週刊海外テックWatch
「ムーアの法則」に代わる新法則を 米国の封鎖が生んだ中国の逆転戦略
2026年6月1日 11:24
「タウ・スケーリング則」で逆転狙う
NVIDIAに比べて1チップ当たりの性能が弱いという根本課題は解決されていない。EUV露光装置を調達できない中でいかに単体チップの密度を上げるか――。5月26日、上海で開催されたIEEE ISCAS 2026(IEEE国際回路システム学会)での発表は、その問いへのHuaweiの答えと言える。
Huawei取締役でHiSilicon部門プレジデントのHe Tingbo(何庭波)氏は、壇上で「LogicFolding」技術と「τ Scaling Law(タウ・スケーリング則)」というフレームワークを発表した。He氏は、米国の制裁でチップの製造委託先を失った同部門の復活を指揮してきた人物だ。
LogicFoldingは回路レイアウトを垂直方向に再構成する構造で、立体的に積み重ねることで通信を最短距離にするという。先端半導体で採用されている「3Dパッケージング」とは異なり、2D回路をゲートレベルで垂直に畳むことで実現する。微細化が「土地を細かく区切る」技術とするなら、「同じ土地で上方向に積み上げる」技術と言える。EUV不要で、中国国内にある5~7ナノメートルのDUV液浸装置で実装できるのが大きなメリットだとしている。
Tau Scaling Lawは、「物理的なサイズの縮小」の代わりに「信号伝播の遅延時間(タウ)の短縮」を指標とするという法則で、従来の回路レイアウトの限界を突破してトランジスタ密度とシステム全体の性能を継続的に向上させるという。限界に近づいている「ムーアの法則」に代わる新たな「業界の原則」にすることをHuaweiは提案した。
LogicFoldingは、これを回路レベルで利用する技術だという。ほかに、デバイスやチップの設計の最適化やUnifiedBusを使ったプロトコルの再定義などを技術要素としている。Huaweiは、過去6年間で381種のチップを設計・量産してきたと述べた。Wall Street Journalは、関係者の話として、同社が新技術で安定した結果を出せるようになったのは、ここ1年のことだと伝えている。
LogicFoldingは今秋、スマートフォン向け「Kirin」(Mate 90系)に実装するのを皮切りに、2030年にAI向けAscendへ展開。さらに2031年には「1.4ナノメートル相当」の密度達成を目指す。なお、この「相当」は密度換算の表現で、EUV装置なしに1.4ナノメートルプロセスの製造ができるわけではない。
また5月27日には、北京大学School of Integrated Circuits(集積回路学部)がLogicFoldingアーキテクチャに対応したEDA(電子設計自動化)ツールのプロトタイプを発表した。EDAツールはチップ設計に必須だが、Synopsys、Cadence、Siemensの欧米三社の寡占状態にある。
South China Morning Postは、「国産代替品の開発は中国政府にとって最優先課題」とした上で、HuaweiがEUV依存なしに1.4ナノメートル技術を実現する上で不可欠のピースだと報じている。