仮想化道場
IDF北京から、2013年のIntelサーバープロセッサのロードマップを見る
(2013/4/30 06:00)
先日、中国の北京で開催されたIDF 北京 2013では、昨年サンフランシスコで開催されたIDF サンフランシスコ 2012での発表をベースにして、2013年にリリースされるサーバープロセッサの詳細が語られた。今回は、IDF 北京 2013の資料を基に、2013年のサーバープロセッサに関して解説していこう。
2013年後半にはXeon E5の新プロセッサがリリース
昨年の春に発表されたXeon E5シリーズは、デスクトッププロセッサのSandy Bridge世代、つまり第2世代のCoreプロセッサをベースとしてサーバー向けに拡張したものだ。世代から考えれば、リリースされた時点で、デスクトッププロセッサと比べて一世代古いものとなっていた。
2013年は、デスクトップ用に昨年発表されたIvy Bridge世代(第3世代 Coreプロセッサ)のXeon E5シリーズがリリースされる。Ivy Bridge世代のプロセッサの大きな特徴は、製造プロセスが32nmから22nmへと微細化している点だろう。
特に22nmプロセスでは、トランジスタに3D構造のトライゲートという仕組みを採用することで、Sandy Bridge世代よりも低消費電力化を果たし、さらにトランジスタのスピード向上にも寄与している。Xeon E5において製造プロセスの微細化は、コア数の増加とキャッシュメモリの増加をもたらしている。
今回のIDFでは、はっきりとした仕様に関しての発表はなかったが、Ivy Bridge世代のXeon E5では、最大12コア/24スレッドをサポートすると予想されている。またXeon E5シリーズは、デスクトッププロセッサで搭載されているGPUブロックを削除し、その分コアやキャッシュメモリを増やしているので、内蔵キャッシュメモリに関しては最大30MBになるようだ。サポートされるメインメモリもDDR3-1866にまで拡大されるだろう。
なおIvy Bridge世代のデスクトッププロセッサでは、CPUコアのアーキテクチャの改良が一部行われているが、改良のほとんどはGPU部分に集中していた。このため、CPU性能に関しては、Sandy Bridge世代のXeon E5とあまり変わらないかもしれない。ただ、低消費電力化が行われるため、同じ消費電力で、より高いクロック数で動作でき、全体としてはパフォーマンスがアップしていくだろう。
またIvy Bridgeコアでは、Intel Secure Keyという高速なデジタル乱数発生器がハードウェアロジックで追加された。この機能を使えば暗号化処理が高速に行えることになる。加えて、ユーザーモードで動作すべきプログラムがスーパーバイザーモードで動作しないよう、ハードウェアレベルで監視するIntel OS Guard(Supervisor Mode Execution Protection)が用意されている。Intel OS GuardをOSやハイパーバイザーがサポートすれば、ウイルスがOSやハイパーバイザーに侵入してシステムを破壊することもなくなる。
ラインアップについては、今回のIDFでは公表されなかった。しかし、Ivy Bridge世代とSandy Bridge世代がソケット互換ということを考えれば、2ソケットのXeon E5 2600シリーズ、4ソケットのXeon E5 4600シリーズ、エントリー向けの2ソケット Xeon E5 2400シリーズといった現行製品の後継がそれぞれリリースされることになるだろう。
ちなみに製品名に関しては、Ivy Bridge世代のXeon E5は、各モデル名の最後にv2が付くと予想されている。つまり、Ivy Bridge世代Xeon E5の2600シリーズは、Xeon E5 2600v2ファミリーという名称になる。
すべてのモデルが同時期にリリースされるかどうかは不明だが、年末までにはリリースされるだろう。筆者は、メインストリームのXeon E5 2600シリーズが最初に発売されると予測している。具体的なリリース時期に関しては、秋ごろと見ている。9月にIDFサンフランシスコが開催されるため、ここで正式発表になるかもしれない。
世代が2つ進むXeon E7シリーズ
今年のXeonプロセッサとして注目が集まるのが、Xeon E7シリーズの一新だろう。現在発売されているXeon E7シリーズは、Sandy Bridge世代よりももう一世代古いWestmere世代(製造プロセスは32nm)が使われている。
このため、大規模なサーバーシステムはアーキテクチャが古いプロセッサを利用するしかなかった。時代遅れとも言えるため、最近はXeon E7を使った最新サーバーはあまり発売されておらず、Xeon E7シリーズも最新世代へのアップデートが待ち望まれていた。
2013年末ごろにリリースされる新たなXeon E7シリーズは、開発コード名のIvy Bridge-EXが表すように、サーバープロセッサにとっての最新CPUアーキテクチャを採用したものになる。
Ivy Bridge世代のXeon E7シリーズは、最大15コア/30スレッド、内蔵キャッシュメモリは40MBほどになると予想されている。機能としては、Ivy Bridge世代で採用されたIntel Secure Key、Intel OS Guardなどが搭載されている。
なによりも注目されるのは、Westmere世代から2世代進化したCPUアーキテクチャと製造プロセスが採用されるため、15コア/30スレッドというパワフルなプロセッサでありながら、現状のXeon E7シリーズよりも低消費電力化が果たされていることだろう。
仮想化機能に関しても、Sandy Bridge世代において性能がアップしているため、Ivy Bridge世代のXeon E7シリーズでも高い性能を示すと思われる。
なおXeon E7シリーズでは、メインメモリのインターフェイスがXeon E5シリーズとは異なっている。プロセッサからは、メモリ専用のシリアルインターフェイスSMI(Scalable Memory Interface)が出力されており、SMIにシリアル/パラレル変換のSMB(Scalable Memory Buffer)チップが接続している。メインメモリのDDR3メモリは、このSMBに接続され、最大24枚のDDR3メモリが搭載できる。
Xeon E7の特徴は、4プロセッサ以上のサーバーシステムを構築できる点だが、基幹システムなどに適用されることが多いため、高い可用性が必要になる。この点では、RAS(Reliability、Availability、Serviceability:信頼性、可用性、保守性)機能により、ハードウェアにトラブルが起こっても、OSと連携してパフォーマンスを落としても、システムをダウンさせない仕組みも搭載されている。
1ソケット向けのサーバープロセッサは一足先にHaswell世代へ
Xeon E7/E5よりも一足先に最新型が提供されるのが、1ソケット向けのXeon E3シリーズだ。Xeon E3シリーズは、デスクトップ向けのHaswell世代のプロセッサとほとんど同じものが提供されるため、6月ごろに発表されるデスクトップ向けのHaswell世代のプロセッサとほとんど同じタイミングか、数週間遅れて発表されるだろう。
Haswell世代プロセッサは、Ivy Bridge世代と同じく22nmの製造プロセスだが、より省電力化を図っている。CPUコア部分では、256ビット演算のAVX(Advanced Vector Extension)にいくつかの命令が追加され、AVX2に進化をしている。さらに、インデックス&ハッシング、暗号化、エンディアンコンバージョンなどの命令が追加される。
またHaswell世代のプロセッサではGPUブロックの機能強化も果たされているため、外付けグラフィックカードを使用しないXeon E3搭載のワークステーションも発売されるかもしれない。
Haswell世代での大きな機能追加が、仮想化機能の強化とIntel TSX(Transactional Synchronization Extensions)機能の追加だ。
まず仮想化(VT-x)において、Guest/Hostの遷移時間が短くなっている。頻繁にGuest/Hostを行き来する仮想環境においては、大幅な性能向上が期待できるだろう。また、EPT(Extended Page Table)にも手が入り、キャッシュを無効化するvmexitを起こりにくくしている。さらに、vmexitなしにハイパーコールを可能にするVMFUNC命令が追加されている。
こういった機能強化において、Ivy Bridge世代やSandy Bridge世代のプロセッサよりも、仮想環境での性能が向上しているが、Haswell世代の仮想化機能を十分に生かすためには、OSやハイパーバイザー側でもHaswell世代への対応が必要になる。このため、6月にリリースされてすぐ、仮想環境の性能が劇的に向上するとは思えない。OSやハイパーバイザーの対応は、年末ぐらいまでかかるだろう。
一方のIntel TSXは、データベースなどで使われているトランザクションメモリ機能をプロセッサ上の命令としてサポートしたものだ。つまり、特定のメモリデータだけをスレッドがロックして、データ全体をロックしないようにするトランザクションメモリ機能が、ハードウェアでインプリメントされる。
Intel TSXを利用すれば、データベースだけでなく多くの企業向けのアプリケーションで相当パフォーマンスがアップするだろう。ただしこちらも、Intel TSXに対応したアプリケーションがリリースされないとメリットは享受できない。
なおこの世代では、プロセッサに周辺チップを統合したSoCも計画されているようだ。SoC化することで、システム全体としては相当低消費電力化が行える。将来的には、Haswell世代のSoCを使ったMicroServerなどのサーバー製品も考えられるだろう。
ちなみに、Haswell世代のXeon E5/E7は、2014年後半のリリースとなる。
第2世代のサーバー向けAtomプロセッサ
昨年年末に発表されたサーバー向けのAtomプロセッサも、2013年後半には第2世代へと進化する。Avotonというコード名で開発されている第2世代サーバー向けAtomプロセッサは、22nmで製造され、CPUコア数は最大8コア/16スレッドと、現在のAtom S1200シリーズと比べて増える予定だ。
Avotonには、次世代のAtomプロセッサで採用されるSilvermontというコアが採用されている。Silvermontは、現状のAtomプロセッサよりも性能を向上させながら、消費電力を抑えている。さらに、SoC化を行うことで、システム全体の電力を抑えている。
また、Avotonをネットワーク機器向けにチューニングしたRangeley(開発コード名)が用意される。Rangeleyでは、ネットワーク機能を強化したり、暗号化機能をハードウェアで搭載したり、といった改善が行われる。なお、Atom S1200ではストレージ向けのAtom S1209がリリースされているため、Avoton世代でもストレージ向けのプロセッサがリリースされると予想されている。
2013年のIntelのサーバープロセッサのラインアップを見ていると、劇的なCPUコアの性能アップというよりも、低消費電力化に重きが置かれている。開発のベースとなるデスクトップ向けプロセッサが低消費電力化がメインテーマとなっているが、サーバーにおいても低消費電力化は大きな問題だ。
新しいサーバーシステムに入れ替えて電源が足りなったとしても、新たなデータセンターを新設するといったことは、現状の経済環境では行いにくい。また、日本国内においては、東日本大震災以降、省エネといったことが大きなテーマになっている。
このようなことを考えれば、現状の電力容量で、さらに多くのサーバーを設置できるHaswell世代やIvy Bridge世代のプロセッサは魅力を感じるだろう。
また、先日発表されたHPのMoonshotサーバーなどに第2世代であるAvotonを採用したり、SoC化したHaswellプロセッサが使われたりしてくれば、現在よりも高いサーバー性能を示すだろう。
数世代前のサーバーを運用し続けている企業は多いが、ランニングコストを考えれば数年で新しいサーバーなら元が取れるようになる。今後は、サーバーの新規導入コストだけでなく、数年間にわたる管理、運用、電力コストを考えてサーバーのリプレイスを考えるべきだろう。