キヤノンMJのソリューション事業が上期苦戦から下期成長戦略に転じる理由



 「上期は、よくぞ持ちこたえたというのが正直な感想」-キヤノンマーケティングジャパン株式会社(以下、キヤノンMJ)のビジネスソリューション事業を統括する、ビジネスソリューションカンパニープレジデント・土門敬二専務取締役は、上期の同事業を振り返り、こう切り出した。

 キヤノンMJが発表した2006年度上期(1~6月)連結決算は、売上高が前年同期比3.2%増の4125億1300万円、営業利益は22.2%増の163億4300円、経常利益は25.0%増の168億5700万円、当期純利益は41.7%増の92億7600万円の増収増益。全社規模で見れば、通期の過去最高業績に向けて順調なスタートを切ったといえる。

 だが、全社売り上げの半分以上を占めるビジネスソリューション事業は、売上高が前年比2%減の2401億6600万円、営業利益は11%増の84億7500万円の減収増益となった。

 売上高は前年割れとなったばかりか、4月時点の公表値を89億円下回る結果。また、内訳で見ても、ドキュメントビジネスの売上高が1%減の1681億円と4月公表値の42億円下回り、ITソリューションも4%減の720億円と、これも4月公表値を47億円下回る前年割れの実績にとどまった。


キヤノンMJビジネスソリューションカンパニーブレジデント・土門敬二専務取締役

 土門専務取締役の本音ともいえるコメントは、こうした数字からも明らかだ。むしろ、この数値以上に落ち込むことを覚悟していたのかもしれない。

 キヤノンMJのビジネスソリューション事業が苦戦を強いられたのは、激しい価格競争の影響のほか、モノクロ機の減少、さらには、昨年まで大幅な成長を見せていたカラーLBPの伸びがやや鈍化したことが影響しているが、最大の要因は、ドキュメントビジネスにおける新製品投入の遅れといえる。

 同社では、今年7月、同社がデジタル商業印刷機器分野に本格参入する戦略期製品として「ImagePRESS(イメージプレス)」シリーズを投入するとともに、これまで同社が手つかずだったオフィスカラー複合機のハンエンド分野向けに「Color imageRUNNER(カラー・イメージランナー)」の新製品として、iR C5180N、iR C4580F、iR C3880Fの3モデルを投入すると発表した。

 この分野は、富士ゼロックス、リコーが先行。言い換えれば、この分野への本格参入は、キヤノンにとって長年の課題だったといっていい。

 これらの製品は7月から10月にかけて順次出荷されているが、もし、これが上期に投入されていたとしたら、その「数字」は、もう少し楽であっただろう。

 複合機市場は、カラーシフトが進展するものの、市場全体の出荷台数は横ばいと見られている。それだけの新分野の製品投入は、そのまま売り上げのプラス要素となるからだ。

 また、ITソリューションは、ITサービスの売上高が前年並みとなったものの、ITプロダクトが前年同期比12%減とマイナス成長。PCやサーバー製品の落ち込みが影響したことも見逃せない。

 だが、その厳しい上期のなかでも、いくつかの成果が出ている。

 例えば、MFP全体の売上高は6%減(レンタルを含んだ総数では5%減)となったが、カラーMFPでは、前年同期比1%増。また、LBPでは、カラーLBPが63%増と大幅な成長を達成。とくに、カラーLBPの好調によって消耗品ビジネスが拡大し、LBPのトナーカートリッジは前年同期比12%増という結果だ。

 また、ITソリューションの落ち込みに関しても、「PCや低価格サーバーなど、収益性の低い製品を徹底的に選別した。「前年割れとはいえ、これは健全な減少だととらえている」と、構造改革の成果を自己評価する。

 しかし、いくつかのプラス要素はあるにしろ、上期は、キヤノンMJにとって、全般的に厳しい状況であったのは事実。

 「2500人のSE、そして、営業、マーケティングを含めた総合力で持ちこたえた」(土門専務取締役)というわけだ。


下期に巻き返す要素が揃う

新製品「ImagePRESS」を前にするキヤノンの内田社長(右)と、キヤノンMJの村瀬社長

 こうした厳しい上期を経て、下期は一気に巻き返しに転じると、土門専務取締役は強気の姿勢を見せる。

 ImagePRESSシリーズや、Color imageRUNNERの上位機の出荷が始まり、これがいよいよ下期の業績に貢献することになるからだ。

 「富士ゼロックス、リコーの牙城に入っていくことになるが、勝算は十分にある。これまでは、製品がないために、本来、キヤノンの顧客になるはずだったユーザーを、他社に『貸していた』状態。応分のシェアを取っていく」と意気込む。

 一方、ITソリューション事業でも、「今年後半から来年にかけて事業を大きく伸張させる」と強気の姿勢を見せる。

 その背景には、日本版SOX法に対応した需要が徐々に顕在化しはじめたことが大きい。同社では、内部統制診断などの「コンサルティングサービス」、ERPソリューションなどによる「アプリケーション統制支援」、セキュリティ基盤構築、システム運用管理などの「IT全般に渡る統制支援」、さらに、同社が得意とする文書管理ソリューションのほか、情報漏えいソリューション、会計帳票の電子化ソリューションなどの「統制環境構築支援」といった領域からの提案を加速させる考えで、「ITソリューションの中核を担うキヤノンシステムソリューションズでは、上期も2けたの売上高成長を遂げ、グループ2500人の体制では商談に追いつかない可能性が高い」ともいう。

 懸念のITプロダクトにおいても、ハンディターミナルや金融機関向けシステムが順調に推移するなど、収益を確保しやすい機器への展開が功を奏しはじめている。

 さらに、日本オラクルをはじめとするITパートナーとの関係を強化。その具体的な取り組みとして、これまで対外的な成果がほとんど出ていなかった、資本関係にある日本SGIとの協業においても、「組織化した協業専門チームによって、ビジュアライゼーションやコンテンツソリューション分野で、シナジーを生かした販売展開を開始する」と話す。


ドキュメントビジネスでの成長を見込む

 同社では、ビジネスソリューション事業の通期業績見通しを修正した。

 売上高は、50億円減の4950億円としたが、営業利益は7億円増の152億円と上方修正する。

 だが、下期だけという観点で見れば、売上高は4月公表時点に比べて39億円増加の2549億円、営業利益は3億円増加の68億円。いずれも、上方修正し、前年実績を上回ることになる。

 ドキュメントビジネスでは、これまでなかったハイエンド製品が新たに加わることで、そのままプラスアルファが見込める。

 デジタル商業印刷機器の分野は年率15%程度の成長が見込める市場。「ハイエンド層を開拓し、オフィスMFPにおける全階級トップシェアで制覇を目指す」(土門専務取締役)と鼻息が荒い。

 実は、下期の売上高の上方修正分の39億円はそのままドキュメントビジネスによるものだ。

 キヤノンMJは、2010年までにビジネスソリューション分野で6000億円の売り上げを目指すが、その戦略的位置づけを担うのが、この下期から出荷するImagePRESSシリーズや、Color imageRUNNERの上位製品ということになる。

 「コストダウン、変革、拡販。下期はこれらに取り組む条件がすべて揃った。下期から、利益ある成長に転じることになる」

 上期の厳しい環境を脱したキヤノンMJは、いよいよ下期から成長戦略を加速させることなる。

関連情報
(大河原 克行)
2006/8/25 14:09