Windows 8は日本のパートナーにとって大きなチャンスになる~米Microsoft・クルトワ プレジデント


 Microsoft インターナショナルは、米国およびカナダを除く、全世界のMicrosoftの事業を統括する部門である。Microsoft インターナショナル プレジデントであるジャンフィリップ・クルトワ氏は、同社2011年度において、日本マイクロソフトが世界ナンバーワン子会社になったことに触れながら、「日本マイクロソフトに対する期待は高い。これからも早い形で成長してくれるだろう」とする。

 そして、クラウド事業における成果を評価する一方、Windows 8においても、「日本のパートナーから、グローバルに展開する製品の登場を期待しており、それに対して、Microsoftは支援する体制を構築している」と語る。

 日本におけるMicrosoftの展開、日本におけるクラウド戦略、そして、Windows 8への取り組みなどについて、クルトワ氏に話を聞いた。

震災から1年の支援活動には高い自己評価

――東日本大震災から1年を経過しました。その間、クルトワ氏自身、何度も日本を訪れていますね。日本におけるMicrosoftの被災地支援などへの取り組みをどう評価していますか。

米Microsoft インターナショナル プレジデントのジャンフィリップ・クルトワ氏

クルトワ氏:まず私が申し上げたいのは、日本のチームの活動について、大変満足しているという点です。災害復旧・復興に向けて、重要となる政府機関、関連団体、コミュニティやNPOに対して、適切な形で、迅速な支援を行うことができた。また、日本マイクロソフトのボランティアたちも活躍してくれた。そして、技術の提供という観点からも、本当にすばらしい仕事をしてくれました。

 日本マイクロソフトは、文部科学省が2011年3月15日からスタートした放射線モニタリング情報の発信において、クラウドプラットフォームであるWindows Azureを提供することで、25時間でのサイト構築を支援したり、岩手県庁のミラーサイトの構築でも協力体制をとったりしました。

 また、震災直後から、被災地で活動するNPOなどに対してOffice製品やサーバー製品の無償提供、Office 365などのクラウドサービスの無償提供、MSNにおける震災関連情報のポータルサイトを通じた情報提供などにも取り組んできました。

 さらに東北三県においては、雇用を求める被災者がICTスキルを習得することで就労機会を増やすため、被災地向けの技術トレーニング支援プロジェクトを開始した。加えて、被災地の中小企業や団体に再生PCを寄贈するプロジェクトなども実施してきました。

 私は、こうした活動を通じて、多くの人が復興に向かうことができたこと、そして、その支援を行えたことを誇りに思っています。

 Microsoftは、企業価値の提案として、人間を重視することを掲げています。人がいるからこそ、技術が生きることになります。当社は今後も、被災地のみなさんに対して支援プログラムを実施し、技術の提供を継続的に進めていくことをコミットします。

 

日本マイクロソフトの成長に大きな期待

――日本マイクロソフトは、2011年度(2010年7月~2011年6月)において、世界ナンバーワン子会社となりました。それに続く、2012年度(2011年7月~2012年6月)の取り組みを、現時点ではどう評価していますか。

日本マイクロソフトが受賞した世界ナンバーワン子会社のトロフィーは品川本社に展示されている

クルトワ氏:私自身、過去7年間にわたって、日本マイクロソフトをみてきましたが、過去には苦難の時もあったものの、この2年間の成長は非常にすばらしいものだと評価しています。

 Microsoftは毎年1月に、ミッドイヤーレビューという中間報告会を全世界規模で行います。この報告会でも、日本はいい位置にあることがわかりました。それは、売り上げ成長という観点だけではなく、お客さま満足度においても、サービス品質の向上という点でも評価できるものとなっています。

 エンタープライズ分野、中堅中小企業分野への取り組み、またパートナーであるデベロッパーや、ユーザー企業におけるITプロフェッショナルに対しても満足度が高まっています。

 そして、クラウド・コンピューティングによる革新という点でも先行している。Windows Azureの活用においても先進的な事例が日本でみられていますし、Office 365も多くのお客さまに導入いただいています。樋口さん(日本マイクロソフトの樋口泰行社長)には、ずっとナンバーワンのトロフィーを持ち続けていてほしいですね。

――この1年で、さらに日本マイクロソフトが進化したと感じる部分はありますか。

クルトワ氏:「実行する」という品質において、進化していると感じます。

 お客さまと接している時間を多く割き、それによって品質を高めているのが日本マイクロソフトの特徴であり、この部分はほかの国の取り組みと差を感じる部分でもあります。私自身も、日本マイクロソフトから、お客さまの声を通じた正確なフィードバックをもらい、お客さまがなにを考えているのか、なにを求めているのかといったことがわかる。

 そして、私が日本を訪れるたびに、日本のパートナーやデベロッパーから多くのフィードバックをいただいています。クラウドサービスやアプリケーション開発でも成果が出ていますし、その点では日本のパートナーには大変感謝をしています。

 また日本のお客さまは、品質に厳しいところがあります。おのずと、日本マイクロソフトに求められる品質も高い設定となる。その達成を目指す日本マイクロソフトだからこそ、それにあわせて大きな成長を維持しているのではないでしょうか。

 私は、日本マイクロソフトに対して、高い期待を持っています。ですから、今後の成長については、かなり強気に予測していますよ。

 

クラウド・コンピューティングの強みと課題とは

――Microsoftは、一昨年から「クラウド・コンピューティング」への投資を加速することを掲げています。あらためて、いまMicrosoftのクラウドの強みはなにかを教えてください。

クルトワ氏:振り返れば、Microsoftが、クラウド・コンピューティングの世界に参入したのはいまから15年前のことです。

 まずは、コンシューマ向けサービスとして開始し、さまざまな知見やノウハウを蓄積してきました。ここ数年においては、Windows LiveやMessenger、Bingといった取り組みを重ね、最近ではSkypeもサービスのなかに入ってきています。そして、これらをシームレスにつなぎ、高いスケーラビリティ、高いパフォーマンスを日本のユーザーにも提供してきました。

 この取り組みは、エンタープライズへと広がりをみせ、Window ServerやSQL Server、ストレージサービス、アプリケーションの提供を通じて、いまではコンシューマからSMB、大手企業に至るまで、幅広い領域にクラウドサービスを展開しています。

 Office 365は、すでに世界80カ国以上で展開し、最も人気が高いクラウドベースのビジネスアプリケーションスイートとなっています。PCだけでなく、スレート端末やスマートフォンなど、さまざまなスクリーンを持った端末で使える点もOffice 365が高い評価を得ている理由のひとつです。

 一方で、クラウドプラットフォームとしてのWindows Azure、管理ツールであるSystemCenter 2012の提供により、アプリケーションソフトだけでなく、プラットフォームや管理ツールまで、あるいは、プライベートクラウドから、パブリッククラウド、ハイブリッドクラウド、オンプレミスとの融合環境まで、Microsoftは幅広いクラウドサービスを提供しています。あらゆるお客さまに対して、自分のやりたい手法で、クラウドを選択していただけることができます。

 Microsoftが提供するクラウドの技術を組み合わせることで、やりたいことが柔軟な形で実現できるのです。こうした柔軟性を提供することができるのはMicrosoftだけです。ここに、Microsoftのクラウドビジネスの特徴があります。そして、多くのお客さま、パートナーから、Microsoftがクラウドの世界において、リーダーであると認識をいただいています。

 一例をあげますと、Microsoftは、欧州連合とEUデータ保護指令を通じた厳しい認証基準をもとに、データセンターの認証を受け、クラウドサービスを提供しています。そして、オンライン上の防御についても、高いレベルを有しています。こうしたコミットメントを行い、透明性を提供できるのは、Microsoftだけです。ここでは、他社に乗り換えられるということはありません。それだけの高い信頼性のもとで、クラウドサービスを提供しているわけです。

――一方で、クラウドにおけるMicrosoftの課題はなんだと考えていますか。

クルトワ氏:課題をあげるとすれば、Microsoftにはクラウド・コンピューティング環境において、さまざまなチャレンジが求められているということです。

 例えば、お客さまが既存システムをクラウド・コンピューティング環境に移行したいと考えた時に、お客さまが求めるサービスレベルは個々に異なります。それぞれの要求に応じた形で柔軟に対応することが必要です。お客さまの考え方、セキュリティポリシー、プライバシー保護の姿勢、信頼性に対する考え方は、それぞれに異なります。これは非常に複雑なものになります。

 また、国によって、企業のコンプライアンスやガバナンス、プロセスが異なり、さらに、経営者や導入担当者、エンドユーザー個々の考え方や感じ方の違いもある。なかには、データを自分の隣に置いてあるサーバーのなかに格納しておきたいという人もいるでしょう。こうしたユーザーに対しても、心理的な障壁を取り除くために、なにができて、なにができないのかを、事実に基づいて示す必要があります。

 私たちは、クラウド・コンピューティングにおいて、長年にわたる多くの経験を持っていますから、それに対して、どんなコミットができるのかということを明確に示すことができます。

 そして、お客さまに対して、技術品質、サービススピード、継続性を担保しなくてはならない。これは大変な努力を伴います。お客さまへの対応品質を向上させることは永遠の課題でしょう。

 お客さまはどのようにクラウドを構築したいか。それは、自分のペースで選びたいということです。また、多くのアプリケーションをプライベートクラウドで使いたいと考えています。さらに、起業したばかりの会社や、グローバルに事業を展開したいという会社でも、Office 365などのMicrosoftのクラウドサービスを利用すれば、少ない投資で展開できる。新たな会社を買収した場合にも、統一した環境を構築するのにクラウドサービスは役に立ちます。

 こうしたさまざまな用途に対応するための取り組みを加速させているところです。

 

コンシューマビジネスを加速する2012年

――Microsoftは、2012年度の取り組みとして、「コンシューマ」を全社的な重要課題に掲げていましたね。この成果はどうなっていますか。

クルトワ氏:Microsoftには、12億人のコンシューマユーザーがいます。巨大なコンシューママーケットを対象に事業を展開しており、今後もこの規模は拡大していくことになるでしょう。

 コンシューマ領域においては、いくつかの取り組みがあります。このなかで大きな投資をしているのが、スマートデバイスです。スマートデバイスとしては、まず、Windows Phoneがあげられます。これは、Microsoftが、再び電話の市場に戻ってきたことを示すものといえます。

Windows PhoneはグローバルではNokiaとパートナーシップを組む
Windows 8はメトロインターフェースが特徴的だ

 グローバルでは、Nokiaとの戦略的パートナーシップを組んでいますが、日本においては、KDDIおよび富士通とWindows Phoneを投入し、スタートした段階にあります。操作性のスムーズさは、多くのユーザーに喜ばれています。ここで採用しているメトロと呼ばれるインターフェイスは、Windows 8にも搭載されます。

 Windows 8は、今年最大の革新になるでしょう。2月29日から、コンシューマプレビュー版を公開しています。これはWindows 8にとって重要なマイルストーンです。私自身も、すでにスレート端末上で、Windows 8を使用していますが、その操作性の高さには満足しています。

 Windows 8の特徴は、タイル型のメトロインターフェースを通じた操作環境の実現や、アプリケーション側からアクティブに情報を発信し、利用者になにをすべきかといったことを通知してくれる機能を持っている点です。

 また、Windows 8はインテルマシンだけでなく、ARMのプロセッサ上でも動作します。これは、あらゆるユーザーシナリオを、コンシューマユーザーのために用意することにもつながります。

 そして、3つめも特徴は、デベロッパーにとっても有効な環境が提供されるという点です。Windows 8とともに、アプリケーションストアである「Windows Store」が用意され、ここで多くのアプリケーションが利用できるようになります。これはデベロッパーのビジネスチャンスを広げることになるでしょう。

 さらに、Windows 8を利用しているデバイスでは、Windows 7で慣れ親しんだインターフェイス環境に戻ることもできます。

 Windows 8に関しては、まだお話しできる範囲が限られていますが、4月には日本において、Windows 8に関するデベロッパー向けイベントを開催する予定になっています。日本から、数多くのアプリケーションが開発されることを期待しています。また、ソニー、富士通、NEC、東芝といった日本のメーカーから、革新的な端末が登場することを楽しみにしています。

 そして、コンシューマ向けプロダクトとしてもうひとつ言及しておきたいのが、Xbox360です。Xbox360は、昨年12月時点での全世界における累計出荷台数が6600万台以上となり、全世界で最も売れているゲームコンソールとなりました。Xboxのビジネスは10年間にわたって展開していますが、初めて到達したものです。

 Kinectという新たな入力ツールが登場したことで、さらに売れ行きは加速している段階にあります。Xbox360については、日本においては、まだまだやらなくてはならないことが多いと認識しています。日本の市場を積極的に開拓していかなくてはならないと考えています。

 そして、これからももっとすばらしいコンシューマ向け製品がMicrosoftから登場することになります。


世界的なヒットとなっているXbox360。スターウォーズの特別エディションも発売する

 

Windows 8がもたらすパートナーの価値とは?

――Windows 8によって、日本のパートナー企業にはどんなビジネスチャンスが生まれますか。

Windows 8搭載スレート端末と日本で発売されているWindows Phoneを手にするクルトワ氏

クルトワ氏:これまでMicrosoftが構築してきたエコシステム同様、Windows 8におけるエコシステムは、グローバルなものとなります。

 日本のデベロッパーは、日本市場だけを対象にビジネスをするのではなく、Windows Storeを活用することで、グローバル市場でビジネスを展開することができる。Microsoftは、デベロッパーに対して、ツールを提供し、グローバルマーケットに対してアクセスできるお手伝いをしていくことになります。

 そのひとつの取り組みとして、日本においても過去数年間にわたって展開しているBizSparkがあげられます。BizSparkは、創業3年未満の企業および法人化を目指す個人事業主や起業家を対象に、Microsoftの開発環境やクラウド環境、技術サポートなどを3年間無償で提供するものです。

 全世界で4万5000社以上が、BizSparkを利用し、若い起業家たちを支援し、マーケティングのサポートも行っている。そして、販売のお手伝いもしている。Windows 8においても、こうした支援が活用できることになります。

 Windows 8は、コンシューマ、中堅中小企業、エンタープライズ、そしてデべロッパーにも限りない可能性をもたらすものであり、日本のパートナー企業にとって、ローカルにも、グローバルにも、ますます競争力をますますつけてもらいたいと考えています。そして、Microsoftは、それを強力に支援していきます。

――Appleから新型iPadが登場しました。Windows 8は勝つことができますか。

クルトワ氏:Windows 8は、まだ開発中の製品ですが、非常に良い製品となっています。コンシューマプレビュー版の評判も非常にいいものとなっています。デベロッパーやハードウェアパートナーなどからも、期待の声があがっているのがその証しです。

 Windows 8は、エコシステムの連携によって、市場を拡大させることができるのが特徴です。そして、日本のPCメーカーからもすばらしいものが登場することを期待しています。コンシューマからエンタープライズ、デベロッパーまで幅広い層で受け入れられる製品として、今後、事業を加速していける製品になると考えています。

関連情報