週刊海外テックWatch

「ムーアの法則」に代わる新法則を 米国の封鎖が生んだ中国の逆転戦略
2026年6月1日 11:24
中国発の「DeepSeekショック」から約1年と4カ月。中国はAI覇権の夢に向けて全力を注いでいる。米国による禁輸で苦闘してきた中国のLLM(大規模言語モデル)は、米国の先端モデルのあとをぴったり追いながら、価格破壊で浸透を図ろうとしている。そして、5月下旬、ハードウェアや技術開発での重要な発表を相次いで行った。制裁は中国AIを封じ込めたのか、それとも鍛え上げたのか――。
最先端モデルが国産GPUで動作
中国DeepSeekは5月23日、最新先端モデル「V4-Pro」のAPI価格を「出力100万トークンあたり最大6元(0.83ドル)」にすると発表した。4月24日のリリース時に設定した正規価格から75%引いたキャンペーン価格を正式な恒久価格にする。ベンチマークで米国の先端モデルに匹敵するというV4-Proの価格が約35分の1というのだから、抜群のコスパと言える。API使用料金をビジネスの中心に据えようとしている米AI企業に揺さぶりをかけるものだ。
だが合わせて、より重要な発表が別にあった。V4-ProがHuaweiのAIチップ「Ascend」全シリーズで動作確認できたというものだ。中国の英語テクノロジーメディアPandailyが「画期的な出来事」として伝えている。
米国は2022年から、NVIDIAのハイエンドGPU「H100」と「A100」の対中輸出を禁止し、中国のAI開発を抑え込もうとしている。半導体製造に欠かせない露光装置は、関係各国に働きかけて2019年からEUV(極端紫外線)露光装置を完全禁輸。さらに、より解像度の低いDUV(深紫外線)液浸装置の規制にも動いている。
中国内で製造されるAscendだけで先端モデルが動作すれば、「中国の国内AIスタックにとっての画期的であり、推論ワークロードにおける海外チップサプライヤーへの依存度を低減させる」(Pandaily)という。
ただし、この構図には重要な前提がある。米国の超党派シンクタンクCFR(外交問題評議会)によると、2025年に投入した第3世代モデル「Ascend 910C」はH100比約60%の性能で、後継の最新モデルでも最先端のNVIDIAとの差は依然として残るという。
DeepSeek V4は、ソフトウェアやクラスタリングによってチップ性能の差を一定程度補うことが可能になった。ただし、これはあくまで「補う」戦略であり、1チップの根本的な性能差そのものは変わっていない。