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【パネルディスカッション】AI活用は何を変えるのか 攻めのファイナンスを実現する業務設計とマインドセット変革

 「次世代ファイナンス戦略×AI活用セミナー」において実施されたパネルディスカッションでは、「AIが解き放つ攻めのファイナンスへ」と題し、経理・財務部門を取り巻く環境変化とAI活用の実態について、多角的な議論が交わされた。

 業務の高度化と人材不足が同時に進行する中、AIは単なる効率化の手段にとどまらず、業務プロセスの再設計や意思決定の高度化を支える基盤となりつつある。現場の実践知に基づく議論を通じて、AI時代に求められる業務の在り方と実務家の役割を整理するものである。

業務環境の変化が迫る経理・財務の変革とAI活用の必然性

 パネルディスカッションは、ラウレア 代表取締役 公認会計士の飯塚 幸子氏がモデレーターを務め、サブモデレーターとしてクラウドWatch編集長の石井 一志氏が参加した。パネリストには、旭化成 経理財務部 税務室の三嶌 晴志氏、EY新日本有限責任監査法人の加藤 信彦氏、アズビル 経理部の山﨑 和久氏の3名が登壇した。

 議論はまず、経理・財務部門を取り巻く業務環境の変化から始まった。各社に共通していたのは、業務の高度化と人材不足が同時に進行しているという課題である。

 三嶌氏は、グローバルミニマム課税の導入などにより税務業務が急速に複雑化している点を指摘する。同時に、ベテラン人材の退職が進み、人手不足も深刻化しているという。「新たな業務への対応が求められる一方で、税務を担ってきたベテランの退職が進み、業務の難易度も高まっています。こうした中、従来の人材採用や育成だけでは追いつかず、AIの活用や業務の集中化によって効率的な運用へ転換する必要があると考えています」と述べた。

 加藤氏は、AI活用に対する現場の意識変化に触れた。10年前に異常検知AIを導入した当初は懐疑的な反応が多かったが、生成AIの登場により状況は大きく変わったという。「クライアントのビジネスの複雑化やグローバル展開に伴い、監査で扱うデータ量は大幅に増えています。そのためAIによる異常検知に取り組んできましたが、当初は現場でも懐疑的でした。しかし生成AIの登場で状況は一変し、今では『使わせてほしい』という声が日々届くほど関心が高まっています」と語る。

EY新日本有限責任監査法人 クライアントサービス本部 デジタル戦略部 部長 パートナーの加藤 信彦氏

 山﨑氏は、経理部門の役割そのものが変化している点を強調した。従来の記帳中心の業務から、経営判断を支える情報提供へとシフトしているという。「経理に求められる役割は大きく変わっています。正確な記帳に加え、経営判断に資する情報をタイムリーに提供することが求められる時代になりました」とした上で、育児や介護などによる人的リソースの制約や、限られた時間での高品質な業務遂行の必要性にも言及した。「こうした状況に対応するためには、AIやテクノロジーを活用した効率化が不可欠だと感じています」と述べている。

 こうした議論を受け、モデレーター側からもテクノロジー活用の必要性が示された。石井氏は、「人手が減る中で、テクノロジーで代替できる業務は置き換えていくことが重要です。経理・財務分野でも、効率化とデータ活用の両面でテクノロジーの活用が求められていると感じています」と整理する。

 また飯塚氏は、自身の実務経験を踏まえ、「連結決算のアウトソーシングを中心に業務を行っていますが、現状は人手不足を人で補っている状況です。コロナ禍でリモート環境が整いアウトソーシングは進みましたが、今後はテクノロジーの活用が不可欠になると感じています」と述べ、本パネルへの期待を示した。

 このように、業務の高度化と人材不足という構造的な課題を背景に、経理・財務領域におけるAI活用の必要性が共有された形で、議論は次のテーマへと進んでいった。

ラウレア 代表取締役 公認会計士の飯塚 幸子氏

AI活用がもたらす業務プロセス変革と適用領域の具体像

 次に、「AIが変える業務プロセス」をテーマに議論が行われた。

 三嶌氏は、請求書処理と社内ナレッジ活用の2つの具体例を挙げ、AIを業務プロセスに組み込む重要性を指摘した。請求書処理ではAI OCRを活用し、取引先コードや金額、勘定科目の自動取得を実現しているほか、生成AIを用いて社内規定やルールを学習させ、業務の効率化にも取り組んでいる。「重要なのは、AIを単体で使うのではなく、業務プロセスの中に組み込むことです。そのためにはプロセス全体の見直しが不可欠です。また、AIは大量データを高速に処理できるため、データを集約できる仕組みづくりも重要です」と話す。

 また、当初は請求書処理を外部委託する予定だったが、コスト面からAI導入へと方針転換した結果、人手以上の処理能力を発揮し、大量業務の一括処理に適していると評価している。

旭化成株式会社 経理・財務部 税務室 税務室長 リードエキスパートの三嶌 晴志氏

 加藤氏は、データ処理の集中化とAI活用の役割分担について説明した。約3,000社のデータ加工を集中化し、CoE (センター・オブ・エクセレンス)で処理しているという。「正確性が求められる部分はルールベースで対応し、分析はAIを活用しています。生成AIは要約や文章生成に強みがあり、分析コメントの作成にも活用しています。連結では全子会社の財務データを分析し、異常値のみを抽出する仕組みを構築しています。また、生成AIは開示検証にも活用していますが、あくまでドラフト生成にとどめ、必ず人がチェックする"Human in the Loop"を組み込むことが重要です」。

 山﨑氏は、議事録作成や教育資料作成における生成AIの活用について紹介した。Microsoft Teamsの録音・文字起こし機能を活用することで議事録作成の工数を削減し、監査対応や証跡管理の迅速化につなげているほか、教育資料の作成においても生成AIを活用し、効率的なドラフト作成を実現している。「AI活用が進むほど、チェックや内部統制をむしろ強化することが重要です。自動化が進むほど確認が形骸化しやすく、そのリスクは強く意識しています。最終的な確認は人が行う前提ですが、工数削減効果は非常に大きいと感じています」。

 これらの議論を受け、石井氏は制度面の観点から、数値は100%の正確性が求められるため厳密な確認が不可欠であると整理した。「文章は修正が可能ですが、数値は100%の正確性が求められます。その前提で、生成AIでできることは確実に増えており、できることとできないことを見極めて使いこなすことが重要です」。

レビュー・判断・ガバナンスに求められる新たな統制設計

 次に、「レビュー・判断・ガバナンス」をテーマに議論が行われた。本テーマはパネルの中でも特に議論が深まり、AI活用におけるリスクと統制の在り方について、活発な意見交換が続いた。

 三嶌氏は、AIの出力結果を前提として信頼するのではなく、常にチェックすることの重要性と、データ品質の確保の必要性を強調した。「AIのアウトプットは必ず正しいかをチェックする前提が必要です。そのためのマインドセットや社内ルールの整備が重要であり、誤りがあり得ることを組織全体で共有する必要があります。また、AIの精度は元データの質に大きく依存するため、質の低いデータでは良い結果は得られません。良いプロセスを構築し、高品質なデータを作ることが不可欠です」。

 加藤氏は、AI活用における統制設計の考え方として、「目的・インプット・モデル・アウトプット」の4つの観点でチェックする必要性を示した。「AI活用では、①目的、②インプット(データ品質)、③モデル、④アウトプット確認の4点を必ずチェックすることが重要です。データ品質が低ければ結果も悪くなるため、この観点は欠かせません。一見チェックが多く見えますが、リスクレベルに応じて統制を設計すれば過度に恐れる必要はありません。また、AIはあくまでドラフトや判断材料の提示にとどめ、最終判断と責任は人が担うという前提が重要です」。

 山﨑氏は、生成AI特有のリスクとしてハルシネーションへの警戒と、裏付け確認の重要性を指摘した。「AI活用により前段の作業は減りますが、チェックや統制はむしろ強化する必要があります。特に怖いのは"もっともらしいハルシネーション"であり、必ず裏付けを取ることが不可欠です。AIはたたき台としては有効で8割程度は作成できますが、残り2割は人が補う必要があります。この2割には、裏付けに加えて、どう説明するかというコミュニケーションも含まれます」。

アズビル株式会社 経理部 部長の山﨑 和久氏

 さらに議論はセキュリティの観点へと広がった。加藤氏は、生成AI活用におけるデータ保護の重要性について言及した。「監査法人としてデータセキュリティは最重要課題です。特に生成AIでは、顧客データが外部モデルに学習されない仕組みを整備することに多くの時間をかけてきました。日本国内にサーバーを配置し、学習されない環境を整備するとともに、ベンダーの内部統制も確認しています。入力禁止情報の徹底に加え、運用ルールと技術の両面でリスクを管理することが不可欠です」。

成功と失敗を分ける導入プロセスとマインドセット変革

 続いて、「プロジェクトの成功・失敗要因」について議論が行われた。

 山﨑氏は、AI活用は一度に大規模に進めるのではなく、段階的に導入することの重要性を指摘した。経理部門においては、議事録や教育資料、監査資料の作成など、"たたき台作成"の領域で生成AIが有効であるという。「いわゆる大規模な成功・失敗というより、まずは"できるところから始める"ことが現実的だと考えています。生成AIはたたき台作成に非常に有効で、特に後発事象のようにタイムリーな対応が求められる場面では大きな効果があります。一方で、"もっともらしい誤り"が含まれるため、そのまま使うことはできず、必ず裏付けが必要です。いかに早くたたき台を作り、最終的な品質を人が担保するか。このバランスが重要です」。

 さらに議論は、AI活用を進める上での意識の違いへと広がった。山﨑氏は次のように指摘する。「すべてを一気に進めるのは難しいと感じています。若手の方がAI活用やDXに対して関心が高く、柔軟に取り組めている印象です。一方で、シニア層はこれまでの成功体験がある分、従来のやり方に寄りがちな面もあります。だからこそ、立場に関わらず自ら手を動かし、新しい取り組みに踏み出すマインドを持つことが重要です」。

 三嶌氏は、AI活用の成否を分ける最大の要因としてデータ品質の重要性を挙げた。「成功というより失敗の方が分かりやすいのですが、一番の課題はデータの質です。古い規定や重複データが混ざっていると、そのままAIが学習してしまい精度が落ちます。人であれば判断できますが、データが整理されていないとAIは正しく判断できません。元データをどう整備するかが非常に重要です」。

 加藤氏は、AI導入における順序とマインドセット変革の重要性について言及した。「標準化→集中化→自動化→AI化の順で進めることが重要です。サイロ化したまま自動化しても全体最適にはつながりません。また、ツール導入よりも先にマインドを変える必要があります。実際に体験機会を設けて効果を実感してもらうことで、活用は進みました。ツールは完成形でなくてもよく、早い段階で触れてもらうことが重要です」。

 本テーマも議論は大いに盛り上がり、AI活用の成否は単なるツール導入ではなく、プロセス設計と人の意識変革の両面にかかっていることが共有された。

AI時代に求められる実務家スキルと役割の変化

 最後に、「AI時代の実務家スキル」について議論が行われた。

 山﨑氏は、AI時代においても基盤となるのは柔軟な発想力とコミュニケーション能力であると指摘した。経理部門は単なる数値管理にとどまらず、監査対応や経営への説明といった役割を担うため、各部門から正確な情報を引き出す力が不可欠であるという。「AIだから特別というより、重要なのは柔軟な発想とコミュニケーション能力だと考えています。経理部門は数値をまとめるだけでなく、監査対応や経営への説明も求められるため、各部門から正確な情報を引き出す力が不可欠です。そのうえで、AIを活用するには柔軟に考える力も重要であり、これらのスキルが今後ますます求められると感じています」。

 三嶌氏は、テクノロジーに適応した業務設計力、いわゆる"業務をデザインする力"の重要性に言及した。「今後はテクノロジーに合わせて業務を設計できるかが重要になります。これは人間にしかできない領域であり、従来の専門知識に加えて"業務をデザインする力"が求められます。経理部門は会社全体の仕組みを理解しているため、その知見を生かして他部門にも価値を発揮できる存在になっていくと考えています」。

 加藤氏は、AI時代における思考力と暗黙知の重要性について言及した。AIが答えを提示する環境では、考える力が弱まるリスクもあるという。「重要なのは"暗黙知"であり、これは人にしか蓄積できません。それを見極めるためには思考力が不可欠ですが、AIが答えを出してくれる環境では考える力が弱まる懸念もあります。そのため、あえてAIを使わない分析とAIを使った分析を組み合わせたトレーニングを行っています。さらにロールプレイを通じて、思考力とコミュニケーション力を鍛える機会を意図的に作ることが重要です」。

 モデレーターの石井氏も、求められるスキルの変化について言及した。「求められるスキルが変わることで、これまで関わりのなかった人との連携が増えていきます。そのため、対人スキルやコミュニケーション能力は今後ますます重要になると考えています」。

 最後に飯塚氏は、自身の実務経験を踏まえ、AI活用の広がりと人材側の成長の必要性について次のように語った。「私自身、Copilotを日常的に活用しており、壁打ちや調べものなどで大きく助けられています。また、会計・経理システムにもAI機能が組み込まれ、知らないうちに恩恵を受けている場面も増えています。一方で、こうした技術を使いこなすには人間側の成長も不可欠です。必要なスキルは企業ごとに異なるため、一度立ち止まって自社にとって何が必要かを見極めることが重要だと感じています」。

 AI活用の成否は、最終的には人と組織の在り方に委ねられていると言えるだろう。