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AI時代に進化する経理部門の役割とは何か 業務のすみ分けとAI活用から考える次世代ファイナンス戦略

 「次世代ファイナンス戦略×AI活用セミナー」において、アズビル株式会社 経理部 部長の山崎和久氏が「経理業務におけるAI活用の可能性と留意事項」と題した講演を行った。

 経営環境の変化を背景に、経理部門には、従来の記録中心の役割から、経営判断を支える情報提供機能への進化が求められている。本講演では、アウトソース、システム、自社経理の役割分担を軸にした業務設計の考え方を整理するとともに、AI活用の可能性とリスク、そして次世代経理の姿について実務の視点から解説した。

アズビル株式会社 経理部 部長の山崎和久氏

VUCA時代に求められる経理部門の役割変化

 アズビルグループは1906年創業で、計測と制御の技術を基盤として、ビルディングオートメーション事業、アドバンスオートメーション事業、ライフオートメーション事業を展開している。

 山崎氏はまず、企業を取り巻く経営環境が大きく変化していることを背景に、経理部門の役割も転換期を迎えていると指摘した。変動性・不確実性・複雑性・曖昧性が高まるVUCA時代においては、企業の意思決定に必要な情報をいかに迅速かつ正確に提供できるかが重要になると説明。「経営環境は急速に変化しており、経理部門も従来のように、過去を正確に記録する役割だけでは不十分になっていると感じています」と山崎氏は語った。

 これまでの経理部門は、取引を正確に記録し、決算を適切にまとめることが主な役割であった。しかし現在では、それだけでは企業経営を支えるには十分ではない。

 そのためには経理業務の全体像を整理し、どの業務を誰が担うべきかを明確にすることが重要になる。山崎氏は、経理業務の構造を見直し、アウトソースやシステム、そして自社経理部門の役割を適切に分担することが、次世代の経理部門を実現するための出発点になると説明した。

 こうした業務構造の再設計によって、定型業務の効率化と高度な判断業務への集中を同時に実現できるという。

経理業務の全体設計と役割のすみ分け

 山崎氏は次に、経理部門の価値を高めるためには、業務の構造そのものを整理する必要があると説明した。経理業務は、仕訳入力や経費精算といった日常業務から、決算、開示、監査対応、さらには非定常取引の会計判断まで幅広い領域に及ぶ。こうした業務をすべて自社の経理部門だけで担うことは、コストや人材の面から見ても現実的ではないという。山崎氏は「すべてを自社の経理部門だけで抱え込むのは現実的ではなくなってきています」と語った。

 そこで同社では、経理業務をその性質に応じて3つの領域に整理している。第一がアウトソース、第二がシステム対応、そして第三が自社経理部員である。

経理業務を3つの領域に整理

 アウトソースでは、経費精算や振替仕訳といった定型業務や、開示データ作成など専門性の高い作業を外部に委託することで、コストを抑えながら効率的に業務を進める。一方、システム対応では連結システムなどを活用し、データ連携の自動化によって転記ミスの削減や決算業務の迅速化を図る。そして自社経理部門は、判断や分析、説明責任を伴う中核業務を担う役割を果たす。

 山崎氏はこの考え方を、「作業は外へ、判断は中へ」という言葉で表現する。定型業務はアウトソースやシステムに任せ、自社の経理人材は判断や分析といった付加価値の高い業務に集中することで、経理部門全体の価値を高めることができるという。

システム化と自社経理が担う中核業務

 そして、経理業務のすみ分けを進めるうえで重要な役割を果たすのが、システムの活用である。山崎氏は、経理におけるシステムは単なる効率化ツールではなく、内部統制や決算品質を支える基盤であると説明した。

 例えば連結決算では、海外子会社を含む各拠点の入力データを自動的に連携させることで、手作業による転記ミスを削減し、決算の早期化につなげることができる。また中間DBを活用した仮決算の仕組みによって、制度上、決算期を変更できない海外拠点がある場合でも、連結決算に必要な数値を迅速に把握できるようになると説明した。

 山崎氏は、「経理業務におけるシステム活用は、単なる効率化にとどまらず、内部統制や決算品質を支える基盤として重要な役割を果たしています」と強調した。

 さらに同社では、新しいリース会計制度への対応に向けて専用システムの導入も進めており、制度対応と実務負担の軽減を両立する取り組みを進めている。こうしたシステム導入では、ツールそのものを目的化するのではなく、どの業務の質を高めたいのかを明確にしたうえで設計・運用することが重要になるという。

 しかし、どれだけシステム化やアウトソースを進めても、企業の経理部門にしか担えない業務が存在する。

 具体的には、単体・連結決算の精算表の締め上げによる数値の整合性の担保、事業部門や子会社からの会計問い合わせへの対応、非定常取引の会計処理の検討などが挙げられる。また、過年度や四半期の趨勢分析、予算実績の分析といった財務分析も、経営に示唆を提供する重要な役割である。

 さらに、棚卸し資産の評価や引当金などの会計上の見積もり、法定開示、監査法人との協議や監査対応などについても、最終的な責任は自社の経理部門が負うことになる。こうした業務には、高度な専門性と企業内部の事情への深い理解が不可欠であり、まさに経理人材の価値が発揮される領域である。

自社経理部員が担うべき中核業務

 山崎氏は、定型業務を効率化することで、経理人材がこうした付加価値の高い業務に集中できる環境を整えることが重要であると強調した。こうした基盤が整ってこそ、次の段階としてAI活用を本格的に検討できるようになる。

AI活用の可能性と留意点、そして次世代経理へ

 次に、経理業務におけるAI活用の可能性とその留意点が示された。AIの進化によって業務効率化や生産性向上が期待される一方、経理業務特有のリスクにも十分な注意が必要になるという。「AIの進化によって経理業務への活用可能性は大きく広がっていますが、無条件に導入すればよいわけではありません」と山崎氏。

AIは無条件に導入すればよいわけではない

 特に重要なのが、情報セキュリティとデータの正確性である。経理データは企業の機密情報の塊であり、AI活用にあたっては情報漏えい対策が不可欠となる。またAIが誤情報を生成する「ハルシネーション」や、判断過程が不透明になるブラックボックス問題も、会計や監査対応の場面では無視できないリスクとなる。

 その一方で、適切に活用すればAIは経理業務の強力な支援ツールとなる。山崎氏は実務で効果が出やすい例として、会議の議事録作成、事業部門向けの会計教育資料の作成、監査対応における資料整理などを紹介した。AIを補助ツールとして活用することで、担当者はより付加価値の高い業務に時間を振り向けることができるようになるという。
 こうした点について、山崎氏は「AIは非常に強力なツールとなります。しかし忘れてはならないのは、AIはあくまで人間の判断を補完する存在であり、判断そのものを代替するものではないという点です」と語った。

 AIを正しく使いこなすことで、経理人材は単純作業から解放され、分析・判断・説明といった本質的な役割に集中できるようになる。その結果、経理部門はCFOやCEOの戦略的パートナーとして、企業価値向上に直接貢献する存在へと進化していく可能性がある。

 山崎氏は最後に、AI技術の進展は今後さらに加速していくとしたうえで、経理部門に求められる姿勢を次のようにまとめ、「AI技術の進展はこれからもさらに加速していくと考えています。だからこそ経理部門は変化を恐れず、常に学び、柔軟に対応していく姿勢が求められると思います」と締めくくった。

変化を恐れず常に学び柔軟に対応していく姿勢が求められる

 AIの可能性を生かしながら、そのリスクにも適切に向き合うこと。そうした取り組みの積み重ねが、次世代の経理部門を形作っていくのである。