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「Red Hat買収はお客さまのため」―――IBMのロメッティCEOがアピール
2018年11月8日 12:39
11月7日、日本アイ・ビー・エム株式会社(日本IBM)は経営者向けイベント「Think Leadership」を開催。米本社の会長・社長兼CEO ジニー・ロメッティ氏が登壇し、「経営者の挑戦」をテーマに講演を行った。
IBMは10月29日(米国時間)、Red Hatを約3.7兆円で買収することを発表したばかり。ロメッティCEOは講演の冒頭でこの点について触れ、「ご存じのようにIBMはRed Hat買収を発表した。なぜ、こうした投資を続けるのか? それは会場にいる皆さんがあるからこそ」と会場の参加者に呼びかけた。
さらに、「日本市場に対し、ますます投資を進めている。今週も新しい投資発表を行い、IBM Cloudのアベイラビリティゾーンを最初に東京に開設し、今後は大阪にも開設する。また、慶応大学と『Quantum Lab』を開設し、初めて産学連携スタイルで研究を進めていく」と、日本に注力している姿勢を強調した。
Think Leadershipは、ビジネス革新のあり方や、先進技術の活用による新たなビジネスの創造について考察する、企業経営者のためのイベント。会場には、IBMユーザーである大企業の経営者が並んだ。
ロメッティCEOはそうした来場者に向けて、「皆さんは、デジタルジャーニーといったタイトルが付いたさまざまな会議に出席されることが多いだろう。しかし、これからの成長はこれまで考えていたものとは全く違うものとなる」と呼びかけた。
データの重要性はあらゆるところでアピールされているが、「実は、検索できるデータは全データの20%しかない。残りの80%は政府や企業が持っている。企業の皆さまは、誰よりも早くデータを使った学習をすることで、ライバルをしのぐ革新的な企業になることができる。そしてわれわれはそのためのお手伝いをしたい」と話した。
また、企業が優位性を持った立場となっていくためのポイントとして、1)成長の源泉となるデータ、2)企業が持つ専門性、3)信頼性、といった3つを挙げた。
1)のデータに対しては、「3年前にこうしてお話をした時、データこそ最も重要な企業が成長する天然資源となる、と申し上げた。さらに申し上げたいのは、データには信頼性が必要になるということ」と切り出す。
そして、「今回、いろいろな方とお話ししたが、AIについてさまざまなプロジェクトが進められている。Watson関連の案件数は1年前には200件だったが、1年たってそれが600件になっている。例えばJALではバーチャルアシスタントを提供し、旅のアドバイスを行っている。みずほ銀行のコールセンターでは、複雑な質問にAIが答える実験を行っている。こうした実験は、とりまとめてプラットフォーム化し、拡張可能な状態にする必要がある。データがあるだけではだめで、それをどう使うのか考える必要がある」と、データを継続的に活用するための戦略が必要だと話した。
これはIBM自身がさまざまなプロジェクトを行った経験から得たものだそうで、「プロダクトやサービス以上に、専門性とエクスペリエンスが必要。例を挙げると、保険会社にとって専門性とは保険商品に関する知識ではなく、リスク管理になるのではないか。レンタル自動車の専門性とは、レンタル管理ではなく、自動車の管理ではないだろうか。この専門性が、次のビジネスにつながる鍵となる」と、2)の専門性について重要性を強調した。
IBM自身も、「私たちに対しても期待されているのは専門性。それを考えた上で共創していきたい。例えばデータを集めるにあたっても、リアルタイムでの予測、検知といった、テクノロジーと組み合わせた専門性によって実現するものを提供していかなければならない」とし、専門性があるからこそ顧客から支持されていると考えているとする。
また、この下支えとなるのが3)の信頼性とセキュリティであることも強調。「信頼とは時間をかけて構築するものなのに、ごくわずかな企業の誤りによって、データにおける信頼性が揺らいでしまった。IBMではセキュリティ、信頼、プライバシーが重要だと考え、どんなポリシーを持っているのかを公表することとした」と話す。
さらに、「テクノロジーの目的は、人の補完、強化をするものだと決めた。テクノロジーは作る側にとって善にも、悪にもなり得る。私たちは人を補完するためにテクノロジーを活用する。データ、AIが集めたものは、作った人に所有権がある。われわれとお客さまが競合することはない。例えば、AIのようなテクノロジーに信頼を寄せるためには、説明がきちんと行われなければならない。自分の健康に対して問いかけた際、その根拠は何なのかを知りたいはず。信頼と透明性が必要」だと強調。この信頼を実現するためのテクノロジーとして、ブロックチェーンを挙げた。
「信頼と透明性をもたらすテクノロジーだ。この会場にいる皆さんに、実験をどれくらいやっていますか?と聞いて回りたいくらいだが、IBM自身は1000件くらいの実験を行っている。例えばスーパーのチェーン、食品メーカー間をトレースできる仕組みとなる実験を行っている。これが将来の透明性を実現するものとなると考えられる」(ロメッティCEO)。
なお講演の後半では、資生堂の代表取締役社長兼CEOである魚谷雅彦氏も登壇した。魚谷氏は資生堂の歴史の中で初めて、外部から招かれて社長となった人物で、「実は私にとっての先生は、日本IBMのかつての社長であった椎名さん(椎名武雄氏)だった」と、IBMとは個人的にも縁があることを紹介した。
対談の中で魚谷氏は、重要な要素のひとつとして人材を挙げたが、ロメッティCEOは、「かつてはIBMでも専門性を採用の際の重要な点としていたが、最近では専門性よりも好奇心を重視するようになった。テクノロジーは進化が早く、その時には必要な専門性を持っていても、5年後には陳腐化することもある。好奇心を持っていれば、こうした変化に対応することができる」とし、テクノロジー企業で人材を確保する秘訣(ひけつ)を明らかにした。