「クラウドはNECが社会へより貢献するためのツールになる」
NEC・遠藤信博社長

クラウド Watch新装刊記念・特別インタビュー


 「クラウド・コンピューティングは、ITとネットワークをコアビジネスとするNECが、より社会へコントリビューション(貢献)するためのツールになる」――。NECの遠藤信博社長は、こう切り出す。

 あらゆる情報を電子化し、そこから未来を予測。それをソリューションという形に変え、これまでにない社会貢献へとつなげるのが、クラウド・コンピューティングの役割だとする。そして、PCや携帯電話の技術は、クラウドにおける情報の入出力端末の技術として、今後、重要な意味を持つだろうとも予測する。

 NECは、クラウド・コンピューティングビジネスをどうとらえ、いかに発展させようと考えているのか。

 2010年4月に社長に就任してから3カ月を経過したNECの遠藤信博社長に話を聞いた。

3カ月で延べ2500人と対話、社員と方向性などを共有

NECの遠藤信博社長

――4月1日の社長就任から約3カ月を経過しました。この間、どんなことに取り組んできましたか。

遠藤社長:社内の興味は、「社長になった遠藤とはどんなやつなのか」という点だったでしょうから(笑)、まずは、国内の各拠点を回り、私との対話集会を開きました。これまでの3カ月間で、延べ2500人と対話することができました。ここで、私の事業に対する考え方、NECの方向性などについて社員と共有することができた。

 最初の3カ月間は、この活動にかなりの時間を費やしました。7月以降は海外の社員たちと話をしたいと考えています。中国を皮切りに、台湾、米国、南米、欧州と回るつもりです。

――社員に対してどんなことを語っていたのですか。

 私が対話集会を通じて言いたかったのは、あらためて「会社とはどういうものか」ということを理解してもらうことでした。会社のありようとはどういうものか、会社が果たすべき役割とはなにか、そのなかでわれわれがやるべきことはなにか。こういうことを話してきました。

「グループビジョン2017」と「V2012」

 それと、NECは2008年に、10年後を見据えた「NECグループビジョン2017」を策定しましたが、それに向けてわれわれはなにしていかなくてはならないのか、また、NECグループビジョン2017のマイルストーンとして、2012年度を最終年度とする中期経営計画「V2012」では、なにをしなければならないか、ということを話しました。

 極めてベーシックな話ですが、会社は2つのオブリゲーション(義務)を持ちます。ひとつめは、会社とは、社会へのコントリビューション(貢献)が義務であるという点。もうひとつは、社員の生活を守るという義務です。

 会社というのはワンプロジェクトで解散するわけにはいかない存在です。会社は、人を集めて、明確なコアテクノロジー、コアビジネスを持ちながら、社会に貢献する。その貢献の結果として、利益を得て、会社が存続する。さらに、人を集めるということは、会社は、集めた人たちの生活を守るための継続性が求められる。

 私は、「事業は人」、「企業は文化」という言い方をしています。ビジネス(=事業)は人との信頼関係があって初めて成り立つものです。しかし、企業というのは箱ですから、そのなかにいる人たちは常に入れ替わりがある。社長が替わり、新入社員が入り、退社をしていく人もいるわけです。そのなかでも会社は、継続しなくていけない。

 人が入れ替わっても会社が継続するのは、会社のなかに良い文化があるからこそです。良い文化を次に伝えられれば、企業は継続する。ですから、継続性の観点から、企業は文化を持たなくてはならないのです。

NECの文化は「ビジョン」と「バリュー」

――では、NECの文化とはどんなものですか。

 NECは、2008年に「ビジョン」と「バリュー」を策定しました。

 ビジョンは、「人と地球にやさしい情報社会をイノベーションで実現するグローバルリーディングカンパニー」。これは10年後にこういうことを成し遂げたいというNECの姿を明確化したものです。

 そして、バリューとは、「イノベーションへの情熱」、「自助」、「共創」、「ベタープロダクツ、ベターサービス」という4つで構成され、企業理念を追求し、ビジョンを実現するためのNECの社員が実践する価値観と行動原理を示したものです。

 それらがNECの文化であり、財産だといえます。対話集会のなかでも、本当にビジョンとバリューを実現する活動ができているのか、それをみんなで確認しながら成長していこうという話をしました。また、対話集会では、事業を行っていく上では、2つの努力が必要であるという話もしました。

――2つの努力とはなんですか?

 2つの努力とは、「外への努力」と「内なる努力」です。

 外への努力としては、トップラインを伸ばすという言い方をしていますが、基本にある考え方は、NECがどれだけ社会に貢献できるのかということなんです。社会への貢献の大きさがそのまま利益に返るわけですから、多くの人に喜んでもらえたことが、結果としてトップラインを伸ばすことにつながる。

 一方で、内なる努力とは、事業の効率化を指します。この2つの努力は、片方だけをやるのではなく、常に両方をバランスよくやることが必要です。

 市況が悪くなると、売り上げがあがらなくなり、社内のコストカットばかりになり、内なる努力ばかりが進む。結果として、社会に貢献できなくなる。

 逆に景気が良くなると、今度は外にばかり注力して、内なる努力がおろそかになる。事業にばかり力が入りすぎると、自分たちをふかんして見ることを忘れてしまい、社会貢献という観点からビジネスしていることを忘れてしまう。これは事業ではありません。

 どんな時でも、外への努力と内なる努力をバランスよくやっていくことが必要なんです。

――事業ばかりに力が入りすぎるというのはどういう状態を指しているのですか。

 例えば、お客さまから仕様書をいただき、その仕様を具現化することがわれわれの仕事だと思っている人がいる。また、自分たちが持つ先進的な技術や、他社にない技術を入れ込むことが重要だと思っている人もいる。

 これは違うんです。社会に貢献するとはどういうことなのかを常に考えているならば、社会貢献の観点から仕様書の見直しを提案することも必要であり、また、お客さまがなにを欲しているのか、ということをとらえ、その観点から仕様を具現化しなくてはならない。

 仕様というのは、お客さまとの間で、結構もめることが多い部分なんですが(笑)、われわれが気をつけなくてならないのは、お客さまが仕様を書く時には、お客さまの側から書いているということなんです。なにを当たり前のことを言っているのだと言われるかもしれませんが、私たちがそれを読む場合には、往々にして、反対の立場から読んでいることが多い。

 もし、仕様書を透明な板に例えるのならば、お客さまが書いたものを、板の反対側から読んでいるのと同じです。ひとつの仕様書には2面あるということを理解しなくてはならない。

――反対側から読めば、当然、文字は逆に映りますね(笑)

 仕様通りにやってもお客さまが満足されない場合がある。仕様書には、書ききれない部分があり、それを理解するためには、お客さま側に立ち位置を変えないといけない。お客さまサイドから書かれたものを、反対側から見てインプリメント(実装)しても、必ずしもお客さまが求めたものにはならないのはそのためです。

 それは、お客さまの立場から仕様を読み込んでいないからなんです。ですから、仕様通りに開発することだけが仕事だと思っていては、社会貢献なんてできない。本当の意味で仕様を理解するというのは、お客さまの環境を知り、その立場に立って読み込むということなんです。

 私は以前から、「Strong Will and Flexible Mind」という言葉を使っています。特に、Flexible Mind(感受性)を高めることは重要な要素です。お客さまがなにを欲しているのかを想像し、それ感知するには、心の柔らかさが必要。プロセスがあればできる、というものではありません。仕様をお客さまの立場から読み込むというのは、心の柔らかさがないと無理です。ですから、NECの社員一人一人には高い感受性を持ってほしい思います。

 まだすべての社員には言い切れていないのですが、さらにこれを一歩進めて、「仕様書になる前の部分までお客さまを理解するということが必要」だということを言い始めています。

「痛くなる前にかゆいところに気がつく」のが本当のソリューション提案

――それはどういう意味ですか。

 ひとことでいえば、「痛くなる前に、かゆいところに気がつこう」ということです。痛いと思ったから、お客さまから欲しい仕様があがってくる。かゆい段階では仕様にはならないんです。その仕様にならない前に、かゆいところを見つけて、孫の手でかいてあげる。これが本当のソリューション提案ではないでしょうか。

 そして、ここまでできるようになると、技術の差別化だけでなく、社会貢献という観点からも他社と差別化できるようになる。先日、テレビを見ていましたら、ある地域家電量販店が、お客さまが各家庭で使用している家電製品の状況や間取りなどをすべて把握していて、いつごろになったら買い換えのタイミングになるのかを把握しているということを放映していた。

 つまり、もう一歩進んで、かゆくなる前に提案している。これには参りました(笑)。NECは、まだここまではできていませんね。

――2500人との対話集会を通じて、NECの社員は元気だと感じましたか?

 これまでにも矢野薫会長が、社長時代に2年間をかけて全国の拠点を回り、さらに経営企画部門がビジョンおよびバリューとはなにかということを、担当クラスの社員までを対象にセミナーを実施してきた経緯があります。

 その際に、NEC社内では「話し合いの時には、意見を否定するのをやめよう」ということを徹底してきました。意見に対して、「でも、それはねぇ」ではなくて、「なるほど、じゃあ、こうしたらどうなのか」という肯定から入ろうと(笑)。

 この意識変革は、さまざまな局面でポジティブな姿勢となって表れていると感じています。今回の対話集会でも、積極的な意見が出ましたし、私が思ったよりも、社員がポジティブな姿勢で仕事をしてくれていることを感じました。

その地域に根ざしたグローバルリーディングカンパニーへ

中期経営計画「V2012」の総括

――2010年度からスタートした中期経営計画「V2012」では、売上高4兆円、営業利益2000億円、当期純利益1000億円、海外売上高比率25%を目指す一方、「この中期計画は自己変革プログラムである」と位置づけていますね。この理由はなんですか。

 V2012は、数値目標として、極めて高い目標を掲げています。中でも高い目標ととらえているのは、海外売上高比率25%と、当期純利益で1000億円、ROE10%です。これらの目標はいまのままでやっていたら達成ができないのは明らかです。

 それならば、どういった自己変革をしかなくてはいけないのかを考えていく必要がある。自己変革は、いくら叫んでも簡単にはできるものではありません。どんな階段を作り、それをどう上っていくのかという具体策を示す必要がある。その設計を含めてやっていくという姿勢を示したのが、V2012で示す自己変革プログラムの意図です。

 トランスフォームという言葉に代表されるような外から見た変化ではなく、内側からの変革が重要な時期だととらえています。

――NECが変わるところはどこなのでしょうか。その一方で、変わらないところはどこでしょうか。

IT・ネットワーク統合事業の拡大を目指している

 NECのコア事業は、ITとネットワークであるということに変わりはありません。ただ、ITとネットワークの技術をコアにして、われわれが社会にどんな貢献できるのかという点では変化があると思います。

 これまでは、ITはITのビジネスとして、ネットワークはネットワークのビジネスとして社会貢献してきましたが、これからはITとネットワークを融合したビジネスをもっと加速させる必要があります。

 そのひとつの回答がクラウド・コンピューティングということになります。NGNによって、固定回線のブロードバンド環境が整い、ワイヤレス環境においても、WiMAXやLTE、Wi-Fi、フェムトセルによって、ブロードバンド化が浸透してきた。

 こうした環境の下に、NECは、ITとネットワークが融合したサービスとして、C&Cクラウドという形で提供する。NECには、ITとネットワークの共通プラットフォーム、ミッションクリティカル&リアルタイム、ユビキタステクノロジー、グリーンテクノロジーという4つのコアテクノロジーがある。これらを融合したC&Cクラウドとして展開をしていくことになります。

 一方、クラウド・コンピューティングのほかにも、グローバル化への取り組み、エネルギー事業による新規事業展開といった点もNECが変化するという意味では大きな要素だといえます。

 一昨年度に、1185億円の増資を行い、そのうち800億円を開発投資とし、400億円をIT関連に、200億円をネットワーク関連に、そして、残り200億円を新規事業であるエネルギー事業に投資していました。将来に向けた投資をその時点で行えたことには意味があります。

――グローバル化という点では、NECでは、V2012の先にある、2017年度の姿として、海外売上高比率50%という目標を立てていますね。2009年度実績で海外売上高比率は20%。これまで長年にわたり、NECを取材してきた立場から見ても、海外売上高比率50%という姿は想像できないのですが。

 確かに想像しにくいかもしれませんね。これまでは社会貢献の仕方もドメスティックが中心であったわけですから。

 しかし、ここでグローバルに目を向けて、社会貢献の幅を広げていかなくてはならない。海外売上高比率50%というNECの姿については、私は、すでにイメージができあがっている。いや、むしろ、50%という数字自体が中途半端だとさえ思っている。

 NECが「人と地球にやさしい情報社会をイノベーションで実現するグローバルリーディングカンパニー」といった時に、最低でも75%は海外売り上げでないといけないとさえ考えている。

 日本には約1億人の人口しかいないわけですから、全世界60億人の人口比率からすれば、60対1の売り上げ構成比が、本来のグローバルリーディングカンパニーの条件ではないでしょうか。

 そうはいわなくても、例えば、ノキアは、約500万の人口しかいないフィンランドで創業し、60億人を対象にビジネスを行い、年間4億台もの端末を売っている。彼らは明らかにグローバルリーディングカンパニーです。

 私は子供のころから、ネスレ(ネッスル)は日本の会社だと思っていました。まさか欧州の会社だとは思わなかった(笑)。グローバルリーディングカンパニーというのは、ネスレのように、海外に本社があるということが意識されずに、その地域にしっかりと根ざすということだと思うんです。NECが、75%の海外売上高比率となった時には、日本の会社だということが意識されなくなる「境界線」に達することになるのではと思います。

――NECのNが、NipponのNであるという意味を知らない人が世界で出てくるでしょうね(笑)。

 それがいつごろに訪れるのか、具体的にはわかりませんが、決して「ゆっくりと」というわけではない気がします。

 ノキアが、何年でグローバル化したのかというと、わずか5年ぐらいだと思います。世界最大の電機メーカーである韓国サムスンも、わずか3~5年でグローバル化している。もちろん、BtoCビジネスを主軸とするこれらの企業と、BtoBが中心となるNECを直接比較することはできません。

 しかし、グローバル化とは、何十年もかかってやるものではなく、かなりの短期間でやるものだというのも間違いない。NECは、これまではドメスティックカンパニーでしたが、海外にも社会貢献の幅を広げることは、常に考えていく必要がある。グローバルに喜んでいただけるわれわれの技術、ノウハウを生かすことができれば、できないことではないと考えています。

――グローバル化する上で、どんな体制を整えていきますか。

グローバル市場の拡大に向けた施策

 これまでのグローバル展開は、技術を前面に打ち出したプロダクトによる展開だった。大きな需要に向けては展開するが、それが終わると日本に戻ってきてしまう。点であり、線の展開でしかなかった。

 しかし、これからの展開は、その土地において、足が地についた、あるいは根がはったビジネスをやらなくてはならない。いわば面としての展開です。例えば、各地域にコンピテンスセンターを設置し、ファイナルのカスタマイズも現地でやっていくといった体制づくりがそのひとつです。

 NEC JAPANが前に出るのではなく、現地の拠点を中心に展開する一方、プラットフォームの基本的な構造はNEC JAPANで考えるという体制を確立していきます。北米、EMEA、APAC、中華圏、中南米という5極体制を敷き、社長は日本人だが、その下にいる社員を現地の人たちで構成し、それぞれの地域の社員が持つ感性により、地域でソリューションを作り上げ、地域でソリューション展開をしていく。

 そのなかで、グローバルビジネスの拡大においては、クラウドは大きな武器になると考えています。

NECのクラウドにおける強みは「ITとネットワークの融合」

――NECにおけるクラウド・コンピューティングの強みとはなんですか。

 ひとことでいえば、ITとネットワークの融合を、長い時間をかけて進めてきたことではないでしょうか。

 1977年に、当時の会長である小林宏治氏が、「C&C(コンピュータ&コミュニケーション)」を提唱して以来、30年以上の歴史があります。この長年の蓄積によって、ITとネットワークの融合という際に、お互いが緊密に話し合える距離感を持ち、One NECとして、話ができる状況ができあがっている。

 この関係は、そう簡単に構築できるものではない。仮にITの会社が、ネットワークの会社を買収しても、すぐに融合できるわけがありません。私たちの経験から言ってもそれは断言できます。ITとネットワークでは使う言葉も違います。それぞれの言葉を、お互いがちゃんと理解をして、ひとつのものを作り上げようとすると、社内の文化が融合していないと無理です。その点でNECは強い。

 また、ITのお客さま、ネットワークのお客さまという顧客資産があることも強みです。

 クラウドは、ITとネットワークの融合によって実現されるものですから、言い換えればクロスセルができるサービスともいえます。スペインのテレフォニカの例もそうですが、これまではネットワークのお客さまとしてお付き合いしていたものが、SaaSの基盤システムを受注し、中南米におけるクラウド事業の共同展開を行うことにも合意した。これは、同じようにほかのキャリアにも面展開ができる。

 一方で、ユーザー企業に対しても、従来のボイスを中心としたネットワーク提案から、クラウドへのアップグレード、ソリューションを含めた提案ができる。このように、多くのアセットを持つことでのクロスセル、ITとネットワークを持つ融合の仕方というのが、クラウド時代には大きな強みになると考えています。

 また、クラウドによって提供されるソリューションでいえば、指紋認証、画像認証などの技術も重要であり、これらもNECの強みとなる。データを取り込むためのセンサー技術も同様です。センサーは、これからのクラウドを支えるためのキラーツールだと理解しています。NECはそれらをすべて持っており、そこに強みがある。

 さらには、NEC自らが、信頼性が高いクラウド型の基幹システムを構築し、その成果を展開できるという点も大きな強みです。すでに経理系での活用が始まり、2010年10月からは、営業系、購買系にもこれを展開し、グローバルで活用することになる。

 この導入において、トータルコストで20%の削減を実現し、業務プロセス改革による経営のスピードアップといった効果が出ている。これは、海外に進出する日本の企業にも有効な手段として提案ができます。

――NECでは、2012年度にクラウド・コンピューティング関連ビジネスで1兆円を目指す計画を明らかにしていますね。それに向けた駒はそろっていますか。

 基本的にはそろっていると考えています。あとは、これらを横ぐしにしたソリューションをどう作り上げていくか、ソリューションを作るための種を、世界の各地域から拾い上げることができるかが重要になってくるでしょう。

――クラウド・コンピューティング時代におけるPC事業、携帯電話事業は、どうとらえていますか?

 これは簡単には語れるものではありません。ただ、いまのビジネスの状況だけでとらえることは考えていません。

 クラウド・コンピューティングの世界では、PCや携帯電話の技術を活用した端末が、入出力のインターフェイスになるのは明らかです。一方で、NECにとっては、BtoCとしてエンドユーザーに直接コンタクトできる製品は、これしかないという状況もしっかりととらえる必要がある。そうしたものを含めて、PC事業、携帯電話事業を総合的に考えなくてはいけない。

 ただ、クラウドに最適化したインターフェイスは、いまの携帯電話の形でも、いまのPCの形でもないだろう、という思いはあります。iPadは、まさにその中間領域の製品ではないでしょうか。ワイヤレス環境において、PCと携帯電話の技術、さらにはセンサーの技術を融合したような製品が、クラウド時代の端末として最終形態に近いものともいえます。

 一方で、これからは、サービスドリブン型の端末が出てくる可能性もある。携帯電話は、キャリアが自らのネットワークを使ってもらうための端末として製品化されてきました。しかし、クラウド時代になり、このサービスを利用するには、この端末が必要だといったサービスドリブン型の端末が登場する可能性がある。

――サービスドリブン型の端末とはどういうものですか。

 読みやすい、使いやすい、アクセスしやすい、データをリアルタイムで扱えるといった端末の機能を生かしたサービスが利用できるなど、さまざまなサービスを、ネットワークやアプリケーションを通じて利用する端末です。

 このなかには、特定の企業の、特定の目的のための特殊端末も含まれます。キンドルのように、本をいかに売るかを目的に考案された端末も、サービスドリブン型端末といっていいでしょう。

 また、センサーと組み合わせて、自らの健康をチェックし、それに最適な指導をしてれる端末が登場するかもしれない。

 サービスドリブン型の端末は、一気にドライブする可能性もある。これまでは、端末そのもので収益を確保するビジネスモデルでしたが、クラウド時代は、それを考えなおす必要がある。

 音声中心の端末を持っていながら、データ中心の端末は、別のものを所有しようというユーザーの動きも出ていますから、この流れでクラウド時代には別の端末が必要だという認識が広がれば、そこに新たなビジネスチャンスが生まれる。そこでNECはなにができるのか。新たなビジネスモデルと、新たな端末の創出に、PCと携帯電話の技術を生かすことができると考えています。

 いずれにしろ、PCが持つデータを扱う技術、そして携帯電話が持つ携帯性を実現する各種技術は、クラウド時代の新たな端末の創出において、キラーツールになると考えています。

――そもそもNECでは、クラウド・コンピューティングの世界によって、社会がどう変化すると見ているのですか?

 クラウド・コンピューティングによる最大の変化は、社会への貢献の仕方が大きく変わるという点です。クラウド時代の特徴は、ある事象、現象、事実を、電子データ化し、それ活用できるようになる点です。

 例えば、紙の情報は、そのままだとアプリケーションソフトでは活用できない。しかし、電子データ化するとアプリケーション上で、さまざまな分析ができるようになる。これと同様に、これまでは電子データ化できなかった現象などを、センシング技術を使って電子データ化し、それらを組み合わせると、物事の理解の仕方が変わり、そこに新たなソリューションが生まれることになる。

 車の速度やブレーキの頻度、走行ルートなどの情報が収集できれば、その上の交通システムというレイヤーにおいて、信号をコントロールし、渋滞をなくすといった解決につながる。しかも、渋滞が無くなれば、無駄なエネルギーが減り、二酸化酸素の減少にもつながる。

 一方で、医療分野では、個人の健康に関するデータを電子化し、そのデータに変化が見えた場合に、正常にするにはどうすればいいかという提案が、クラウド端末を通じて提案できる。予防が可能になり、結果として医者が足りないという現状を打破できるかもしれない。

 さまざまな社会の仕組みが効率化し、これまでかかっていた費用を削減するといったこともできる。このように電子データから、未来を予測する仕組みがクラウドによって実現されるわけです。

 ここにクラウド・コンピューティングの価値がある。IaaSとか、PaaSか、SaaSというような領域だけでとらえるのではなく、社会全体としてどんな効果があるかといった視点から、いままでにはできなかった解決策を、サービスとして提供できるようになる。スマートグリッドも、クラウドによって実現される新たなサービスのひとつだといえます。

手にとってもらうためには「ダントツ」が大切

――ところで、先日の事業方針説明会で、遠藤社長は「ダントツ」という言葉を使っていましたが、この言葉はどんな意図から使ったものなんですか。

 実は、ダントツという言葉は、私が2003年4月にモバイルワイヤレス事業部長に就任し、マイクロ波通信装置「パソリンク」の事業を担当して時に使い始めた言葉なんです。2003年9月ごろから使っていますよ。

 事業はどうあるべきかを考えた時に、やはりビジネスのトリガーはお客さまなんです。私も開発出身なのでよくわかるのですが、あるプロジェクトで開発が終わると、「あっ、おれの仕事が終わったな」と思ってしまう(笑)。

 しかし、それは間違いです。製品は、お客さまに買ってもらってからが始まりなんです。製品は、売るものではなく、買ってもらうものです。「売る」といった途端にプロダクトアウトになる。なぜ、こんなにいい技術を、プロダクト、サービス、ソリューションに組み込んだのに売れないのかという議論になることがある。「売れない」のではなくて、「買っていただけないから売れない」のです。

 仮にNECというリンゴがあって、他社が作ったリンゴも一緒に店頭に並んでいるとします。そこでNECというリンゴに手を出してもらうには、NECというリンゴが光っていなくてはならない。選ぶ前に、おいしそうだ、と思ってもらわなくてはいけない。そのためには「ダントツ」でなくてはならないんです。

 品質がダントツだとか、パフォーマンスがダントツだといか、なんかしらのダントツ性がないと手にとってはいただけない。だから、ダントツが大切なんです。

――いま、NECにはダントツな製品はどれぐらいありますか。

 なにをもってダントツというのかは、製品によって異なりますが、いまお客さまに選んでいただいている製品は、その製品が持つダントツ性を評価していただいていると思っています。

 ただ、グローバル化していくには、グローバルのお客さまに「NECはいいじゃないか」と選んでいただくためのダントツ性が必要。それをもっと高めていかなくてはならないですね。

 グローバルに戦える製品は、まだまだNECのなかには少ない。パソリンクはそのなかでもダントツ性を持った製品だといえます。

――1年後、NECのどんなところが評価されたいと考えていますか。

 やはり社会へのコントリビューションの範囲が増えたということでしょうね。NECから数多くのソリューションが提供され、それに対して、お客さまから使い勝手を含めて高い評価をもらい、社会への貢献度が高まったという点で評価されたいですね。

 ぜひ、その観点から、NECの1年後の進化を見ていただきたいと考えています。

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