザーも離れてしまう。しかもロックインはベンダーの怠慢にもつながるのだ。Oracleが言っているのは、コストパフォーマンスが良いと納得した場合のみExadataを選んでほしいということで、いったんExadataを選んでもほかにコストパフォーマンスの良い製品が出てくれば、常に他社製品へ自由に乗り換えてくれということだ。Oracleは今後も顧客に選択肢を与え続ける」と述べた。

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