マイクロソフトと佐賀県、9カ月間にわたる協業成果を追う

地域活性化協働プログラムによって地方はどう活性化したのか


佐賀県CIOの川島宏一氏(左)と、マイクロソフト業務執行役員兼CTOの加治佐俊一氏

 マイクロソフトと佐賀県が、ICT(情報通信技術)の利活用促進に関する提携を開始してから9カ月が経過した。マイクロソフトが自治体向けに提供する「地域活性化協働プログラム」を全国で初めて導入したのが佐賀県でもあり、その協業成果には注目が集まっていた。マイクロソフト業務執行役員兼最高技術責任者(CTO)である加治佐俊一氏、佐賀県の最高情報統括監(CIO)である川島宏一氏に、9カ月間にわたる両者の協業成果について聞いた。

 マイクロソフトと佐賀県が、2009年2月3日に結んだICT利活用の促進に関する連携は、ICTによって、佐賀県内のさらなる地域活性化を目指すのが狙いだ。

 具体的な取り組みは、シニア向けPC教室の開催をはじめとしてICT利活用を支援する「高齢者向けICT利活用促進プログラム」、シニアネットなどのNPO法人におけるICT活用および関連活動を支援する「CSO(Civil Society Organizations=市民社会組織)組織強化プログラム」、マイクロソフトとICT教育推進プログラム協議会が開発したeラーニング型教職員向け研修カリキュラムのICTスキルアップオンラインを活用して県内の小・中・高校および特別支援学校の教職員を対象に研修を行う「ICTスキルアップオンライン」、教職員がICTを活用した先進的な授業例を参考にしたり、授業用のテンプレートなどをダウンロードできる「ICT活用ゲートウェイ」、県民がインターネットを安全に使うための基本的なセキュリティスキル習得を目指す「セキュリティ自治体連携プログラム」の5つが柱だ。


シニアネット佐賀が開催した年賀状作成教室の様子マニュアルは手作りのもの。マイクロソフトのノウハウが生かされている

 一方、佐賀県では、「IT最先端県庁の実現」、「ブロードバンド環境整備」、「地域全体をICTの視点で振興」という3つの取り組みを掲げており、これらの取り組みのなかでも、「地域全体をICTの視点で振興」という観点からマイクロソフトとの協業成果に期待を寄せていた。

マイクロソフトの協業成果のひとつとして11月20日に開催されたICTセミナー

 活動に際しては、佐賀県は各プログラムの実施主体となる県内の団体と連携し、セミナーや研修の共催のほか、施設や人員の提供、県内への告知活動を行い、マイクロソフトは、各プログラムの佐賀県内でのセミナーや研修の企画提案および実施、人材育成プログラムの提供、講師の派遣、マイクロソフトが制作した教材の提供などを行うという仕組みだ。

 川島氏は、「大きな成果が見られたのは、高齢者向けICT利活用促進プログラムと、CSO組織強化プログラムの取り組み。シニアの方々に、PCを利用することが、生活を豊かにするための手段になるということを知っていただき、そこに力を注いでいる佐賀県で暮らせば、楽しい生活が送れるということを少しずつ感じてもらえたのではないだろうか」と、協業成果を振り返る。

 例えば、PC利活用セミナーの開催などに積極的なNPO法人のシニアネット佐賀では、この1年間で会員数が50人から75人へと大幅に増加。この協業プログラムを通じて、講師の養成にも成功した。また、佐賀県からは各シニアネットへの委託事業として、年賀状作成講座や、ムービーメーカーを利用した講座が行われるなど、教室開催も活発だ。

 佐賀県によると、シニア向け講師養成講座は、合計19日間開催され、延べ240人が受講。NPO基盤強化のためのICTセミナーは、7回で約370人が受講。また、シニア初心者を対象としたIT関連イベントは、この1年間で4回開催され、約500人が参加したという。

 「シニア向けにPC教室を開くことができるトレーナーを養成できたことで、PC利活用をさらに広げるための土壌ができたといえる。シニアがPCに触れていただける場が増加することになるだろう」とする。

 川島氏は、デンマークにおける年齢層別のPC利用率の図表を示しながら、「デンマークでは、高齢者になるほど、PCの利用率が高まっている。これは、シニアが豊かな暮らしをおくるためにはPCが不可欠であるという認識が定着し、そのための住民サービスが用意されていることがあげられる。病気になった際に、ネットに接続すれば、医者に行く必要があるのか、薬だけで済むのか、休養をとればいいのかといったことがわかるようになっており、結果的にこれが豊かな生活の実現、利便性の向上とともに、医療費の削減にもつながっている。ICTがシニアの生活を豊かにするという認識は、佐賀県の古川康知事自らが強く思っていることであり、シニアのPC利活用スキルをあげることは、これからの社会にとって必要なこと。そのためには教える人を増やす必要がある。その点でも、この1年間のマイクロソフトとの協業成果は評価できる」とする。

 実は佐賀県でも、医療現場におけるネットワーク化が始まっている。大規模病院での検査結果などを、地域のクリニックでも閲覧できるようにしている。

佐賀県CIOの川島宏一氏

 「まだまだこれが利用されていない。薬事法をはじめ、現行制度を変える必要もあるだろうが、さらに医師がその仕組みと利便性を知る一方で、住民側から医師に対して、この仕組みを使って診察してほしいと提案する働きかけも必要だろう。ICTを利活用するための働きかけを、使う側と、それを使ってメリットを享受される側の双方が行っていく必要があり、そのためには、住民全員が、ICT利活用に向けた知識を持つことが大切である」などとした。

 また、佐賀県では、新型インフルエンザ対策についても、PCや携帯電話を利用した県民への情報提供サービスに関するシステム構築で共同研究を進めているほか、地域サービスポータルの構築や無線技術を利用したユビキタスプロードバンド環境の構築、県内ブロードバンド接続世帯数50%達成アクションプランの立案および実施などを進めている。これらをより効率的に活用するには、県民のICTスキルアップが不可欠であり、ここにもマイクロソフトの協業成果が期待される。

 一方、マイクロソフトとの協業で展開されたICTスキルアップオンラインやICT活用ゲートウェイといった教員向けのプログラムでは、佐賀県下の小中高校の教員を対象に、12のオンラインによる教育コースを提供した実績がある。今後はオフラインによる講座も実施する予定だという。

 また、セキュリティ自治体連携プログラムでは、これまでに40人を対象にしたセキュリティセミナーを開催。今後は、シニア向けプログラムやNPOプログラムで実施されるセミナーのなかでも、セキュリティに関するセミナーを実施していく予定だという。

マイクロソフト業務執行役員兼CTOの加治佐俊一氏

 加治佐氏は、「佐賀県は、NPOによる活動基盤がしっかりと整っているのが特徴。そのため、NPOの活動によって利活用提案が次のステップへと踏み出しやすく、これが短期間での成果につながった。知事と直結しているCIO自身が、本気でこのプログラムに取り組むと同時に、現場における問題点も把握しており、それが具体的な次のアクションにつながっている。佐賀県における成果が、他県には伝搬していくことを期待したい」と、佐賀県の取り組みについて語る。

 川島氏は、佐賀県庁のバックオフィスシステムの効率化といった一般的なCIOとしての役割のほか、地域のブロードバンドインフラの構築、ICTを活用した地域の中小企業の活性化といった役割も担っている。

 マイクロソフトとの協業を通じて、こうしたCIOとしての役割を果たしていくことができると、川島氏は期待する。

 一方で川島氏は、マイクロソフトが実施しているアクセシビテリィに対するプログラムにも強い関心を寄せる。

 アクセリビテリィは、マイクロソフトが提供する「地域活性化協働プログラム」のなかにも含まれているメニューのひとつだが、2009年2月の佐賀県との協業提携のなかには盛り込まれていなかった。

 「まずはできるところからということで、アクセシビリティの協業には踏み出さなかった。だが、Windows 7で提供されるアクセシビリティ機能が大幅に強化されていることを知り、これを活用することで、身障者がより豊かな社会生活を送れるのであれば、ぜひ取り組んでみたい」とする。

 佐賀県では、障害者のことを「チャレンジド」と表現し、障害者支援のためのボランティアを毎年150人ずつ募集している。個人だけでなく、県関係者、地元企業などもこれに積極的に参加しているという。

 さらに、NPO法人である市民生活支援センターふくしの家、佐賀県障害者ITサポートセンターが、障害者向けのサイトとして「ゆめくれよん」を展開。同サイトを通じて、障害者に関する各種情報を提供し、障害者を対象としたPC教室の参加者募集なども行っている。

 また、「チャレンジド誰でもパソコン10か年戦略」として、佐賀県庁において、障害者が誰でもが当たり前にPCを利用できる環境を実現しようと、2015年度を最終年度とした取り組みが始まっている。

 さらに、2010年には、佐賀県嬉野市において、第5回ユニバーサルデザイン全国大会が2010年12月に開催されることになっており、これも障害者に対する支援体制を促進する起爆剤のひとつととらえ、ここにもICTを積極的に活用していく考えだ。

 「障害者に対する支援は、ICTを利活用することで実現できるというのが古川知事の考え方。技術だけではなく、仕組みが絡み合って、効果的な支援が可能になると考えている」

 これも県民が幅広くICTの知識を持ち、社会生活にICTを活用できる環境構築に向けた一歩となる。このミッションもCIOとして重要な役割だという。

 「地元紙において、ネットワークサービスやPC利活用などに関する記事が頻繁に取り上げられるようになった。県内に着実にICT利活用のメリットが浸透している証しではないか」と川島氏は語る。

 マイクロソフトと佐賀県の協業開始から9カ月を経て、その活動はさらに広がりを見せようとしている。



関連情報
(大河原 克行)
2009/12/1 00:00