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生成AI時代の経理財務部は「価値創出の中核」に――データ集約中枢としての役割転換を

次世代ファイナンス戦略×AI活用セミナー オープニング基調講演

 次世代ファイナンス戦略×AI活用セミナーのオープニング基調講演では、「生成AI時代 経営者の意思決定を支えるために いま、何が必要かを考える」をテーマに、ASIMOV ROBOTICS株式会社の藤森恵子氏が登壇した。DXが進まない要因を構造的にとらえ、生成AIを前提とした経営への転換と、それを支える経理財務部の役割について、実務と専門知見の双方から具体的に提示した講演内容をレポートする。

ASIMOV ROBOTICS株式会社 代表取締役CEO / CTO 公認会計士・税理士 デジタル庁 有識者委員の藤森恵子氏

成果に結びつかない日本企業のDXと構造的課題の顕在化

 ASIMOV ROBOTICS 代表取締役の藤森恵子氏は、生成AI時代における経営者の意思決定支援をテーマに講演を行った。冒頭では、「現場目線、専門家目線、経営者目線の3つの視点からお話ししたいと思います」と語り、本講演の位置づけを示した。

 まず提示されたのは、日本企業におけるDXの現在地である。独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)の調査によれば、日本企業はDXへの取り組み自体は進んでいるものの、「成果が出ている」と回答した企業は6割未満にとどまり、米国やドイツと比較して約20ポイントの差があるなど、投資対効果が十分に得られていない実態が明らかになっている。

 藤森氏は、この背景にある要因として、「経営層のITリテラシー不足」「部門間の連携不足」「業務プロセスの見直しなきIT導入」という3つの構造的課題を挙げた。これらは個別の問題ではなく相互に関連しており、経営の関与が弱いまま部門ごとの最適化が進むことで、属人化やデータ分断を残したままシステム導入が行われる構造を生み出している。

経営の関与が弱いまま部門ごとの最適化が進んでいる

 さらに藤森氏は、「DX推進はIT部門の取り組みではなく、経営課題そのものである」と強調する。経済産業省のデジタルガバナンスコードでも示されているように、DXは企業価値向上のための戦略そのものであり、経営層が主体的に関与することが不可欠である。単なるIT導入にとどまらない、意思決定の在り方や組織構造そのものを見直す取り組みが求められている。

生成AI活用を阻む構造課題とAI-Ready実現に向けた土台整備

 前段で示された構造的課題は、生成AIの活用においても大きな障壁となる。藤森氏は、「技術革新は加速度的に進む中で、正解は一つではありません」と述べ、ツール導入ありきの発想ではなく、前提となる業務やデータの整備が重要であると指摘した。

 生成AIは、従来のAIと異なり、汎用的な知識をもとに多様なアウトプットを生成できるが、その価値を企業活動に結びつけるためには、自社データとの連携が不可欠である。「生成AIが学習している世界のデータはごく一部であり、自社の価値を生み出すには社内データの活用が重要です」と藤森氏は語る。

 またAI活用は、人がAIを操作する段階から、AIをマネジメントする段階へと移行しつつある。AIエージェントの活用により、複数のシステムからデータを自動取得・分析し、設備投資や生産計画などの意思決定を支援する仕組みも現実的になりつつある。しかし、その前提となるのは、データが分断されず、また業務プロセスが標準化されていることである。

AIエージェントの活用により、人がAIを指揮する時代に

 さらに藤森氏は、「テクノロジーは魔法のつえではありません」と強調する。生成AIはアナログデータ処理や定型業務、厳密なチェックを苦手とするため、AI-OCRやRPAなどほかのツールと組み合わせた業務設計が不可欠となる。

 このように、生成AIを組織的に活用するためには、データ整備、業務標準化、システム連携といった“土台”を構築し、AIを前提とした経営へと段階的に移行していく視点が求められる。

経理財務部の役割転換と生成AI時代における価値創出の中核化

 生成AIの普及により、企業の意思決定の在り方そのものが変わろうとしている。その中で経理財務部は、従来の「過去の数値を記録する部門」から、意思決定を支える中枢へと役割の転換を迫られている。

 藤森氏は、「経理財務部は企業活動のデータが集まる終着点です」と語る。売上やコストといった財務情報に加え、購買、製造、物流、人事など、あらゆるデータが最終的に集約されるこの部門は、全社の状況を横断的に把握できる重要なポジションにあるといえる。

経理財務部は、全社の状況を横断的に把握できる重要なポジション

 生成AIの活用は、この構造に大きな変化をもたらす。分散していたデータを横断的に分析し、要因分析や将来予測を行うことで、「何が起きたか」だけでなく「なぜ起きたのか」「次に何が起こるのか」までを示すことが可能になる。経理財務部は単なる報告部門ではなく、意思決定に直接関与する機能へと進化するのである。

 しかし、その価値を発揮するためには、従来の評価軸のままでは不十分である。従来はコストセンターとしてとらえられることも多かった経理財務部だが、藤森氏は、「人件費削減だけでなく、売上向上や顧客満足度、離職率低下といった多軸での効果をとらえる必要があります」と指摘する。つまり、DXや生成AIの本質はコスト削減ではなく、競争力や生産性、意思決定の質を高めることにあるのだ。しかし、評価軸を変えない限り、DXは本質的な成果に結びつかない。

 部分最適ではなく全体最適の視点で業務を再設計し、データ活用を前提とした経営基盤を構築することにより、経理財務部は「守りの部門」から「価値創出の中核」へと転換する。この変化は単なる役割の拡張にとどまらず、企業の意思決定構造そのものの再設計を意味する。

 藤森氏は、「AI時代に競争力を持つ企業は『AIを導入した企業』ではなく『AIを前提に経営を変えた企業』です」と強調した。そして、その変革を実現できるかどうかは、経理財務部がデータ集約中枢としての役割を果たし、意思決定にどこまで踏み込めるかにかかっているのである。

業務可視化と課題抽出から始めるAI-Ready実現への実行プロセス

 生成AIを組織的に活用するための第一歩として藤森氏が強調したのが、業務可視化と課題抽出である。どれほど高度なAIを導入しても、業務プロセスが整理されていなければ、その効果は限定的にとどまる。

 藤森氏は具体的な手法として、短時間のヒアリングを通じて全社の業務フローとデータの流れを整理するアプローチを紹介した。営業、製造、物流、バックオフィスといった部門を横断し、誰が見ても理解できる形で業務フローを可視化することで、現状の課題を明確にすることができる。

『業務の流れ』『データの流れ』を整理し、業務を可視化・課題を抽出する

 このプロセスにおいて重要なのは、部分最適ではなく全体最適の視点で業務をとらえることである。「経理財務部に集まるデータは、業務プロセスが正しく設計・運用された結果です」という言葉が示すとおり、データの質は業務設計に依存している。

 そして、可視化によって抽出された課題に対しては、業務標準化、データ整備、システム連携の強化といった施策を段階的に実行していく必要がある。単なるツール導入ではなく、業務とデータの構造そのものを見直すことが求められるのだ。

 こうした取り組みを通じて実現されるのが「AI-Ready」な企業である。すなわち、データが整備され、部門を横断して連携し、継続的に更新される環境が整った状態であり、生成AIを業務に組み込むための前提条件が満たされた組織である。

 藤森氏は講演を通じて、生成AI活用の本質は単なる効率化ではなく、意思決定の質を高めることにあると強調した。その実現に向けた出発点こそが、業務可視化と課題抽出なのである。