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AIエージェントをPoCから実用環境へ移行するために必要なものとは?

AWS re:Invent 2025基調講演レポート

 12月1日~12月5日(現地時間)に、クラウドサービス事業者AWS(Amazon Web Services)の年次イベント「re:Invent 2025」が、米国ラスベガス市にあるThe Venetian Expoなどの会場で行われている。12月3日午前(現地時間)には、AWS エージェンティックAI担当副社長 スワミ・シヴァスブラマニアン氏により、AI関連の基調講演が行われた。

 この中でシヴァスブラマニアン氏は、現状、AIエージェントは多くの企業で PoC(Proof of Concept、概念実証。コンセプトが実現可能か検証すること)までは行くものの、実利用環境に移行できていない現状を指摘。そうした課題を解決するために、同社は「Amazon Bedrock AgentCore」などのツールを提供していると強調した。

AWS エージェンティックAI担当副社長 スワミ・シヴァスブラマニアン氏

CEO基調講演では多くのAIソリューションや、フロンティア・エージェントなどの新しい提案を紹介

 AWSのAIソリューションは、主にEC2の形でIaaSとして提供されているGPUやASICによる学習および推論向けの演算リソース、そしてBedrockやAIエージェントなどのマネージドサービスやSaaS(Software as a Service)として提供されるソフトウェアサービス、という大きく分けて2種類のAIソリューションがある。

 NVIDIA GPUやTrainiumなどのEC2インスタンスに関する発表は、主にマット・ガーマンCEOの基調講演の中で行われ、NVIDIA GPUのEC2インスタンスとしてP6e GB300が追加されたことが発表された。また、AI向けASICとしては新たにTrainium3の一般提供開始が発表されたほか、Trainium3を搭載したインスタンス「Trn3 UltraServer」なども発表された。こちらもすでに一般提供が開始されている。

AWS CEO マット・ガーマン氏

 ガーマンCEOの基調講演では同時に、SaaSの形で提供されているAIの開発・実行環境「Amazon Bedrock」、そして本年6月に発表したAIエージェント作成・管理ツール「Amazon Bedrock AgentCore」などで新たに利用できるツールなどが発表された。

 Bedrock向けには、新しいサードパーティAIモデルや、自社AIモデルの第2世代「Amazon Nova 2」ファミリーのNova 2 Lite、Nova 2 Pro、Nova 2 Sonic Nova 2 Omniといった新しいモデルが追加された。また、Nova Forgeは、自社でカスタム学習させたモデルを構築する際に利用できるAIモデルとして提供される。

 さらに今回は、同社が「フロンティア・エージェント」と呼んでいる、エージェンティックAIの強化版のような位置付けになるAIエージェントも発表された。人によって定義が違う場合もあるが、エージェンティックAIは一般的に、コンテキストを理解して自律的に動作するAIエージェントといわれている。

 フロンティア・エージェントはそうしたエージェンティックAIに、

1)より自律的に動作できること
2)複数のタスクを同時に実行し、分散して作業を行える拡張性
3)人間の介入を必要とせずに動き続けられること

など、AWSがエージェンティックAIに本当に必要な要素と考える3つの要素を持たせたエージェンティックAIのカテゴリーだと、説明が行われている。

 イメージとしては、エージェンティックAIのさらに強力な機能を持つものがフロンティア・エージェントだと考えることができるだろう。

フロンティア・エージェント

 今回AWSはそうしたフロンティア・エージェントとして、Kiro Autonomous Agent、AWS Security Agent、AWS DevOps Agentという3つのエージェントを発表しており、それらを企業が活用することで、効率やビジネスプロセスを改善できると強調した。

Kiro Autonomous Agent、AWS Security Agent、AWS DevOps Agent

Bedrock AgentCoreを提供、多くの企業でPoC止まりのAIエージェントを実利用環境に進める

 そうしたガーマンCEOの基調講演でも、AI向けのソリューションがかなり発表されたため、シヴァスブラマニアン氏の基調講演は、新製品の発表だけではなく、どのように考えてAIエージェントを構築すればいいかなど、哲学的な話も多い講演となった。

 冒頭でシヴァスブラマニアン氏は「昔PCでプログラミングを始めた時、何かが実現できると楽しかったことを覚えている。今、AIもそういう状況を作り出しており、バイブ・コーディング(AIが人に代わってコードを書いてくれること)を使えば、自然言語でAIに指示を出すだけで、簡単にプログラムやAIエージェントを構築できる」と述べ、AIによりプログラミング環境も大きく変わりつつあり、初期のPCが世界を変えたのと同じようなことが今起きているのだと強調した。

 次いで、AIエージェントについて触れ、「AIエージェントとはAIを活用してユーザーの入力などを洞察し計画し、行動に移し、人間やほかのシステムに代わってタスクを行う自律的なソフトウェアだ。そうしたエージェントは、モデル、コード、ツールという3つのコンポーネントから構成されており、これらを強調させて利用することが重要だ」と述べる。

 AIエージェントを構築するには、1つには正しいAIモデルを構築し、エージェントを正しく定義できるようなコードを用意し、そうして構築したAIエージェントが外部のデータベースなどにアクセスできるようにする正しいツールを選択することが必要だとした。

AIエージェントの定義
モデル、コード、ツールという3つの要素

 また、せっかくAIエージェントを作ってみても、PoC段階まではたどり着くものの、実用環境には移行できない場合が多いと指摘。「実利用環境に移行するには、予想以上のユーザーに対応できるように伸縮性を確保しておくこと、そうした外部サービスとの連携性や、ガードレールなどの安全性の確保などを実現する必要がある」と説明。それらを実現するためにAmazon Bedrock AgentCoreを開発し、PoCから実利用環境への移行を支援しているのだと強調した。

そのPoCからの卒業…

 あわせて、AIエージェントをより便利なものにするためには、短期記憶だけでなく、長期記憶をAIが学習に利用して、ユーザーのコンテキストを理解して応答できるようにする必要があるとも指摘した。

AIエージェントを実現するためにStrands Agents SDKの拡張やAgentCoreの拡張を明らかに

 シヴァスブラマニアン氏は、この前日に行われたガーマンCEOの基調講演では発表されなかった、あるいは触れられなかった新機能などに関して説明を行った。

 Pythonベースのオープンソース AIエージェントフレームワークとなるStrands Agents SDKには、TypeScript サポートとエッジデバイス対応の追加が発表された。これにより、TypeScriptを利用した開発や、エッジデバイスへのAIエージェント導入が可能になる。ほかにも、Strands steering、Strands evaluationsなどの開発を容易にするツールが追加された。

Stands Agents SDKに新機能が追加された

 「AgentCore Memory episodic functionality」は、ユーザーとAIチャットボットの会話のコンテキストを保存し、過去の対話や複数の対話におけるコンテキストに基づいた応答を実現するもの。また「Amazon Bedrock Reinforcement Fine-tuning」は、強化学習(Reinforcement Learning)時にモデルカスタマイズの自由度を向上させる。

AgentCore Memory episodic functionality
Amazon BedrockReinforcement Fine-tuning

 このほか、Amazon SageMaker AIの新しいカスタマイズ機能、SageMaker HyperPod の新しいトレーニング手法、Amazon Nova Actなど、AIエージェントを実現する新機能が発表された。

Amazon SageMaker AI の新しいカスタマイズ機能
SageMaker HyperPod の新しいトレーニング手法
Amazon Nova Act