バッファローのエンタープライズ向けNAS「TS7000シリーズ」を試す
6月にバッファローの企業向けのストレージ TeraStation7000(以下、TS7000)とTeraStation5000(以下、TS5000)を発表した。バッファローは、年に1回ほど企業向けのストレージをアップデートしているが、今回は大幅なアップデートとなっており、読者からも注目を集めているので、これを紹介していこう。
バッファロー TeraStationの変遷。2005年に初代モデルが発売されて、2012年で5世代目となる | 2012年のTeraStationは、ハイエンドのTS7000シリーズ、SMB向けのTS5000シリーズ、SOHO向けのTeraStation Xの3種類の製品がリリースされている | TS7000シリーズ、TS5000シリーズの特徴。両モデルともにNASとiSCSIを同時に使用が可能になった |
■データセンターやプライベートクラウドに向けたTeraStation7000シリーズ
TS7000シリーズは、ラックマウントの2Uサイズに12台のHDDを搭載する大容量ストレージだ。今までのTeraStationは、ボックスタイプのTeraStation Proで最大8台のHDDを内蔵していたが、ラックマウントタイプでは、1Uサイズで4台のHDDを搭載する製品しかなかった。
このため、データセンターやプライベートクラウドでTeraStationを利用するには容量が不足していた。そこで3.5型HDDを12台搭載できるTS7000シリーズが製品化され、最大24TB(2TB HDD×12台)の大容量ストレージを実現している。
また、今までのTeraStationでは、コンシューマ用途のHDDを選別して搭載していたが、TS7000シリーズの上位モデル「TS-2RZH」では、信頼性が高いニアラインHDDを採用したモデルが用意されている。「バッファローのストレージをデータセンターや企業内のサーバールームで利用するには、HDDの信頼性に少し心配がある」と思っていたユーザーにとっても、十分に信頼できるストレージシステムだろう(インターフェイスとしては6Gbps SATAだが、ニアラインHDDは3Gbps SATAのタイプが使われている)。
電源ユニットは、リダンダント電源を採用することでシステムの信頼性をアップしている。2台の電源ユニットが搭載されているため、1台の電源ユニットにトラブルが起こっても、レバー1つで簡単に交換できる。これにより、長期間安定したシステム稼働を可能にしている。もちろん、HDDも簡単に交換可能だ。
TS7000シリーズはストレージの大容量化だけでなく、TS7000シリーズを利用するためのネットワークも、今までのTeraStationに比べると大幅に強化されている。Gigabit Ethernetを4ポートサポートしている。また、本体には拡張カードスロットが用意されているため、将来的には、10Gigabit Ethernet、USB 3.0などが利用できるようになる(標準ではUSB 2.0を4ポート搭載する)。
また、これだけ大容量のストレージシステムを高い性能で利用するためには、プロセッサやメモリなども高性能なモノが必要になる。今までのTeraStationでは、ARMプロセッサ、Intel Atomプロセッサなどが利用されていたが、TS7000シリーズでは大幅に性能が向上したIntelのサーバー向けプロセッサ、Xeon E3シリーズを採用している。
そのうち「TS-2RZH」に搭載されているXeon E3-1275は、Sandy Bridge世代のシングルソケットCPUだ。動作周波数は3.4GHz(ターボブースト時3.8GHz)で、4コア/8スレッドに対応。さらにメモリには、信頼性を高めたECC付きメモリが8GB搭載されている。
これだけの性能があれば、12台のHDDをRAID 6/61などで運用しても十分だ。また、10Gigabit Ethernetを接続しても十分な性能が出せるだろう。ここまでくると、ストレージというよりもサーバーに近いのかもしれない。
さらに、今までのバッファローのストレージシステムは、NASとiSCSIが製品としては異なっていたが、今回発表されたTS7000シリーズ/TS5000シリーズは、NASとiSCSIの両機能が同時にサポートされている。ストレージをNASとiSCSIのエリアに分けて、同時に利用できるので、効率よく利用可能だ。
ネットワークに関しては、NASとiSCSIで利用するポートは分かれていない。このため、パフォーマンスは落ちるが、1本のGigabit EthernetでNASとiSCSIを同時に利用することもできる。ただ、管理やパフォーマンスを考えれば、NASとiSCSIは別ネットワークにしておく方がよいだろう。
TS7000シリーズは、NASとiSCSI機能が同時に利用できるようになっている | TS7000シリーズは、他社のストレージと比べるとコストパフォーマンスに優れているため、データセンターなどのD2Dバックアップのストレージとして利用してもいい | TS7000シリーズの設定画面。旧来のTeraStationとほとんど変わらない画面だ |
■手軽だが高機能なTeraStation5000シリーズ
TS7000シリーズと同時に発表されたTS5000シリーズは、今までのTeraStationをベースに機能を向上させたものだ。
TS5000シリーズは、2/4/6/8ベイを搭載した4つのボックスタイプ筐体が用意されている。容量としては、8ベイ仕様のTS5800Dシリーズが最大32TB(4TB HDD×8台)となっている。1台のHDDの容量が大きいため、TS7000シリーズの容量を超えている。ただ、TS7000シリーズの方が、ニアラインHDDを採用したり、Xeonを採用するなど、信頼性や性能をより重視した設計になっている。
TS5000シリーズでは、Atom D2550(1.86GHz)が採用されている。このプロセッサは、メモリにDDR3 800/1066をサポートしており、一世代前のTeraStation ProがサポートしていたDDR2 667/800よりも性能が向上した。メモリ容量は、TS5000シリーズは2GBを搭載する。
インターフェイスはGigabit Ethernetが2ポート、USB 3.0が2ポート(USB 2.0/1.1も2ポート)となっている。残念なのはHDDインターフェイスだ。TS5000シリーズでは3Gbps SATAまでしかサポートしていない。今後6Gbps SATAがサポートされていれば、より性能が向上するだろう。
RAID機能に関しては、内蔵ドライブ数によってサポートレベルが異なる。HDDを8台内蔵しているTS5800Dは、RAID 6/61/60/5/51/50/10/1/0をサポートしている。一方、HDDを2台内蔵しているTS5200DはRAID1/0しかサポートしていない。
ストレージプロトコルは、TS7000シリーズと同じようにNASとiSCSI機能を同時にサポート。このほか、TeraStation Proと同じように、Active Directory連携、アンチウイルス機能、フェイルオーバー機能、クラウドストレージへのバックアップ機能なども搭載されている。
中でもTS5000シリーズの最大の特徴は、かんたんセットアップ機能とわかりやすい設定画面への変更だろう。
かんたんセットアップ機能は、TS5000シリーズを購入して初めて設定画面にアクセスした時に、パスワード変更やRAID設定、共用フォルダの設定(アクセス制限設定)、ドメイン連携を簡単に設定できる機能だ。詳細設定であっても、機能を整理して、簡単に設定できるようになっている。
なおTS7000シリーズにないTS5000シリーズの独自機能としては、監視カメラなどに利用されているIPカメラのデータの保存先として直接指定できる機能もある。長時間、安定的に動作するTeraStationを使えば、24時間365日動作している監視カメラの映像を保存することができる。オプションライセンスを購入すれば最大10台までのIPカメラを直接接続できる(1台目のIPカメラライセンスは本体に付属)。
TS5000シリーズでは、新しいかんたん設定というUIが用意されている。簡単でわかりやすくなっている | IPカメラのストレージとして直接接続可能。10台までのIPカメラを接続できる。 | USBメモリに設定を保存することで、USBメモリから複数のTeraStationの設定が簡単に行える |
■TS7000/TS5000シリーズを試す
今回は、バッファローからニアラインHDDを搭載したTS-2RZH(TS7000シリーズ)とHDDを4台内蔵しているTS5400D(TS5000シリーズ)をお借りした。
TS-2RZHのケースのふたを開けてみると、中はサーバーを見ているような印象だ。CPUのそばには、ファンからのエアーを効率よく送るカバー、高い効率を持つファンが3基搭載されている。しっかりと冷却できるが、オフィスにそのままおくには、ちょっとファンの音がうるさい。やはり、サーバールームなどに設置する方が良さそうだ。
2Uのケースの1/3はHDDユニットが占めている。持ち上げると、前部が重いため、持ち上げるときには注意が必要だ。
TS-2RZHのマザーボードユニットは、mini-ITXぐらいの大きさだった。マザーボードユニットは、CPUが大きな部分を占めるが、メモリは2ソケットしかないため、あまり面積を取らない。マザーボードの隣には、拡張カードを接続するためのスペースが用意されていた。12台ものHDDを接続するケーブルとしては、複数のSATAポートを1つにまとめたMultilaneケーブルが使われているため、内部がケーブルでごちゃごちゃしていると印象はない。
TS-2RZHの設定画面は、以前のTeraStation Proとほとんど変わらない。iSCSIの設定項目が追加されているぐらいだ。
実際にCystalDiskMarkでNASとiSCSIでベンチマークを取ってみた。シーケンシャルリードとランダムリードでは、iSCSIのアクセス性能が旧来のNASよりも大幅に高くなっている。ライトに関しては、NASとiSCSIで大きくパフォーマンスは違わなかった。
大幅に異なったのは、4K QD32の値だった。4K QD32は、NCQ(Native Command Queuing)コマンドをサポートすることで、ディスクアクセスの効率が高くなる。やはり、iSCSIとしてブロックデバイスを直接ネットワークで使用するのと、CIFSによりアクセスをするのとの違いからだろう。
TS7000シリーズでもバッファローが提供しているNASNavigator2によって、ネットワーク上から探し出せる | TS7000の設定画面は、以前のUIと同じものが使われている。Gigabit Ethernetは4ポート用意されている | 複数のポートトランキングモードが用意されている |
一方、TS5400Dを使ってみると、今までわかりにくかったTeraStationの設定が「かんたん設定」でわかりやすくなっていた。ステップ・バイ・ステップで設定が行えるため、専門的なスキルがなくても設定が行える。ただ、かんたん設定でも難しい用語が出てくるので、わかりやすい言葉に代えるか、ヘルプが簡単に見られるようになればより便利になるだろう。
またかんたん設定は便利だが、iSCSIの設定などを行うには詳細設定に切り替える必要がある。詳細設定であっても、非常にわかりやすいユーザーインターフェイスになっているので、その点は使いやすかった。
TS5400Dでも、CrystalDiskMarkによりベンチマークを行ってみた。ベンチマークとしてはTS-2RZHに比べると落ちるが、以前のTeraStation Proから比べると2倍ほど性能が向上している。
少し気になるのは、iSCSIのライトにおいてベンチマークが伸びなかった点だ。NASのベンチマーク並みの性能を示すと思うのだが、このあたりはベンチマークソフトのトラブルなのか、十分なチューニングができていないのかわからなかった。ただ、NASで高い性能が出ているため、iSCSIでもNAS並みの性能になると思うのだが。このあたりは環境に左右される可能性もあるため、参考程度にとらえてほしい。
TS7000シリーズを試してみて、さすがXeon E3を採用しているストレージといえる。製品価格も127万円と、バッファローの製品としては最も高い部類の製品になるだろう。ただ、他社のストレージと比べるとこれでもリーズナブルな価格となっている。1TBのSATAドライブ×12台を搭載したTS-2RZSなら73万5000円と、100万円を切る価格になっている。
あまりブランドや機能にこだわらないなら、TS7000シリーズはおすすめといえる。メーカーブランドを重視する企業においても、メインのネットワークストレージではなくバックアップのストレージとして使ったり、D2Dのストレージとして使うのにはぴったりかもしれない。
サポートに関しても、オンサイト保守、代替品発送のデリバリー保守の2種類が用意されている。オンサイト保守の場合、専用電話での受け付け後、翌営業日にサービスマンが訪問することになっている。
TS5000シリーズは、中小企業のネットワークストレージとしてはぴったりかもしれない。オフィスの隅に置いたりするには、ノイズも少ないし、ほこり対策のフィルターもしっかりしている。設定画面も使いやすくなり、ある程度のITスキルを持っていれば十分に運用できそうだ。
NAS以外に、iSCSI機能がサポートされたため、より高度な使い方をするユーザーにもマッチするだろう。さらに、IPカメラの録画サーバーなどとして運用するには、ぴったりの性能と信頼性を持っている。
TS5000シリーズは、2台~8台のHDD内蔵モデルが選択できるため、ユーザーのニーズに合わせたモデルが見つかるだろう。